異世界隠密冒険記

リュース

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第三部「全能神座争奪戦」編

生き残った者と再会

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 クロトの発言が衝撃的過ぎて、アンジェはしばし絶句。
 シロナも聞かされていなかったので驚いたが、こちらは直ぐに納得した。


「・・・・・・え? 生きてるって、誰が、どうして―――」

「アンジェ姉さんっ!!」


 そんな時、キャンプ地の入口から、アンジェの聞き覚えのある声が響いた。


(この、声・・・嘘、嘘でしょう!?あの子はあの時、確かに・・・!)


 遠目ではあったが、確かに潰されるのを目撃したはずの存在。
 それは、自分を逃がすために囮になった、愛する妹。

 聞き間違えるはずもなかった。

 やがて、何者かに背負われた状態である声の主が、三人の居る場所に姿を現した。


「姉さんっ!!」

「エア、リス・・・なの?」

「そうだよっ!姉さんの妹のエアリスだよっ!!無事でよかったっ・・・!!」


 その女性エアリスは、痛む体に構いもせず、背から降りてアンジェに飛びついた。

 アンジェはしばし呆然としていたが、状況を理解した途端エアリスを抱き締めた。


「バカっ!!あんな無茶な真似をしてっ!!どれだけ心配したとっ・・・!」

「ごめんなさい、姉さん・・・。でも、私、姉さんに死んでほしくなくて・・・!」

「私こそごめんなさいっ・・・!あなたにあんなことをやらせて・・・!」

「ううん、あれは私が勝手に―――」


 二人は再会に喜び、謝り、許し・・・そして、気が済むまで嬉し涙を流した。

 エアリスを背負ってきた存在、すなわちクロトの魔法存在は、役目を果たしてその姿を消した。消える際の表情が笑顔だったのは、きっと気のせいではない。


「クロトって何だかんだでツンデレだよねぇ~?」

「・・・意味が分からないね。これも合理の内というだけだよ。」

「あははっ、照れちゃってもう・・・可愛いなぁ! そういうクロトのこと、私は心底大好きだよっ!」

「はぁ・・・鬱陶しい。」


 再会した二人が抱き合う傍で、クロトもシロナに抱き着かれていた。
 クロトは鬱陶しそうにしながらも、シロナを拒絶はしなかった。

 このままでは近所迷惑なので、再び音声遮断を行ったクロトなのであった。










 結局のところ、どういうことなのか。

 アンジェは確かに、エアリスが叩き潰されるのを見た。
 遠目ではあったが、振り下ろされた拳に潰され、血しぶきが待っていた。

 これのタネは簡単で、潰されたのが魔法存在だったということだ。

 初めから説明すると、こんな感じ。

 第一に、轟音を聞きつけたクロトが<魔法存在>を二回使用する。
 第二に、予想通りの場所にきたエアリスを潰される直前に落とし穴に落とす。
 第三に、直前に入れ替わった魔法存在が穴に落ちる彼女を庇って潰される。
 第四に、落とし穴兼脱出穴に待機していたもう一人の魔法存在が彼女を救出。
 第五に、足を挫いていた彼女を治療しつつ背負ってキャンプまでやってくる。

 落とし穴は狭くて鬼が侵入できない上に、迷路のように入り組んでいる。
 敵に仕留めていないと気づかれても、諦めるしかないわけだ。

 敵の目はクロトとシロナ、そしてアンジェに引き付けられていたので、遠回りにはなったが無事にキャンプ地に辿り着けたのである。


「「本当に、ありがとうございました・・・!」」


 凡その説明を聞かされたアンジェとエアリスは、二人揃って深々と頭を下げた。

 ちなみに、自慢げに説明したのはクロト・・・ではなくシロナだ。
 クロトは説明などする気が無かったので仕方のないことだが。


「・・・どういたしまして。でも、こちらとしても打算あってのことだから、感謝する必要はないよ。」

「―――とかなんとか言ってるけど、クロトはツンデレだから・・・ってアイアンクローはやめてえっ!?」

「余計なことを言うのはこの口かな・・・?いっそのこと塞いであげようか?」

「口を塞ぐ・・・なんか卑猥な響きだね! クロトの恋人に言い付けて痛い痛いっ!!今回は冗談抜きで痛いよっ!?」


 クロトはいつになく本気でアイアンクローを喰らわせた。
 割と笑えない類いの冗談だったので仕方なかろう。

 だが、その会話に驚いた人物が一人。
 二人のやりとりをずっと見ていたアンジェであった。


「あの・・・お二人は恋人ではなかったのですか?」

「シロナが恋人・・・無いね。」

「クロトが恋人・・・あり得ないねっ!」


 クロトとシロナは顔を見合わせた後、清々しい程にキッパリと否定した。
 二人とも、本気でそれはあり得ないと思っているようだ。

 アンジェは驚きのあまり目をパチクリさせるのだった。




「それはさておき。遺品回収依頼についてなんだけど・・・僕たちに払う報酬についてはもう決めているかな?」


 クロトはアンジェにそう尋ねたのだった。

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