異世界隠密冒険記

リュース

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第三部「全能神座争奪戦」編

アンジェリカと救助

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 クロトは<深紅鬼>の素材の中で一番価値が高いという<深紅の鬼角クリムゾン・オーガホーン>と、それに並んで価値が高い<深紅筋繊維クリムゾン・マッスル>を別に分けて収納した。
 その他の素材も適当に解体し、収納。


「―――さて、と。今の鬼がここに生息する基本の個体だとすると、中々大変な探索になりそうだね。次からはもう少し上手く戦えるといいんだけど・・・。」

「うん、それは私も同感なんだけど・・・やっぱり轟音は無視なの?」


 ドゴオオオオオオオオッ!!


「―――別に無視している訳ではないんだけど、取り立てて気にする必要もないよ。」

「いやいやいや、どんどん近づいて来てるから対応を決めないと・・・なるほど。」


 クロトは言うより見せる方が早いと考えて、コートから<欠片>を取り出した。
 それによって、シロナは納得。

 何故なら・・・現在進行形で<欠片>の色が濃くなっているのだから。

 つまり、だ。


「どのみち一度は接近する必要性が高いから、考えることは敵の正体くらいだね。」

「大変よく分かりましたっ! ・・・でも、この辺りにこんな轟音をたてる魔物なんて居たかなぁ・・・?」

「シロナが知らないということは、やはり何らかの魔物が<欠片>を取り込んでおかしな風に作用していると見た方がよさそうだね。」


 厄介なことになったと思いつつ、クロトはそんな結論に至った。

 重要なのは、そんなことが可能なのか、ではない。
 可能だと推定して、その先を考えることだ。


(ただ、全能神の権能がどんなもになのかさえ分かっていない以上、行き当たりばったりな部分はどうしても増える。そのリスクは許容するしかない、か。)


 本来なら、十分に情報を集めてから手を付けたいところであるクロト。

 だが、事は急を要する上に、欠片に宿った権能のことなど現段階では知りようもないのだ。ならば、リスクをとって戦い、倒すしかない。


(・・・捉えた。生命反応は三つ。一つが二つを追いかける形。前者は魔物で後者は人間・・・と、一人死んだかな。となると・・・まずは生存者の確保か。)


 クロトはユニークスキル〖神の瞳〗で接敵反応を捉え、行動を修正。


「シロナ、行くよ。」

「あいよーっ!」


 その一言で意志の伝達を行い、二人は動き出した。



 ▽▽▽



 アンジェリカ・エレヴィノアは、その心と体に鞭を打って全力疾走していた。


(みんな、みんな死んだっ・・・! 私を庇って!! ごめんなさいガーランド!ごめんなさいウィルハイム!ごめんなさい・・・エアリスっ!!)


 ここ、<深紅>地区の入口近くまで逃げてくるのに、彼女のパーティーメンバー三人は全員死に至った。

 ウィルハイムという男性は、化け物の一撃から三人を庇って。
 ガーランドというリーダー兼恋人は、二人が逃げる時間を稼ぐ為に足止めをして。

 そして、妹であるエアリス・エレヴィノアは・・・・・・


(何が、「姉さんは生きて」ですかっ!! 犠牲になるなら、あなたの姉である私の役割だったのにっ・・・!!)


 アンジェを逃がすために囮になって、化け物の注意を引いた後、キャンプとは逆方向へ走り始めたのだ。

 彼女がそれに気づいた時には既に手遅れ。
 可愛い妹が叩き潰されるのを、遠目で目撃してしまった。


 そして今、そんな妹の頑張りも虚しく、彼女に凶手が迫っていた。


 ゴガアアアアアアアアッ!!


「っ、あ・・・・・・」


 怒号に振り向いたアンジェは見た。

 深紅鬼に似たナニカが、少し離れた場所で腕を振りかぶっているのを。
 それは、仲間であるウィルハイムを殺した飛ぶ一撃。

 アンジェは、せめて自分を生かしてくれた仲間や妹に誇れる死に方をしようと、一矢報いるために杖を構えて・・・。






「―――『白天の飛刃』っ!!」

「・・・グガ?」

「・・・え?」


 横合いから飛んできた飛ぶ斬撃が鬼にヒットし、鬼の一撃が中断された。

 しかし、その攻撃をした存在は見当たらず・・・


「・・・んっ!?」


 突如、何者かに口を塞がれることとなった。


(何っ!?この感覚は人の手っ!?でも、どこにも姿なんてっ・・・!?)


 咄嗟に口を塞いだのが手だと判断したアンジェだが、それ以上の思考はできなかった。全身を抱き抱えられ、その場から高速で移動させられ始めたのだ。

 アンジェが身の危険を感じて何とか拘束を外そうとすると・・・


「静かにして暴れないで。奴に見つかる。敵ではないから安心して。」


 耳元でそんな声が聞こえてきて、暴れるのをやめた。

 そう簡単に人を信じていては、命がいくらあっても足りない。

 だが、どのみちあそこで無くしていたはずの命。
 それならば自分を助けて連れ去ろうとしているを信じてもいいのではないかと思ったのだ。


 そうして、アンジェは鬼からどんどん遠ざかり、安全圏まで逃げおおせた。

 自分を抱き抱えていたのが男性だと分かって慌てるまで、あと数分のことである。

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