異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

閑話 とある秘書の憂鬱

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 スイレン視点


 私、スイレンはミカゲ財閥会長秘書であり、財閥のナンバースリー。
 ナンバーツーは上司としての自覚が無いので、実質は私がナンバーツーになる。

 創世神感謝祭が終了して少し暇になるかと思いきや、現在大変忙しい。


「スイレン様、王城よりリオン殿下がお越しです!」

「・・・すぐに行くから、最上級応接室で五分だけ待ってもらって。」

「かしこまりました!」


 部下の男が返事をして、その場を後にした。
 優秀な男なので、少しだけ視線に熱がこもっていることは見て見ぬ振りをする。
 感謝祭での演奏以来、あんな感じだ。
 あれは失敗だったかもしれない。

 でも、あの時間は仕事以外で初めて幸せを感じて・・・今は考えるのをやめよう。
 冷静さを欠きかねない。

 本来なら第一王女を待たせるなど正気の沙汰ではないが、今は時間が無い。
 手元にあるこの書類だけは片付けなければ、後で困ったことになる。

 彼女なら怒りはしないと思うけれど、最悪は会長から預かった極秘情報を使おう。







 急ぎの仕事を片付けて応接室へやってきた。
 ノックをして中へ入る。


「失礼します。お待たせいたしました、リオン殿下。」

「それほど待ってないから大丈夫。それに、凄く忙しそうだし、仕方ないよ。」


 殿下は中性的な服装をしているが、髪形も合わせれば女性だと直ぐにわかる。
 以前は男性的にしていたのだが、随分変わったものだ。

 これも、クロト会長の影響なのだろう。


「お気遣いいただきありがとうございます。本日はどのようなご用件でしょうか。」

「別に敬語は要らないんだけど・・・まあいいか。今日は、彼の件でね・・・。」


 予想はしていたが、やはり会長の件だった。
 ・・・いや、前会長と言うべきかもしれない。

 彼はもう、世界のどこにも、居ないのだから。


 ミカゲ財閥前会長、クロト・ミカゲは、感謝祭が終了した後、忽然と姿を消した。

 創世神様を地上へ連れ出し、神界へ送り届け、それっきりだ。
 あれ以来一度も連絡が無いし、生きているのかさえ不明となっている。

 緊急時の規定に基づき、私がミカゲ財閥の会長に就任。
 前会長の穴を埋めるべく仕事に奔走している。

 前会長が自分抜きでも財閥が回るようにしていた為、世界への影響は少ない。
 だがそれでも、財閥幹部は目の回るような忙しさに追われている。

 私自身、昨日は碌に寝ていない。
 この忙しさと仕事の難易度は、私が追い求めていたもののはず。

 なのに、どうしてこんなにも、空虚なのだろうか・・・。
 彼一人居ないだけで、何故ここまで、仕事に魅力を感じないのだろうか・・・。

 いつの間にか、私の大事にするモノは変わっていたようだ。
 今の私に重要なのは、どんな仕事をするかではなく・・・誰と仕事をするか、だ。


「まず、これから起こるかもしれない混乱と、その対策についてから―――――」









「―――――という訳で、影響は最低限に抑えられるはずです。」

「ん、それを聞いて安心したよ。王城の方には私から伝えておくね。」

「助かります。私が説明に赴く時間も惜しいものですから。」


 クロト前会長のいいつけ通り、リオン殿下には全ての事情を説明した。
 一般には伏せられている情報も含めて、だ。

 彼女は難しい内容を直ぐに理解して、質問も挟んできた。
 以前のようにどこか頼りないリオンという存在は、もはや欠片も無い。


「でもね、どうして申し送り事項でまで私を揶揄うのか聞いてもいいかなっ!?」

「私に聞かれましても困ります。」

「うん、知ってる!」


 訂正。頼りなさは、殆ど存在しない。
 元々の性格故か、少しは残っている。

 だが、それもいいアクセントになっている。
 照れて頬を染める姿は、男女関係なく需要があると思われる。


「あ、それでね、しばらくは僕もこっちの仕事を手伝うよ。」

「・・・王城の方はよろしいのですか?」

「うん。一通り終わらせた後は父上に任せられるから、大丈夫。」


 難易度の高い仕事を任せられない・・・とは、口が裂けても言えない。

 財閥幹部のような尖った才能こそ無いが、今の彼女はオールラウンダー。
 私のサポートについてくれれば、非情に助かる。


「まあ、クロト君の劣化版でしかないのが申し訳ないところなんだけどね。」

「いえ、あの会長から「自らの劣化版」と評価されるのならば、十分です。」

「そうなの、かなぁ・・・?」


 自覚は無いようだが、十分に凄い・・・いや、異常なことである。

 あのクロトという存在の劣化になれるなど、他の誰にもできないことだ。
 あれは、真似して出来るようになるものではないのだから。

 私とて、彼の劣化版を演じることは不可能に近い。
 だからこそ、これほど忙しい時間が続いているのだが。


「生憎、クロト君と同じ道を辿ってみただけだから、あまり自覚が無くて・・・。」

「ですが、それがクロト会長も認めた、貴方にあるなのでしょう?」

「・・・うん。これが、僕の進むべき道で、到達点の片鱗、だと思う。」


 自信なさげではあるが、確かなナニカを見据えているように見えるリオン殿下。
 これが話しに聞く、凡人の中に隠された最後の扉というものなのでしょう。

 才能ある者では決して辿り着けない場所。
 才能無き者が運に恵まれ、己の全てを捧げて辿り着けるかもしれない境地。

 存在しないはずの才能を、理を曲げて概念として生み出す、終極点。

 それが・・・前会長曰く、最後の扉。

 リオン殿下に宿った最後の扉は・・・差し詰め、「模倣」の概念か。

 クロト前会長の「思考」。
 彼が話していた「幸運」。
 そして彼女の、「模倣」。

 どれも、才能のある私では至れないものだ。

 ・・・彼女の瞳から慌てて目を逸らした。
 彼を意識した彼女は、会長に似すぎている。
 
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