異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

閑話 シロナの予感

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 日向白奈ひゅうが・しろなという人間は生まれたときから幸運だった。

 何不自由なく育ち、何をするにも不自由しなかった。

 大抵のことは、願うだけで運よく叶ってしまうからだ。


 もし人間がそんな状況に置かれたら、その結末はきっと悲劇になるのだろう。


 どんな願いでも叶うが故に分を弁えずに暴走して、その幸運によって殺される。

 もしくは、どんな願いでも叶ってしまう世界に失望して、自ら死を選ぶか。


 死んだ方が幸せだと思ってしまえば、幸運は宿主に避けられない死を運ぶ。

 運というのは本来、融通の利くものではないのだから、ある意味当然だ。

 何でも願いが叶う程に幸運でも、それは運に振り回されているに過ぎない。

 主導権は運そのものにあり、宿主にはないということだ。


 歴史上、天に愛された運、天運を持つ者は、僅かではあるが存在した。

 神話やら何やらに記されている者の一部がそうだ。

 他にも、英雄と呼ばれる存在の一部もそうだろう。

 そしてそういった者たちは例外なく、悲劇で人生を終えている。


 だがしかし、日向白奈は違ったのだ。

 幸運を喜ぶでもなく、幸運を嘆くでもなく・・・幸運を従えようとした。


 決して意図した訳ではなかったのだが、それが彼女の運命を変えた。


 従えることこそできなかった。

 だが、運という概念と対等に付き合うことができるようになった。

 結果は操れないが、方向性は操ることができるようになった。


 例えば、お金が欲しい、と願ったとしよう。

 運に振り回される者は、途中の過程を想像できない故に、結果の身手に入れる。

 逆に、運と対等に付き合う者は、途中の過程も手に入れる。

 分かりやすく言えば、一石二鳥を狙えるということだ。


 従えていると言えないのは、ありとあらゆる過程を把握できる訳ではないからだ。

 白奈にそこまで優秀な頭脳はなかったので、これは仕方がない。


 勿論、彼女はそこらの一流大学生よりかは何倍も頭が良かった。

 ただ、身近に黒斗が居た為に、頭脳派ではないという自己認識があった。





 白奈は黒斗という存在に出会い、自己中心主義を理解した。

 黒斗は白奈という存在に出会い、自己犠牲精神を理解した。


 己と対等である相手と出会うことで、欠けていた部分が補われた。

 二人はこの時を切っ掛けとして、超人へと進み始めた。


 当然の如く、二人は親友となった。

 また、親友という存在が何よりも特別なものとなった。

 そこに恋やら愛があったのかは、誰にも分からない。



 そして、白奈が事故で死亡した。










「―――ふあぁぁ、よく寝たなぁ・・・。向こうの夢は久しぶり、でもないか。」


 白髪黒目の女性シロナは、アウターワールドのとある場所で目を覚ました。

 その外見は二十歳前後であり、不思議と健康的に見える白髪を弄っている。

 肩口まで伸びる髪は朝日を浴びて輝いており、白金色にも見える。


「ありゃりゃ・・・変な格好で寝たからか、寝癖がついてるや。」


 乙女として失格だなぁ、と言いつつも、すぐには直そうとはしない。

 彼女にとって、髪形は然程重要ではないのだろう。

 それでも、顔の前に掛かる分は邪魔なので横に流したが。


 彼女が顔に掛かっていた髪を弄ったことで、隠れていた素顔が露わになった。

 そこには、十人中七人が美人だと言うであろう顔があった。

 要するに、上の下、もしくは上の中、といったところか。

 とにかく、絶世の美女という程でないのは確かだ。


 身長は百六十五センチメートル前後であり、スラッとした体形。

 肌は色白であり、シミ一つなく綺麗だ。


 胸は標準サイズか、それより少し大きい程度。

 だが、装備の隙間から覗くその白さは、多くの人を魅了するだろう。


「んんっ、今日はどうしよう。またオレンジエリアにでも行ってみようかな?」


 そんな独り言を、伸びをしながら零した。

 彼女にも目的は幾つか存在するのだが、それは急いでやることでもない。

 いや、中にはそこそこ緊急のものもあるのだが、それは神の時間間隔で、だ。

 白天神であり運命神(仮)でもあるシロナの寿命は、人間とは比べるべくもない。


 外側の世界は幾つかの領域に分かれているのだが、オレンジエリアもその一つ。

 先日シロナがクロトを門の向こうで見掛けたエリアである。


「また黄昏の門に来ないかな?うーん・・・多分来ないよね。残念。」


 オレンジエリアに行くという考えをあっという間に覆した。

 合理的に考えて、なおかつ勘に従った結果だ。


「・・・・・・ん?これは、何か、とんでもないことが起こる予感。」


 シロナは近いうちに何か大きなことが起こるような予感がした。

 ともすれば、内側と外側、どちらも巻き込んだ出来事が。

 そして、それに自分も巻き込まれるだろうという気がした。


「・・・ふふふっ。あははははっ・・・!何か、クロトに会える予感がするっ!」


 そのシロナの予想は、この翌日に的中することとなる。





「あああああっ!予感してしまったせいで我慢が出来なくなった・・・!クロトっ!君に早く会いたいよっ!再会できたら・・・一緒にやりたいこと、沢山あるんだからさっ!」


 シロナの心の底から絞り出された色気のある叫び声。

 引き寄せられてやってきた敵がハイテンションシロナ狩られるまで、あと十秒。

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