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第二部「創世神降臨」編
エピローグ26
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クロトがアリスという人物と初めて会ったのは、深淵の森の一件だ。
森の調査を依頼し、その調査報告を聞くときに始めて邂逅した。
とても優しそうで、でも、深層心理は決して悟らせない、二十代の綺麗な女性。
それがクロトの認識だった。
人の心の内を察することが得意なクロトからすれば、警戒の対象であった。
だが、何度も接している内に、どれだけ心を覆い隠していても分かることが一つ。
すなわち、アリスという人間が真に心優しい人間なのは確か、ということだ。
だからクロトは警戒心を薄め、友人として付き合うようになったのだ。
それでも警戒心を僅かに残していたのは、優しくても敵になり得るからである。
単なる保険でしかなかったその行動は、今こうして実を結んでいる。
クロトはアリスに、重要な情報は何一つ漏らしていなかったのだから。
そして、今でこそ気づけることがある。
(アリスさんを二十代の綺麗な女性としか認識してなかったんだけどな・・・。)
クロトの目の前に居るアリスは確かに二十代程に見える綺麗な女性だ。
だが、その特徴的な銀眼をまるで気にしていなかったなど、明らかにおかしい。
百歩譲って、その茶髪に一部銀が混ざった髪色を見逃したとしても、だ。
つまり、思考を誘導されていたということになる。
(案外、警戒心を解かなかったのは、そのことを本能的に理解していたからかも。)
そう思い始めたところで、更に一つのこと二気づいた。
それは・・・一度もアリスを解析しようとしなかったことである。
警戒心を持ちながらも解析しないなど、それは異常な事態だと言える。
失礼だから解析しない、というのはクロトが元々持ち合わせていた主義。
思い返してみれば、アリスと会った時を境にその感覚が強まった気もしてきた。
だとしたら、どこまで誘導した結果なのかということになり・・・。
「アリスさん、僕の自惚れで無ければ、結構好かれていたと思うんですが・・・。」
「あれはっ、記憶が封印されていたのだから忘れて頂戴っ!」
「なるほど。そっちの黒ローブはそういう術も仕える、と。」
「あっ・・・もう!これだからあなたは化け物だと言われ痛っ!?」
口を滑らせたアリスの頭に、黒ローブが拳を落とした。
何気に、レベル100を超えていなければ一撃死するくらいの威力だった。
「そして、そういう意味で好意を持たれていたのも確定、と。」
「だからっ、あれは忘れて頂戴と言っているでしょう!?」
「やっと心のつかえがとれた。アリスさんの感情は何故か読めなかったからね。」
話が通じてるようで通じていない。
なお、アリスは未だに涙目で頭を押さえていて、かなり痛そうにしている。
「それで、解析が通らないんだけれど・・・そのローブの効果かな?」
「ええ、そうよ。これには解析妨害の効果がついて痛っ!?」
再び黒ローブの拳が炸裂し、アリスは悲鳴を上げた。
どうにもキャラが違うように思えてしまうのは、解放された記憶の影響か。
「ごめんなさい。彼が相手だと、どうしても気が緩んでしまって、つい、ね。」
アリスは黒ローブに謝罪をしたが、その黒ローブは何も答えない。
そしてアリスも、返答が無いことを気にしていない。
(ん?さっきから黒ローブは碌にこちらへ意識を向けないけど、何を・・・っ!?)
クロトは一連のやりとりで黒ローブの動きが妙だと判断。
そして、その理由に思い至った。
「クラリエルっ!システムに侵入されてるか確認して!」
「えっ?介入されていれば気づきますよ・・・?」
「違う!今のクラリエルは、システムより彼女たちに注意を向けている!」
「っ!?」
そこまで聞いてようやく、システムへの注意が薄れていたと気づいた。
否、勿論注意は向けていたし、それでも普通なら問題は無かったのだ。
しかし、ことはそう簡単な問題ではない。
目の前の侵入者へ意識の一部が向いてしまっていたこと。
黒ローブの能力がそんな意識の合間に潜り込むものであったこと。
そして、クラリエルの体となったことで、微妙に感覚が変化していたこと。
これらが重なってしまったことで、生じるはずのない隙が、確かに生まれたのだ。
それを逃す黒ローブではない。
クロトの警告はしかし、既に手遅れであった。
その頃、世界樹の根元では、残りのメンバーがクロトとアクアを待っていた。
「クロト、遅いですわね。」
「きっと話し込んでいるのでござろう。もう少し待つでござるよ、マリア殿。」
「べ、別に、早く会いたいなんて思ってませんわよ!?」
「語るに落ちるとはこのことでござるなぁ・・・。」
「あっ・・・!?」
その場に居るのは、ヴィオラ、エメラ、カレン、マリア、ナツメ、セーラ。
マリアとナツメの話を温かく見守っている。
しかし、その中で一人だけ、そうでなかった者が居た。
「ん・・・。カレン・・・どうかした、の・・・?」
「っ、いや、何でもないぞ、エメラ。」
カレンは何でもないことを装ってそう答えた。
だが、エメラはカレンが緊張していることを見抜いていた。
(ん・・・。緊張、してる。でも、どうして・・・?)
前々からカレンが何か隠していると思っていたが、敢えて放置していた。
クロトが気にしていない以上、墓穴を掘るのは避けるべきとの判断だ。
その選択は、正しくもあり、間違いでもあったのだろう。
「”$%$#%$#%$&$&%$!!」
「「「「「っ!?」」」」」」
時空を超えて、突如エメラたちの前に現れたのは・・・巨大な瞳。
すなわち、神格を持った化け物・・・ヘキサアイズだったのだから。
「異世界隠密冒険記」 第二部・完
森の調査を依頼し、その調査報告を聞くときに始めて邂逅した。
とても優しそうで、でも、深層心理は決して悟らせない、二十代の綺麗な女性。
それがクロトの認識だった。
人の心の内を察することが得意なクロトからすれば、警戒の対象であった。
だが、何度も接している内に、どれだけ心を覆い隠していても分かることが一つ。
すなわち、アリスという人間が真に心優しい人間なのは確か、ということだ。
だからクロトは警戒心を薄め、友人として付き合うようになったのだ。
それでも警戒心を僅かに残していたのは、優しくても敵になり得るからである。
単なる保険でしかなかったその行動は、今こうして実を結んでいる。
クロトはアリスに、重要な情報は何一つ漏らしていなかったのだから。
そして、今でこそ気づけることがある。
(アリスさんを二十代の綺麗な女性としか認識してなかったんだけどな・・・。)
クロトの目の前に居るアリスは確かに二十代程に見える綺麗な女性だ。
だが、その特徴的な銀眼をまるで気にしていなかったなど、明らかにおかしい。
百歩譲って、その茶髪に一部銀が混ざった髪色を見逃したとしても、だ。
つまり、思考を誘導されていたということになる。
(案外、警戒心を解かなかったのは、そのことを本能的に理解していたからかも。)
そう思い始めたところで、更に一つのこと二気づいた。
それは・・・一度もアリスを解析しようとしなかったことである。
警戒心を持ちながらも解析しないなど、それは異常な事態だと言える。
失礼だから解析しない、というのはクロトが元々持ち合わせていた主義。
思い返してみれば、アリスと会った時を境にその感覚が強まった気もしてきた。
だとしたら、どこまで誘導した結果なのかということになり・・・。
「アリスさん、僕の自惚れで無ければ、結構好かれていたと思うんですが・・・。」
「あれはっ、記憶が封印されていたのだから忘れて頂戴っ!」
「なるほど。そっちの黒ローブはそういう術も仕える、と。」
「あっ・・・もう!これだからあなたは化け物だと言われ痛っ!?」
口を滑らせたアリスの頭に、黒ローブが拳を落とした。
何気に、レベル100を超えていなければ一撃死するくらいの威力だった。
「そして、そういう意味で好意を持たれていたのも確定、と。」
「だからっ、あれは忘れて頂戴と言っているでしょう!?」
「やっと心のつかえがとれた。アリスさんの感情は何故か読めなかったからね。」
話が通じてるようで通じていない。
なお、アリスは未だに涙目で頭を押さえていて、かなり痛そうにしている。
「それで、解析が通らないんだけれど・・・そのローブの効果かな?」
「ええ、そうよ。これには解析妨害の効果がついて痛っ!?」
再び黒ローブの拳が炸裂し、アリスは悲鳴を上げた。
どうにもキャラが違うように思えてしまうのは、解放された記憶の影響か。
「ごめんなさい。彼が相手だと、どうしても気が緩んでしまって、つい、ね。」
アリスは黒ローブに謝罪をしたが、その黒ローブは何も答えない。
そしてアリスも、返答が無いことを気にしていない。
(ん?さっきから黒ローブは碌にこちらへ意識を向けないけど、何を・・・っ!?)
クロトは一連のやりとりで黒ローブの動きが妙だと判断。
そして、その理由に思い至った。
「クラリエルっ!システムに侵入されてるか確認して!」
「えっ?介入されていれば気づきますよ・・・?」
「違う!今のクラリエルは、システムより彼女たちに注意を向けている!」
「っ!?」
そこまで聞いてようやく、システムへの注意が薄れていたと気づいた。
否、勿論注意は向けていたし、それでも普通なら問題は無かったのだ。
しかし、ことはそう簡単な問題ではない。
目の前の侵入者へ意識の一部が向いてしまっていたこと。
黒ローブの能力がそんな意識の合間に潜り込むものであったこと。
そして、クラリエルの体となったことで、微妙に感覚が変化していたこと。
これらが重なってしまったことで、生じるはずのない隙が、確かに生まれたのだ。
それを逃す黒ローブではない。
クロトの警告はしかし、既に手遅れであった。
その頃、世界樹の根元では、残りのメンバーがクロトとアクアを待っていた。
「クロト、遅いですわね。」
「きっと話し込んでいるのでござろう。もう少し待つでござるよ、マリア殿。」
「べ、別に、早く会いたいなんて思ってませんわよ!?」
「語るに落ちるとはこのことでござるなぁ・・・。」
「あっ・・・!?」
その場に居るのは、ヴィオラ、エメラ、カレン、マリア、ナツメ、セーラ。
マリアとナツメの話を温かく見守っている。
しかし、その中で一人だけ、そうでなかった者が居た。
「ん・・・。カレン・・・どうかした、の・・・?」
「っ、いや、何でもないぞ、エメラ。」
カレンは何でもないことを装ってそう答えた。
だが、エメラはカレンが緊張していることを見抜いていた。
(ん・・・。緊張、してる。でも、どうして・・・?)
前々からカレンが何か隠していると思っていたが、敢えて放置していた。
クロトが気にしていない以上、墓穴を掘るのは避けるべきとの判断だ。
その選択は、正しくもあり、間違いでもあったのだろう。
「”$%$#%$#%$&$&%$!!」
「「「「「っ!?」」」」」」
時空を超えて、突如エメラたちの前に現れたのは・・・巨大な瞳。
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