異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

感謝祭一日目ー7

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 その後、ヴィオラとエメラがやってきて、最後にセーラも。

 何度か席の入れ替えを行った後、花火の時間が近づいたので席を元通りに。

 したがって、クロトの隣はアクアとリンカとなった。

 すなわち、現在のクロトは両腕をこの二人に抱え込まれている状態である。


「・・・そろそろ始まるよ。」

「はい。また花火を見る日のことを、ずっと心待ちにしていました・・・!」


 リンカにとっては以前花火を見た日が人生最大のターニングポイントだ。

 なにせ、クロトの思いの丈を聞かされた日なのだから。


「思えば、私でさえクロトさんと会ってから三年経っていないのですね・・・。」

「ん、長いようで短い、短いようで長い時間だったね・・・。」

「クロトさん、これで終わりみたいな言い方はしないでくださいっ・・・!」

「そんなつもりは無かったんだけどな・・・。」


 まだ結婚もしていないというのに、ここで終わっては堪らないのだろう。

 リンカが抗議の声を上げ、アクアも微妙な表情でクロトを見つめている。


「ま、現状を分析するに十中八九終わりなんて来ないから安心して?」

「「・・・・・・。」」


 二人は何かが乱立しそうなクロトの発言に、沈黙するしかない。


「・・・と、花火が始まるよ。」

「・・・あっ。」


 クロトがそう言った直後、夜空に大輪の花が咲いた。

 その出来栄えは以前よりも更に高く、日本の花火よりも綺麗かもしれない。

 一同は無言で次々と上がる花火を見つめている。


「綺麗・・・!」

「そうですね・・・!」


 リンカとアクアがそう呟きながら、クロトに寄り掛かる。


「あっ・・・あれはリュノアちゃんを模した花火ですね・・・?」

「そ。流石に苦労したけれど、いい出来栄えに仕上がったね。」

「キュ・・・!」


 他にもフェニアを模した花火やレオを模した花火も上がり、皆を魅了する。


「ピュイ・・・!」

「ん・・・。フェニア、綺麗・・・。」


 そして、絶え間なく上がっていた花火も、次で最後となった。

 締めを飾るのは・・・クラリス、世界樹、地底樹を模した花火。

 それは、三者が互いを許し、許されている光景を幻視させた。


 第二特等席のリオンは、その花火に涙した。

 彼女は今でも、クラリスと地底樹の間に壁があることを悲しんでいるのだ。

 花火を見て、翌日の決行日に向けて、決意を新たにすることとなった。



 花火は世界中から見ることが出来るため、誰もがその光景に見入っていた。

 クラリスの物語を読み、現状を知った世界中の人々は、彼女に感謝を捧げた。

 同時に、自分にできることなら彼女を許したいと願った。


 今の自分たちが幸せに暮らせるのは創世神クラリアセレスのおかげ。

 ならば何故、その張本人たるクラリスが今もなお苦しみ続けているのか。


 理不尽な現状に、誰もが涙するしか出来なかった。

 彼女を許したくとも、彼女に感謝したくとも、その想いは届かないのだから。

 どれだけ人々が願っても、神と人を隔てる壁は、あまりにも高すぎる。


 ・・・否。たとえ届かなくとも、その想いが消えて無くなる訳ではないのだ。

 人々の想いは、身に着けたバッジを通して、間違いなくどこかに集積している。



「あとは・・・最後の引き金を引くだけ、だね。」


 全ての準備は整い、人々の心には種が撒かれた。

 そうしてクラリアセレス大感謝祭一日目は閉幕した。


 ・・・そして、運命の二日目が始まった。


 世界の全てを利用し力とした最終計画。

 創世神クラリアセレス降臨の儀。


 幾つかの不確定要素をはらんだその計画は、誰もが予想しえない結末を迎える。

 それは、全てを計画したクロトでさえ、決して例外ではなかった。


 神ならざる人の身では、未来は知り得ない。

 この時のクロトは、自身とその愛する者たちに訪れる出来事を、まだ知らない。



 ・・・だからこそ、今のクロトはこんなことも平気で言える。


「それじゃあ、明日が無事に終わったら、いよいよ僕たちの結婚式だね。」

「クロトさんっ!そんなあからさまな死亡フラグを立てないでくださいっ!!」

「大丈夫大丈夫。失敗の確率なんて1%を遥かに下回るんだから。」

「クロトさん!?わざとやってませんか・・・!?」


 リンカは慌てふためき、それを見た一同は静かに笑う。


 既に賽は投げられて、もう後戻りはできない。

 果たして、これから彼らの前に待ち受ける、激動の運命とは・・・?

 
「クラリス・・・明日、会いに行くからね。」






 翌日午前九時、創世神クラリアセレス大感謝祭二日目・開幕。


 クラリアセレス降臨予定時間まで、あと九時間。


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