異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

エピローグ25

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「むにゃむにゃ・・・クロト殿ぉ・・・。」

「こんな寝言を言う人、本当に居るんだね・・・。」


 クロトが身だしなみを整えて部屋を後にしようとしたところでの寝言だ。

 念のためじっくり観察してみたが、やはり寝ているという判断だった。

 ナツメの頬に唇を落としたあと、クロトはその場を去った。


 本当は起きるまで待っているつもりだったのだろうが、時刻は既に昼前。

 やるべきことが残っているので、やむをえないことであったのだ。









 クロトが訪れたのはエルフの里。

 ここ、厳密に言えば世界樹の根元が、とある計画の基点となる場所なのだ。


「あ、クロトお兄ちゃんだ!」

「ユーリス・・・少し大きくなったね。」


 クロトを見つけて飛び込んできたユーリスを抱き留め、そんな感想を述べた。

 エルフは長命だが、成人までは人とそれほど変わらない見た目の変化があるのだ。

 初めて出会ってからまだ一年ほどだが、子供が成長するには十分な時間である。


「遊んであげたいところだけど、今日は仕事があるから、また今度ね?」

「うぅ・・・分かった・・・。」

「よしよし、聞き分けのいい子だ。」


 クロトはユーリスと、いつの間にか近くに来ていたリーリアとミルファを撫でる。

 三人とも嬉しそうだ。


「それじゃあ、また来るからね。」

「うん!」

「お仕事、頑張ってください・・・!」

「私も、待ってる・・・。」


 三人の見送りを受けて、クロトはセーラの家へ向かった。



「レフィ、ユフィ、ただいま。」

「お父さんおかえりなのですっ!」

「・・・遅かったな、父さん。」


 セーラの家ではユフィがクロトに抱き着いた。

 レフィは冷静に、予定より少し遅いと指摘。


「・・・あれ?セーラはもう世界樹へ向かってしまったかな?」

「ああ、少し前に世界樹へ向かったぞ。父さんも早く行くといい。」

「そうか。ユフィ、また後でね。」

「はいなのです!」


 ユフィの抱き着きから解放されたクロトは世界樹へ向かった。




「・・・ねぇ、クロト君。何故いつも後ろから忍び寄って抱き締めるのかしら?」

「ん?僕もセーラも、この体勢が好きだからだよ?」

「んっ・・・クロト君、耳元で囁くのは駄目・・・!
 こんな時間から変な気分になってしまうから・・・!」


 セーラは艶やかな声を出しながら、やめるように半ば懇願した。

 しかし、当然の如く、クロトはやめようとしない。


「そう言われてもね。碌に抵抗もされてないのに、やめようとは思えないよ?」

「っ・・・!そんな意地悪、言わないで・・・!」


 クロトはセーラが抵抗できないことを分かって言っている。

 またセーラも、そんなクロトの思考は分かっているのだ。


「・・・ま、今日はこれからやることがあるし、ここまでにしようか。」

「えっ・・・?」


 突然クロトから解放されて、思わずそんな声が漏れた。

 その声には、自分でも分かるくらいに残念そうな感情が籠っていた。

 セーラは自分のはしたなさを認識させられて羞恥で赤くなる。

 そしてクロトはそんなセーラの様子に気づいていながら、ニコニコと話を進める。


「それじゃあ、始めようか。」

「・・・うん。」


 その後、二人は世界樹や地底樹にも確認をとりながら、作業を進めた。

 今回行われる主な作業は、四つの同系アイテムと一つの大型アイテムの設置だ。


 四つの小型アイテムは、押しボタンのような形。

 それぞれを長方形の頂点になるように設置した。


 一つの大型アイテムは、離れた場所にある地底樹を意識して設置された。

 多重空間的には世界樹と地底樹の丁度中央あたりであると思われる。

 コンデンサーのような見た目で、エネルギーを貯め込む仕組みがありそうだ。


 最後に、クロトが現在保持しており、マリアに渡す予定のボタン。

 クイズの押しボタン風ではなく、爆弾の起爆スイッチのような見た目である。


 他にも細々とした装置はあるが、一応はこれで全てである。

 一体これらの装置で何をしようというのだろうか。


「これで準備は終わり。後は・・・感謝祭二日目を待つだけだね。」

「そうね・・・。ねぇクロト君、上手くいくのかしら・・・?」


 セーラはいつになく不安そうに、クロトへ問い掛けた。


「ん、どうだろうね・・・。理論上はこれでいけるはずなんだけど・・・。」

「でも、試してみるわけにもいかないわよね・・・。」

「ああ。何度もやるには二本の樹の負担が大きすぎる。そして何より・・・。」


 クロトはそこで一拍おいてから、試行できない一番大きな理由を述べた。




「二度目は・・・クラリスに路を塞がれてしまうだろうからね。」

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