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第二部「創世神降臨」編
その獣は誰がために生きる道を選ぶのか
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手乗り獅子たちは元々、天の塔に住んでいた。
否、試練の間に侵入者が現れた時に自動生成されるので、住んでいたのとは違う。
誕生の瞬間から獅子の試練の一部として組み込まれる、哀れで幼い獅子たちだ。
何故なら、外に出ることは絶対に叶わないのだから。
だが獅子の子たちは、そんな理を歪めてしまう者と出会うことになった。
その者は如何なる方法でか不明だが、自分たちを外に連れ出せると言うのだ。
このまま試練の終わりとともに消えるか、外に出るか、という二択。
自動生成された存在だろうが関係ない。
確かな心を宿した獅子たちは当然の如く、外に出ることを選択した。
彼ら彼女らは紛れもなく、生きたいと願ったのだ。
外に連れ出された獅子たちは、与えられた知識には無い未知の環境に興奮した。
精神は幼い子供に近いので、思うがままにはしゃいで、外の世界を楽しんだ。
そんな幸せが続いたある日のこと、一匹の獅子の子が己の体に異変を感知した。
徐々にではあるが、その存在が薄れてきていたのだ。
このまま何もしなければ、消えてなくなってしまうのは間違いなかった。
理を捻じ曲げ、強引に外へ連れてきた代償であった。
存在自体が薄くなっていくということは、忘れ去られることに他ならない。
現に、一部を除いた殆どの者が、いつの間にか獅子たちのことを忘れていった。
いつしか孤児院の子どもたちも厩舎を訪れなくなった。
徐々に覚えている者が減っていき、やがてその人数は片手の指に収まるほどに。
獅子たちは悲しみながらも、ひと時の幸せに過ぎなかったのだと諦めた。
「ヴィオラは、そんな中でも覚えていた数少ない一人だ。」
「・・・・・・。」
「普段酷使している並列思考とレオへの愛情が、記憶を留めさせたのかもね。」
ヴィオラはそんなことになっていたなど知りもしなかった。
皆が獅子の話題を出さないことに違和感はあったようだが。
クロトはヴィオラの反応を確認したあと、再び話を続けた。
獅子の子たちの異変に気付き、なおかつ決して諦めなかった者が一人居た。
獅子たちを外に連れ出した張本人、クロトである。
クロトは獅子たちの存在を現世に定着させるために試行錯誤を開始。
だが、一度理が歪められた獅子たちである故に、その解析は困難を極めた。
なにせ、ごちゃごちゃになった糸球を丁寧に解していくかのような作業なのだ。
そんな作業を簡単にできるはずもない。
しかしそれでも、クロトはあと少しというところまで研究を進めた。
もはや一刻の猶予も無かったが、ギリギリ完成一歩手前までこぎつけた。
だというのに、どうしても完成させることは出来なかった。
何故なら、その魔法陣を完璧にするには、被験体となる獅子が必要なのだから。
安全が保障されていない存在固定魔法陣。
否、誤魔化すのはやめよう。
九十九%失敗して被験体の存在が消えてしまうだろう魔法陣、だ。
クロトは合理的に被験体を選出するか、他の手を探すかで苦悩した。
そんな中で、被験体になると名乗り出たのが、二匹の獅子の子であった。
その二匹の瞳に宿る、生きたい、という強い想いをみてとったクロト。
彼は、その強い想いに賭けてみようと決めたのだった。
二匹の獅子が生きたいと強く願ったのには理由がある。
それは、まだ自分のことを覚えてくれている者がクロト以外にも存在するからだ。
その者の為にも、是が非でも生き抜きたかったのだ。
その獅子たちは、レオとコロと名付けられた二匹だった。
「もう分かったよね?純粋にレオを覚えていたのはヴィオラ、君だけだ。」
「・・・っ。レオ・・・!」
「がぅ・・・!」
ヴィオラはレオを抱き締めた。
今までずっと恥ずかしくて出来なかったことだが、感情が振り切れたようだ。
レオも、抱き締められてとても嬉しそうにしている。
現状からも分かるように、レオとコロの二匹は奇跡的に生き延びた。
体が崩壊する痛みを強靭な意思で耐え、現世に魂を留まらせ続けた。
そして、魔法陣に足りていなかった要素である受肉を果たして、今がある。
強靭な肉体を持つに至ったのは、その魂と心の強さに合わせられたからだろう。
クロトはその現象を一部の漏れなく記憶し、魔法陣を改良。
安全に存在を固定できる真存在固定魔法陣を完成させた。
他の獅子たちはその魔法陣のおかげで、無事に元通りの存在が定着した。
白銀獅子『アルレオン』は聖獣となり、当然のことながら新種である。
そのため、空白だった種のステータス表記はクロトが行った。
聖獣という存在になったのは、ラファエルの研究を流用したからだろう。
「召喚契約魔法陣を改良するまで少し時間が掛かったけど・・・使ってごらん?」
「・・・ん。」
ヴィオラはクロトの指示に従って、召喚契約魔法陣を起動したのだった。
否、試練の間に侵入者が現れた時に自動生成されるので、住んでいたのとは違う。
誕生の瞬間から獅子の試練の一部として組み込まれる、哀れで幼い獅子たちだ。
何故なら、外に出ることは絶対に叶わないのだから。
だが獅子の子たちは、そんな理を歪めてしまう者と出会うことになった。
その者は如何なる方法でか不明だが、自分たちを外に連れ出せると言うのだ。
このまま試練の終わりとともに消えるか、外に出るか、という二択。
自動生成された存在だろうが関係ない。
確かな心を宿した獅子たちは当然の如く、外に出ることを選択した。
彼ら彼女らは紛れもなく、生きたいと願ったのだ。
外に連れ出された獅子たちは、与えられた知識には無い未知の環境に興奮した。
精神は幼い子供に近いので、思うがままにはしゃいで、外の世界を楽しんだ。
そんな幸せが続いたある日のこと、一匹の獅子の子が己の体に異変を感知した。
徐々にではあるが、その存在が薄れてきていたのだ。
このまま何もしなければ、消えてなくなってしまうのは間違いなかった。
理を捻じ曲げ、強引に外へ連れてきた代償であった。
存在自体が薄くなっていくということは、忘れ去られることに他ならない。
現に、一部を除いた殆どの者が、いつの間にか獅子たちのことを忘れていった。
いつしか孤児院の子どもたちも厩舎を訪れなくなった。
徐々に覚えている者が減っていき、やがてその人数は片手の指に収まるほどに。
獅子たちは悲しみながらも、ひと時の幸せに過ぎなかったのだと諦めた。
「ヴィオラは、そんな中でも覚えていた数少ない一人だ。」
「・・・・・・。」
「普段酷使している並列思考とレオへの愛情が、記憶を留めさせたのかもね。」
ヴィオラはそんなことになっていたなど知りもしなかった。
皆が獅子の話題を出さないことに違和感はあったようだが。
クロトはヴィオラの反応を確認したあと、再び話を続けた。
獅子の子たちの異変に気付き、なおかつ決して諦めなかった者が一人居た。
獅子たちを外に連れ出した張本人、クロトである。
クロトは獅子たちの存在を現世に定着させるために試行錯誤を開始。
だが、一度理が歪められた獅子たちである故に、その解析は困難を極めた。
なにせ、ごちゃごちゃになった糸球を丁寧に解していくかのような作業なのだ。
そんな作業を簡単にできるはずもない。
しかしそれでも、クロトはあと少しというところまで研究を進めた。
もはや一刻の猶予も無かったが、ギリギリ完成一歩手前までこぎつけた。
だというのに、どうしても完成させることは出来なかった。
何故なら、その魔法陣を完璧にするには、被験体となる獅子が必要なのだから。
安全が保障されていない存在固定魔法陣。
否、誤魔化すのはやめよう。
九十九%失敗して被験体の存在が消えてしまうだろう魔法陣、だ。
クロトは合理的に被験体を選出するか、他の手を探すかで苦悩した。
そんな中で、被験体になると名乗り出たのが、二匹の獅子の子であった。
その二匹の瞳に宿る、生きたい、という強い想いをみてとったクロト。
彼は、その強い想いに賭けてみようと決めたのだった。
二匹の獅子が生きたいと強く願ったのには理由がある。
それは、まだ自分のことを覚えてくれている者がクロト以外にも存在するからだ。
その者の為にも、是が非でも生き抜きたかったのだ。
その獅子たちは、レオとコロと名付けられた二匹だった。
「もう分かったよね?純粋にレオを覚えていたのはヴィオラ、君だけだ。」
「・・・っ。レオ・・・!」
「がぅ・・・!」
ヴィオラはレオを抱き締めた。
今までずっと恥ずかしくて出来なかったことだが、感情が振り切れたようだ。
レオも、抱き締められてとても嬉しそうにしている。
現状からも分かるように、レオとコロの二匹は奇跡的に生き延びた。
体が崩壊する痛みを強靭な意思で耐え、現世に魂を留まらせ続けた。
そして、魔法陣に足りていなかった要素である受肉を果たして、今がある。
強靭な肉体を持つに至ったのは、その魂と心の強さに合わせられたからだろう。
クロトはその現象を一部の漏れなく記憶し、魔法陣を改良。
安全に存在を固定できる真存在固定魔法陣を完成させた。
他の獅子たちはその魔法陣のおかげで、無事に元通りの存在が定着した。
白銀獅子『アルレオン』は聖獣となり、当然のことながら新種である。
そのため、空白だった種のステータス表記はクロトが行った。
聖獣という存在になったのは、ラファエルの研究を流用したからだろう。
「召喚契約魔法陣を改良するまで少し時間が掛かったけど・・・使ってごらん?」
「・・・ん。」
ヴィオラはクロトの指示に従って、召喚契約魔法陣を起動したのだった。
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