異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

リオンの進捗

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 感謝祭まで残り二日となった朝、クロトが向かったのは王城。

 詳細に言うと、庭にある地底樹グランディアの下である。


「今更だけど、よく王城に植える許可が下りたよね。」

「本当に今更だ!?今まで気にしたことがなかったのかい!?」

「ない。」

「言い切った!?」


 地底樹の根元で勉強していた第一王女リオンが激しくツッコミを入れた。

 しかしながらその表情は、どことなく嬉しそうだ。


「随分嬉しそうだね。そんなに僕と会いたかったの?」

「なんでハッキリ言うのさ!もう少し言い方というものがあるよね!?」

「そんなに僕との逢瀬にこの上ない幸福を感じているの?」

「なお悪い言い方!?」


 そんなやりとりをした後、互いにクスクスと笑い始めた。

 変わっている部分もあるが根幹は変わらないな、と思って笑ったのだ。

 地底樹も一緒になってクスクスと笑っている。


「それで・・・目指すべき未来図は見えたかい?」

「・・・うん。まだ曖昧で、雲を掴むような感覚だけど、少しだけ見えた。」

「そっか・・・。」


 それがどのような未来図なのかはクロトにも分からない。

 シロナの天運を本質的には理解できないのと同様に。


 だが、リオンの瞳に、かつての自分とシロナが浮かべていた色が見えた。

 それは、覚悟を決め、全てを懸けて辿り着かんとする、不屈の意思。

 先の事は分からないが、それほど心配はいらないだろうとクロトは思った。


「まあ、今の僕なら雲くらい余裕で掴めるけどね。」

「そんな余計なツッコミは要らないよっ!!」


 リオンは表現が適切でなかったことに思い至り、羞恥で頬を赤く染める。

 そして、照れ隠しでクロトから貰った本を投げつけた。

 誰がどう見ても可愛い女の子である。


 なお、決してクロトからの貰いものを粗末にしたわけではない。

 クロトなら傷一つつけずに受け止めることを理解していたから投げたのだ。

 そうでなければ大事な本を投げはしない。

 ある意味信頼の裏返しということだ。


「おっと、危ないなぁ。打ちどころが悪くて死んだら犯罪だよ、僕以外は。」

「さらっと権力濫用宣言!?」

「うん。偶に天剣を飛ばした先に人が居ることがあって、それで・・・。」

「聞きたくない聞きたくない!」


 リオンはそんな話は御免だとばかりに耳を塞いで知らんぷりだ。


 勿論、実際にはクロト、そんな失敗はやらかさない。

 クロトは明言はしていないので、嘘をついたわけでもない。

 単にリオンの誤解を煽っただけだ。


「ところで、随分髪が伸びたね?」

「えっ?・・・言われてみれば、そうかも?」


 以前は肩に掛からない程度の長さだったが、今では背中まで伸びている。

 リオンは己の髪を軽く触って、その現状を確認することとなった。


(ああ・・・女性として生きる事を決めてから、切るのを忘れてた・・・。)


 今までは伸びすぎないように短い頻度で切っていたのだが、既に過去の話。

 髪を短くする必要性は、もうどこにもないのだ。


(・・・・・・!)

(ふふっ・・・ありがとう、グランディア。)


 グランディアが思念で、リオンは長髪も似合うと伝えた。

 リオンは大切な友の言葉を信じて、お礼を述べた。


(でも、クロトはどう思ってるのかな・・・?)

(・・・・・・!!)

(グランディアの言う通り、似合っていると思ってるよ?)

(へぇ、そうなん、だ・・・・・・えっ?)


 思念通話に何者かが割り込んできたことに驚愕し、緩んでいた頬が引きつった。

 何故なら、それは紛れもなくクロトの声だったのだから。


「なっ・・・!?クロト君、思念通話に割り込まないでっ!!」

「いや、目の前でこれみよがしにやられたら、ねぇ?」

「あっ!そういえばクロト君も地底樹の巫女だったんだ・・・!」


 元々地底樹の巫女なのだから、思念通話に割り込むことは難しくないのだ。

 これが世界樹であれば接触が必要なのだが。


 リオンもそのことに思い至って、油断していた自分を激しく責めた。

 何故なら、いまの会話で知られたくないことを知られてしまったのだから。


「それにしても、リオンは僕のこと、頭の中では呼び捨てで呼んでるんだね?」

「ああああああっ!それは忘れてくれないかっ!?」

「無理。」

「何で即答なの!?」


 リオンは余りの恥ずかしさに突っ伏してしまった。


(クロトの横に立てるまでは頭の中だけで我慢しようと思ってたのに!
 こんな形で知られてしまうなんてっ・・・!ううっ・・・私のバカ!)


 リオンはクロトの親友として相応しいくなるまで呼び捨てはしないつもりだった。

 だがクロトは、それを知って陰ながら嬉しく思った。


「リオン・・・また三日後、会いにくるよ。」

「・・・っ!?」


 クロトはリオンの頬に手を当て、その瞳を暫く見つめた後、その場を去った。

 後に残されたリオンは暫くの間、惚けていることになったのであった。

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