異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

エメラとファーナ

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 羨ましそうな顔で見送るアクアと、同じく羨ましそうなラファエル。

 二人に別れを告げてエメラとデートに出発した。


(アクアはともかく、ラファエルに羨ましがられてもね・・・。)


 そんなことを思いながら、行き先について尋ねる。


「エメラ、どこか行きたい場所はある?」

「ん・・・?特に、無い・・・。」


 エメラはクロトに任せるつもりのような口ぶり。

 だが、クロトは微妙な表情の変化を見逃さなかった。

 以前、信頼の館で手に入れた信頼の証を発動し、エメラに再び問いかけた。


「本当は行きたい場所があるんだよね?遠慮なく言ってごらん?」

「ん・・・。人のいない、場所で・・・二人っきりに、なりたい・・・っ!?」

「なるほど。そういうことか・・・。」

「ん・・・!クロト、信頼の証・・・使った、の・・・!?」


 エメラは本音を口走ってしまった理由にすぐさま気づき、問い詰める。


「うん、そうだよ?エメラが本心を言わないから、つい、ね・・・。」


 クロトはそう答えると、信頼の証の効果を切った。

 何気に、使ったのは初めてであった。


「それじゃあ、ご希望通りに人のいない場所へ行こうか。」


 優しく微笑みながらそう告げられ、羞恥で顔を伏せたエメラであった。








「人のいない場所となると幾つか候補はあるけど、ここがいいかな。」

「ん・・・。私有地の、草原・・・?」


 そこは、エメラの言う通り、私有地の草原。

 以前、娘となったファーナと一緒に来た場所だ。


「模擬戦で疲れ気味だし、のんびりできる場所が良いと思ってね。」

「ん・・・。ありがと、クロト・・・。」


 大きな木の根元に座ったエメラは、感謝の言葉を伝えた。

 どうやら、場所選びは成功だったらしい。


 整備されており、座っても汚れないので、エメラは木陰で横になった。

 そして目を閉じ、気持ちよさそうに温かな風を感じている。

 あっという間にお気に入りの場所に登録だ。


 クロトもエメラの隣に横になる。

 自然とエメラはクロトに近づき、その腕を抱き締めて密着した。


 デートと言うには少し違う風情になったが、幸せならばそれでいいのだろう。

 二人は夜までのんびりと過ごし、何気ない幸せを噛み締めた。



「・・・さて、そろそろ帰り・・・エメラ?」

「ん・・・。」


 エメラが帰ろうとしたクロトの袖を掴み、引き留めた。


「もう少し、だけ・・・一緒に、居たい・・・。だめ・・・?」

「っ・・・駄目じゃないよ。」


 クロトはエメラのうるうるした瞳による上目遣いにやられて反射的に頷いた。

 本人に自覚がない分、破壊力は抜群だ。


「あ、でも、もう少ししたらファーナを呼んでいいかな?」

「ん・・・。クロト、を・・・独り占め、は・・・ダメ、だから・・・。」


 エメラは、特に不満も無さそうにそう答えた。


「でも・・・それまで、は・・・二人、だけ・・・。」

「エメラ・・・。」


 クロトはそんなことを言うエメラにドキドキさせられ、我慢できずに唇を奪った。


「んっ・・・。んんっ・・・はぁ・・・クロ、ト、っ・・・んぅっ・・・!」


 結局、時間の空いていたファーナが呼ばれたのは、それから二時間後だった。








「お父さん、エメラ姉さん、今日は一緒に眠れるって、本当・・・?」

「ああ、本当だよ。」

「ん・・・。この後、一緒に・・・王都の、家で・・・寝よ?」


 お互いに忙しい身であるので、これまで中々その機会がとれずにいた。

 だが、ミカゲ財閥の仕事は一区切りついているので、今なら可能だ。


 ファーナはクロトとエメラに連れられて、王都にある家に入っていく。

 この家は、クロトとエメラ、ファーナの専用。

 他の者は許可なしでは一切立ち入れない。


 普段からファーナが使っている家であり、クロトとエメラも時折訪れている。

 家のコンセプトは、以前ファーナが住んでいた家の雰囲気に近づける、だ。

 だから、家の中はどことなく、仲の良い家族の温かい雰囲気が漂っている。


 ちなみにこの家は、地底樹探しという特別任務の報酬、そのオマケである。


 家の中に入ってすぐ、ファーナはクロトに抱き着いた。


「おかえりなさい、お父さん!エメラ、姉さん!」

「ただいま、ファーナ。」

「ん・・・。ただいま・・・。」


 クロトとエメラは抱き着いたファーナを抱き締め返したのだった。


 ファーナはエメラの事を、母親ではなく姉として扱っている。

 彼女の母親は、優しかった実の母親、ファーラただ一人。

 エメラもそのことは分かっているので、姉で十分だと思っている。


 だがしかし、今のように抱き締められることで、ファーナは疑問に思った。

 もうエメラのことを母親と呼んでもいいのでは、と。

 本来は父の妻にあたるのだから、それでもいいのでは、と。


 ファーナは抱き着くときに自然と「エメラ母さん」と口にしそうになっていた。

 そんな自分を顧みて、悩みの種が心の内側に密かに宿ったのだった。

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