異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

先の世界で重要な事

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「クロトさん、驚かせないでください・・・!」

「次から善処するよ。」


 クロトはアクアを驚かせたことを反省していない。

 揶揄うことはもはや趣味のようなものなのだ。


「それで、戦いの様子を見させてもらったけれど、ちょっと連携が拙いと思うよ?」

「キュイ・・・。」

「ピュイィィ・・・。」

「耳に痛いお言葉です・・・。」


 召喚獣たちの戦闘は、普通に見ればどこも問題ないように見えただろう。

 だが、クロトはそうは思わなかったようだ。

 曰く、能力値とスキルに頼る割合が多すぎる、と。


 頼ること自体は決して悪くないのだが、それだと早いうちに壁にぶつかる。

 いずれレベルが上がらなくなる以上、それに頼らない技術を鍛えるのは重要。

 仮に苦戦してでも力の放出は抑えるべき。

 そして、切り札は何枚も用意して、かつ、使いどころを間違えるな。


 クロトはそんな感じのことを簡単に説明した。


 また、それぞれにアドバイスをして、アクアとエメラにも一緒に聞いてもらった。

 リュノアとフェニアには具体的にアドバイスだったが、問題はラファエル。


「それで、ラファエルなんだけど・・・君の剣にはアドバイスがし辛い。」

「マリアさんのように、長い年月で洗練された剣術ですからね。」


 クロトの発言に、アクアとエメラも頷いている。

 純粋な技術であれば、クロトとカレンに次ぎ、マリア並。

 氷天法術とのコンビネーションは既に上限ギリギリかもしれないという見解だ。


 ちなみに、決してエメラの剣術が劣っているわけではない。

 彼女は、戦い方自体が非常に上手いのだ。


「そこで、僕が能力値上昇系のスキルを全てオフにして、直接相手するよ。」

「よろしくお願いいたします、クロト様。」


 そういう訳で、レベル上げが一区切りついたところでクロトの家へ。

 クロトは収納から一つの腕輪を取り出して装備した。


「クロトさん、その腕腕輪は・・・?」

「これ?これは能力値減衰の腕輪だよ。セイレーンの魔法を参考に作製した。」


 名称<歌姫の誘惑>

 この魔道具は能力値を一割減~九割減まで変更できる効果がある。


「それじゃあ、半減くらいからでいいかな。」

「半減というと・・・能力値平均は2000~2500くらいでしょうか。」

「ああ、大体それくらいだよ。
 緊急時以外はこれをつけるようにしてるんだよね。
 ラファエルの能力値との差は・・・1500くらいかな。」


 勝負は装備品以外、魔道具などの使用なし。能力値上昇スキル使用禁止。

 クロトは剣のみ使用可能。


「さて、やろうか。これで負けたら恥ずかしいよ、ラファエル?」

「嫌な予感がいたしますが、確かに負けるわけにはゆかぬようで・・・。」


 そうして、主従の戦いは始まった。











「はい、勝負あり。」

「・・・・・・参りました。」


 戦いはクロトの勝利で決着した。

 ラファエルは見るからに悔しそうだ。


 序盤はラファエルが優勢だったのだが、クロトはのらりくらりと受け流しや回避。

 そして、ラファエルの集中が切れた一瞬の隙を突いて、大きくペースを変更。

 突然過ぎる変化について行けず、ラファエルは受けに回ることに。

 そのまま最小の手数で逃げ道を塞いでゆき、首に剣を突き付けた。


 続いてクロトはエメラと対戦。

 結果はエメラの勝利。

 彼女はクロトにペースを乱されつつも終始主導権を手放さなかった。


「・・・とまあ、いくら剣の扱いが上手くても格下に負け得ることは分かった?」

「はい。大変よく分かりました。」


 つまり、戦いの組み立て方やステータスに反映されない手札が重要。

 言い換えると、同等の能力値を持つ相手から99.9%勝ちを拾うための教えだ。


「このことを知っているかどうかで、生存率は大きく変わる。
 知らない人は、同格や格下負けた時に運が悪かったと愚痴を言う。
 逆に、これを知っている人は、半ば必然の如く勝利を攫っていく。」

「・・・・・・。」

「僕としては、ラファエルのような相手より、エメラのような相手が断然怖い。
 死んでしまうには一度の敗北で十分だから、勝率五割では生き残れない。
 だから、これから先の世界に進むなら、必ずこのことを念頭に置いてほしい。」

「はい・・・!!」


 ラファエルはクロトの教えに感銘を覚えて、興奮しながら返事をした。


(流石は私の仕えるべき主様・・・!私は一生あなた様とともに・・・!)


 こうして、ラファエルは己の戦い方を見直すようになったのだった。



 それはさておき。



 クロトは腕輪を外してエメラに告げた。


「さて、負けっぱなしは悔しいから、能力値の制限なしでもう一回やろうか。」

「ん・・・?」

「まあ、能力値は能力値で重要だと言うことを教えるということで・・・っ!」

「んん・・・!?」


 その後、エメラは本気のクロトにボコボコにされてしまったのだった。

 圧倒的能力差を前にすると、流石に戦い方だけではどうにもならないのだ。


「ん・・・。クロト、は・・・意地悪、だね・・・。」

「そんなに睨まないで・・・?あ、これから一緒にデートでもしようか?」

「ん・・・!する・・・!」


 エメラの機嫌も無事に直り、めでたしめでたし。

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