異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

ちょっとしたお願い

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 クロトはアイシアの隣にある椅子に腰掛けて労いの言葉を掛ける。


「この二人が落ち込んでいるということは、勝ち越したんだよね?おめでとう。」

「ありがとうございます、クロトさん。」


 クロトは収納から取り出した飲み物を二つのグラスに注いで、乾杯の態勢に。

 アイシアはグラスを持って、それに答えた。

 グラスの音が響き、二人とも一口飲む。


「師匠、じゃなくてクロトさん、この飲み物は・・・?」

「これは、酔わないお酒、といったところかな。アイシアにはこの方が良いよね。」

「あっ・・・ありがとうございます・・・。」


 彼女は自分の酒癖の悪さを痛いほど分かっている。

 以前クロトに迷惑をかけた時の事を思い出し、羞恥で俯いた。


「あ、呼び方は師匠でもいいよ?僕もアイシアを弟子みたいに思ってるし。」

「・・・では、失礼ながら師匠と呼ばせてもらいますね。」


 少し前から、クロトを呼ぶときに自然と師匠という言葉が口を突いて出るのだ。

 失礼だと思ってその都度訂正していたのだが、ついに許可が出た。

 何気に嬉しく思うアイシア。


「あ、今更だけど、アイシアは僕の弟子第一号だからね?」

「へっ?私が初めて、ですか!?」


 クロトにはもっと弟子が沢山居るものだと思っていたので驚愕する。


「熱心に教えているのはアイシアだけだからね。みんな自力で強くなるし。」

「ああ・・・そういう・・・。」


 二人の脳裏に浮かんでいるのは、アクアやヴィオラといった存在。

 教えはしているが、ほんの僅かでしかない者たちだ。

 クロトが稽古をつけてもいいと思う人は、大抵自分で強くなってしまうのだ。


「そういう訳で、アイシアが一番弟子だよ。」

「あはは・・・。ちょっと反応に困りますね・・・。」


 クロトの一番弟子というのは誇らしいのだが、複雑な気持ちのようだ。

 自分が一人では強くなれないダメな子だと言われているようなものなのだから。


 もっとも、アイシアはその辺の事はもう割り切っているので、複雑なだけだ。

 才能が無いことを嘆くのではなく、何とかする方法を考える。

 それがクロトの教えにあることの根幹なのである。


「そういえばアイシア、そろそろ結婚適齢期だよね?」

「うっ・・・そのことは言わないでください・・・!」


 異世界ジェネシスアイでは、16~22歳あたりが適齢期とされている。

 アイシアも直に十六歳になるので、あおろあおろ相手を見つける必要がある。

 基本は16歳で見つけて、数年間の付き合いを経て、結婚するのだ。

 勿論、ただの風習であるし、貴族になると少し変わるのだが。


 そんなことは百も承知のアイシアであるが、今のところいい相手が居ない。

 ディアナとインフィはアイシアより年上だが、同じく相手が居ない。

 だからというわけではないが、そこまで焦ってはいない。


 しかし、クロトに指摘されると、行き遅れと思われているようで恥ずかしいのだ。

 有象無象に言われても平気なのだが・・・尊敬している相手だからであろう。


「ま、結婚しないというのも一つの選択肢だし、とやかくは言わないけどね。」

「そ、そうですよね!結婚しないまま一生を終える女性は多いですから・・・!」


 この世界は女性の比率が多いので、そういうことも普通にある。

 いくら優秀な男が複数の女性を囲っても、限界があるのだ。


「あ、この前ミカゲ財閥調べで、独身女性にアンケートをとったんだよね。」

「へぇ・・・?そうなんですか・・・?」

「その結果が・・・ここにある。」

「はぁ・・・?」


 アイシアはクロトが何を言いたいのかいまいち分からなかった。

 散々もったいぶった後で、クロトはアンケート結果を発表した。


「結婚適齢期の序盤で相手を見つけておくべきだったと思っている人、89%」

「ごほっ、ごほっ・・・!?な、な、何ですかその結果はっ・・・!?」

「要するに、年を取ってから独り身が堪えるようになったということだね。」

「でもっ、私にはディアナ先輩とインフィアさんがいますから・・・!」


 思わずそんなことを答えてしまったアイシアに、クロトからカウンター。


「女友達がいるから大丈夫。そう思っていたら後悔した人、82%」

「ごほっ・・・!?」

「いつの間にか女友達が結婚していて放心した人、80%」

「ああああああ・・・!!」


 アイシアは頭を抱えて震えはじめた。

 自分だけ取り残されて寂しく独り身、という未来を幻視したのだろう。


「そんなアイシアに良いものがあるんだけど・・・・・・欲しい?」

「くださいっ!!幾らですか!?足りなければ体で払いますっ!!」


 そう言いながら詰め寄るアイシアに、クロトは優しく微笑んだ。


「お金なんて要らないよ?ただ、少しお願いしたいことがあるんだよね。」




 その後、取引は成立し、アイシアはチケットをもらった。

 ミカゲ財閥主催である婚活パーティーの入場券(VIP)である。

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