異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

真なる心

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「アクア、本当に強くなったね。」

「そう言って頂けるのは嬉しいのですが、また勝てませんでした・・・。」

「ラファエルを守ったという意味では勝ちなんじゃないかな?」

「アクア様、クロト様、あまり私のことで争われるのは・・・。」


 居心地の悪そうなラファエルは恐る恐るそう言った。

 彼女にとってクロトとアクアは、どちらも最重要存在。

 どちらかを選ぶなどできそうにないので、そう言うしかないのだ。


「そう言われてもね?僕はラファエルがほしくて仕方ないんだ。」

「ッ!?」

「その言い方は駄目です!恋人にしたいならハッキリ言うべきです!」

「そういう意図はないから。それと、アクアの言い分もどうかと思うよ?」


 クロトの物言いに顔を上気させて言葉に詰まっているラファエル。

 彼女は決してクロトを男性として見ているのではない。

 あくまでもクロトは仕える主であり、尊敬の対象なのだ。

 そんな相手から褒められて嬉しいだけ・・・のはずだ。


「・・・と、そういえば、これを渡すのを忘れていた。」

「・・・?」


 クロトが取り出したのは・・・指輪。

 アクアがクロトを疑いの眼差しで見る。


 彼女としては、クロトにどれだけ恋人ができても問題はない。

 だがしかし、恋愛感情は無いと言いつつ指輪を渡すのはどうなのか。

 ということを言いたいわけだ。


「これは、改良型アーティファクト『ラファエルの指輪』だよ。
 効果は、腕輪型のラファエルの癒しと似ていて、状態異常の解消だ。」

「私の名前を冠したアーティファクト、ですね。記憶にございます。」

「それでね、幾つか追加効果があって・・・。」


 クロトはラファエルに腕輪との違いを説明した。


 まず、状態異常の回復に使用回数制限がない。

 以前は回数制限があったが、指輪は何度でも状態異常の解消が可能だ。


 次に、HPの回復効果。

 こちらは一日に一度だけ、HPを全回復させることができるという効果だ。

 ちなみに、ラファエルが装備した時の専用効果である。


 最後に、クロトやアクアとの通信効果。

 指輪にMPを注ぐことで、クロトやアクアと連絡をとることができる。

 ただし、使用不可な場所も存在している。


 改良にはかなりの時間と手間が掛かっており、資材も大量に投入された。

 複製された腕輪は四桁数無駄になっており、改良の困難さが窺えた。

 指輪型になってしまったのは、ただの偶然で他意はない。


「そういうわけで、手を出して?」

「っ、かしこまりました・・・!」


 ラファエルは言われるがままに左手を差し出す。

 クロトは彼女の手を取って、その指に指輪をはめた。


「っ・・・ありがとうございます、クロト様。」

「ん、どういたしまして。」


 ラファエルはクロトの記憶を一部受け継いでいる。

 その為に、男性から女性へ指輪をはめることの意味も理解していた。

 勿論、そんな意図が無いことは明白で、彼女もそれは分っていた。

 だがそれでも、微笑むクロトにクラクラきてしまったようだ。


 クロトも罪な男である。


 これでラファエルの装備は一応揃った。


 武器 右手『氷神の麗剣』 左手『氷神の幻盾』

 防具 『熾天使の聖衣セラフィム・ドレスアーマー

 装飾 『ラファエルの指輪』


 現段階ではこれだけだが、今後もラファエル専用アイテムの作製は続く。

 なお、熾天使の聖衣は、四大天使とセラフィムの素材が大量に使用された。

 解析の際に、やはり複製品が大量に消費されている。


 ちなみに、専用アイテムは当然の如く、他の者には使えない。

 本人に最高の効果を齎し、他者に何の効果も与えないよう調整されているのだ。


 また、アクアやクロトの専用アイテムは現段階では作製不可となっている。

 自分たちの体を解剖する訳にはいかないので、遅遅として進まないのも道理だ。








 ラファエルはクロトから指輪をもらい、困惑していた。


(何故、クロト様のお言葉や行動で、ああまで心が乱されるのでしょうか・・・?)


 初めは恥ずかしながら恋愛感情を疑ったのだが、どうにも違うように感じられる。

 そして、恋愛感情ではないのにクロトを愛しく思ってしまう不思議。

 一体これはどういうことなのかと。


(継承記憶を検索・・・家族愛、は違いますね。主従愛、も違うと思われます。)


 クロトから引き継いだ知識に照らし合わせても、満足のいく回答は出なかった。


(症状としては恋愛感情に似ていますが、条件が大きく外れていますし・・・。)


 いよいよもって何か不具合でも起きているのではないかと思い始めたラファエル。

 その線で考えを進め始めた。


(不具合だとするのであれば、再調整、でしょうか・・・?)


 調整後の自分が今と同じ自分であるとは限らない。

 同じ容姿で、同じく忠誠心を持つが、自分とは違う自分。

 そんな自分が主から「ラファエル」と呼ばれる。


 それは・・・物凄く嫌だ。

 ラファエルは心の底からそう思ったのだった。


 彼女は以前よりも遥かに人に近い心、いや、人と同じ心を手に入れていたのだ。


 だからこそ、ラファエルは激しく動揺した。

 他でもない、偉大なる主のその言葉で。


 クロトの家に帰ってきてすぐのこと。




「ラファエル、この後少し調整しようか?」

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