異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

暇を持て余して

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 クロトは珍しく暇を持て余していた。


(天の塔はアクアたちが攻略中だし、仕事は終わらせたし・・・暇になったね。)


 アクアたちが戻ってくるまで数日はあると予想される。

 こういう時の選択肢は、それほど多くはない。


 1、リュノアに乗って空を飛びながら昼寝

 2、リオンを揶揄いにいく

 3、リンカと会ってイチャつく

 4、カリスを揶揄いにいく


 他にも幾つかあるが、大体こんなところだろうか。

 この中からクロトが選んだのは・・・。









「リオン、遊びに・・・じゃなかった。揶揄いにきたよ。」

「何で言い直したのかな!?」


 リオンが執務をしている途中で乱入したクロト。

 心なしか、ソワソワしているリオンに、メイドが涙ぐむ。


「クロト君、申し訳ないけど、今は執務中だ。部屋で待っていてもらえるか?」

「お構いなく」

「僕が構うんだっ!・・・前も似たようなことを言った気がする。」


 リオンは既視感に襲われている様子。


「待っているのはいいけど、そんなにソワソワして仕事になるの?」

「そ、そ、ソワソワなんてしていないけどっ!?」

「間違いなくソワソワしてるから。恋人との待ち合わせを待つ人みたいだよ?」

「こ、恋人っ!?」


 クロトの物怖じしない言い方に、リオンは顔を赤らめる。

 ますますソワソワするようになった。


「ちょっと失礼。僕も手伝うよ。」

「えっ・・・?なんで分かるの?しかもそれは機密書類!?」

「なんでって・・・この国の大臣は僕の部下だよ?」

「嘘っ!?」


 ついに、そんなところまでミカゲ財閥が浸食していたらしい。


「ちなみに、そっちのメイドさんも僕の部下だよ。」

「ええええっ!?なんでっ!?君は昔から僕に仕えてくれてたはずだろう!?」

「申し訳ありませんリオン殿下。あまりにも魅力的な提案でして・・・!」

「そんなぁ・・・!」


 別に裏切りという訳ではないが、不思議な悲しみが湧いてくるリオン。

 もっと厚遇してあげれば良かったと、今更ながらに後悔する。


「優秀な人材には、それ相応の報酬を与えないと、世界が進歩し辛いからね。」


 クロトはリオン付きのメイドが持つ一級品の仕事ぶりを買ってスカウトした。

 最初は難色を示されたが、仕事内容と給金、ボーナスを聞いたら、承諾。

 ミカゲ財閥の社員教育係と王城出向役を兼任。

 現在は教育部門責任者であるエリスの部下に収まっている。


「クロト君、流石にそれはどうなんだい?人の部下を何だと思って・・・!」

「それはこっちのセリフだよ。君は彼女の何を見ていたのかな?」


 少し怒りを露わにしていたが、クロトの怒気に気圧されて、ビクつく。


 リオンが幼い頃から傍についていたメイドは、病気の母親の為に働いていた。

 もう二十代半ばだというのに、恋などをして人生を楽しむ余裕すらない。

 もう少し給金が増えれば、余裕が生まれるというのに。


 本人は半ば割り切っていたようだが、夢を見ない訳ではない。

 クロトは、後輩の面倒を見ている彼女が楽しそうなのに目を付けたわけだ。

 その能力に見合った仕事と給金。

 ボーナスとして母親の病気を治す薬。


 これに飛びつかないわけがないのだ。

 それでも迷っていた辺り、リオンは相当好かれているのだろう。

 王城に出向という条件を付けたら、あっさり頷いた。

 なお、現在は財閥の社員といい雰囲気になっている。


「リオンは統治者としての自覚が足りてないよ。」

「でも、僕はクロト君みたいに何でもできる訳じゃないんだ・・・!」


 リオンはクロトに対して劣等感を覚えていたようだ。

 涙目で自分はクロトと違うのだと主張する。


 その後、クロトの雷が落ちた。


「リオン、僕だって初めから何でもできたのではないんだ。」

「はい・・・。」

「諦めて理解を放棄することは、絶対に駄目。責任ある立場なら尚更にね。」

「その通りです・・・。」


 リオンは項垂れながら反省した。

 明らかに自分が悪いのに責任転嫁したのは、王としては最悪の選択だ。

 ここでちゃんと謝れるのは、いいことなのだが。


「ふぅ・・・。お説教はここまで。仕事も終わったし、僕は行くよ。」

「あっ、待っ・・・行っちゃった。」


 リオンは今度会ったらちゃんとお礼を言おうと心に決めた。

 そして、自分付きのメイドに向き直る。


「ずっと気づけなくてごめん!もっと、人の事をよく見るように気を付ける!」

「・・・勿体なきお言葉です。」


 名も無きメイドは、未だにリオンへの忠誠心を持ち合わせている。

 心優しき次代の王を、精一杯支えようと固く誓ったとかなんとか。









「あ、リオン。遅かったね?」

「何で僕の部屋に居るのかな!?帰ったんじゃなかったのかい!?」


 帰るとは言ってなかったなと思い出しながら、そう叫んだリオンだった。

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