異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

巨蟹の試練

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 ディアナは宿にて悶えていた。


 本人はほんの数十秒だけ撫でてもらっていたつもりだったのだ。

 だが、実際は五分近くも我を忘れて浸っていた。

 恥ずかしいなんてものではないだろう。


(温かくて気持ちよかったわね・・・・・・っ!)


 ディアナは父親の事を思い出して、涙腺が緩んだ。

 自分の中のナニカが、音を立てて壊れた気がした。


 何故自分を置いて死んでしまったのか。

 魔物となった祖父を探すことがそんなに大事な事だったのか。


 封じられていた思いが、次々と湧き出してくる。

 今までよく平静を保っていられたことが不思議なくらいに。


 ディアナは感情を制御できずに荒れかけた。

 しかし、幸運なことに、ディアナは一人ではなかった。


「ディアナ先輩・・・!」

「っ・・・アイシア・・・。」


 近くに居て異変を感じ取ったアイシアが、ディアナを抱き締める。


 その後、ディアナはこどものようにわんわん泣いた。

 父親への文句や怒りを爆発させ、アイシアにぶつけた。

 アイシアはそれを優しく受け止め続けた。

 その日は夜通し、部屋の中に鳴き声が響いていたのだった。




<特殊条件4「正しく決別した過去」を確認しました>

<特殊条件9「断ち切られし未練」を破棄しました>

<封印されていた感情が順を追って解放されます>

<一部効果の発揮を保留にしました>




 特殊条件4「断ち切られし未練」は、一種の救済措置だ。

 条件を満たした者が潰れてしまわないよう、ありとあらゆる未練を断つ。

 そのために、一部の感情を封印する。


 今回は、父への怒りや残された悲しみなどが、ディアナを潰すと判断された。

 父親の名誉の回復など二の次であったということだ。

 もしもディアナが強い心を最初から持っていたら、必要の無かったものだ。


 そして今、ディアナは潰れずに先へ進むことができる環境にある。

 そうシステムが判断し、特殊条件を上位へランクアップさせた。


 ディアナはアイシアの力も借りて、正しく過去と決別することができた。

 ここから、更に成長していくことであろう。







「クロトさん、ここまで分かってらしたのですか?」

「まさか。ちょっと心配して見に来ただけだよ。」

「ん・・・。少し、不安定、だった・・・。」


 クロトとエメラ、インフィは、宿の外にて中の様子を窺っていた。

 クロトは、周囲の迷惑にならないように、鳴き声を遮断をしている。


「まあ、引き金を引いた責任もあるし、これくらいはしてあげないとね。」

「・・・優しいんですね。エメラさんがベタ惚れなのも納得です。」

「ん・・・。大好き、だよ・・・?」

「私も大好きです・・・!」


 インフィが大好きなのは、エメラの事だが。

 色んな意味で誤解を生みそうな発言だ。

 エメラも冷や汗を流して、インフィを諭すように語り掛ける。


「ん・・・。インフィ、私、は・・・同性愛、では・・・ない、よ・・・?」

「・・・?はい、分かってますよ?私も違いますし・・・?」


 インフィは首を傾げて、不思議そうにしながら答えた。

 クロトは良いことを思いついて、とある情報をインフィに吹き込んだ。


「インフィア、実はエメラは・・・という夢を見て、嫌ではなかったらしいよ?」

「えっ・・・!?そ、それはっ・・・つまり・・・!」


 クロトに囁かれ、急にモジモジし始めたインフィ。


「ん・・・。クロト、インフィに・・・何を、教えたの・・・?」

「ん?エメラがインフィに迫られて嫌ではなかったという夢の話を・・・。」

「ん・・・!クロト、揶揄うのは、だめ・・・!」


 クロトの言い方では、インフィを恋愛的な意味で好いている様に聞こえる。

 敢えてそういう言い方をしたのだと認識し、クロトを叱るエメラ。


「あっ、エメラさん、そんなに怒らなくても、私は誤解などしていませんから!」

「ん・・・?そう、なの・・・?」

「はい。エメラさんがクロトさん一筋だと、ちゃんと理解しているつもりです。」


 インフィも、そこを勘違いしたわけではないのだ。

 ただ、自分がそういう風に見られたと誤解して恥ずかしくなっただけで。


「ん・・・。インフィ、いい子・・・。」

「あっ・・・。」


 インフィはエメラに頭を撫でられて、とても幸せそうになった。


「ピュイッ!」

「ん・・・。フェニアも、いい子・・・。」

「ぴゅい・・・。」


 やきもちを焼いたフェニアが召喚石から出てきた。

 エメラは一緒に撫でてあげることに。


 クロトは、やけに百合百合しさが溢れる一日だったなと思ったとかなんとか。



 その三日後、巨蟹の試練はクリアされた。

 内容については特筆するところもないので省略だ。

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