異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

アイシアの真価

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 エメラはアイシアと向かい合って、背筋に寒気が走った。

 目の前の存在は誰かに似ているような気がして、よく観察する。

 すると、どことなくクロトの姿を幻視してしまうようになった。


(クロトに、少しだけ、似てる・・・。)


 清濁併せ持つ、澄んだ瞳。

 クロトとはまた違うが、似ているのは間違いない。

 エメラは油断なく剣を構え・・・戦いは始まった。






「どういうことよっ!そんな危険な事をアイシアにやらせたの!?」

「ディアナ、落ち着いて・・・!」


 ディアナがクロトに食って掛かる。

 音声はクロトによって遮断されているので、戦闘の邪魔にはなるまい。


「何かおかしなことでも言ったかな・・・?」

「おかしなことだらけよっ!何でそんなことをっ・・・!」

「ディアナ、落ち着いて!クロトさんにも考えがあるはずだから!」


 インフィは必至でディアナを止めた。


「インフィアには悪いけれど、それほど深い考えはないよ?」

「っ、じゃあ、アイシアが潰れてしまうこと前提なんですか・・・?」


 今までの信頼関係とたった今湧いた不信感が、インフィの中でせめぎ合う。


「まさか。もちろん潰れない方が良いに決まっているよ。」

「だったら何で・・・!」

「当然の如く、強くなるため、かな。」


 あっけらかんと答えるクロトに、二人は理解が追いつかない。


「・・・別に、ゆっくり強くなればいいじゃない。」


 ディアナは、そんな無茶をせずともいいのではないかと主張する。

 インフィアは何も言わないが、その表情からして、同じ意見のようだ。


 クロトは諭すように、二人に教えてあげた。




「君たちがそう思えるのは、君たち自身が、才能ある者だからだよ。」








 アイシアとエメラの戦いは、意外な展開をみせていた。

 エメラが何度もペースを乱し、攻め切れていないのだ。


 決してアイシアが優勢という訳ではない。

 地力の差は埋めがたく、エメラが圧倒的に優勢。

 だがそれでも、勝負は決まらない。


 その原因は、時折アイシアが、限界を超えた動きをするからだ。

 勝負が決まりそうな時や、エメラが攻勢に移る寸前。

 そんな要所要所で、アイシアの能力値ではあり得ない動きをする。

 嫉妬の力を上手くコントロールした結果である。


 当てずっぽうではなく、事前に見たエメラの戦い方を思い出しながらの対応。

 アイシアは感覚派ではなく理論派なのだ。


「風神剣・雷っ!?」

「・・・!!」


 エメラが剣技を放つタイミングで、アイシアが最高速で接近。

 間合いを狂わせることに成功した。


 そもそも、インフィアとディアナの二人と戦った時、剣技は使用しなかった。

 今回は、使わなければ勝ちきれないと踏んだのだが、それも凌がれた。


 緻密な計算と嫉妬による瞬間的な爆発力。

 クロトとは違うが、どこか似ている戦い方。

 それもまた、エメラの動きを僅かに鈍らせる。


 戦いは、数十分間続いた。








「「・・・・・・。」」


 ディアナとインフィは、アイシアの戦いを見て絶句していた。

 それほどに、アイシアの戦いぶりは心に響くものだったようだ。


 二人は、クロトに諭されて、何も言い返せなかった。

 クロトの言葉が正しいと認めてしまった。


「世の中には才能のある者とない者が居る。二人は前者、アイシアは後者。」


 ディアナとインフィはともに瞳のスキル持ち。

 重要な権能が宿る瞳だけあって、その力は強力だ。

 口が裂けても才能が無いなどとは言えないだろう。


「両者が同じように努力したら、差は縮まらないんだよね。」


 努力が才能を上回るということは起こり得る。

 だがそれは、才能ある者があまり努力をしなかった場合だ。

 才能ある者が最大限努力したら、才能のない者では十中八九勝てない。

 勿論、例外はあるのだが。


「だから、アイシアはリスクを負わなければ、君たちに置いていかれてしまう。」


 それゆえに、今の状況なのだ、と。


「僕には彼女の気持ちが分かるよ。僕も才能が無い方だからね。」

「「・・・・・・。」」


 二人は、その言葉を頭から否定することなどできなかった。



 しばらくして、戦いの決着はついた。

 分身という切り札を切ったエメラがアイシアを圧倒して、勝利した。



 勝負が終わっても、アイシアの雰囲気は変わらなかった。

 クロトはアイシアに近づいて、アドバイスを送る。


「目を閉じて、嫉妬を込めた剣を半ばから叩き折るイメージで。」

「・・・・・・!」


 アイシアは言われるがままに、イメージした。

 心の中で剣がへし折れた時、アイシアはいつもの雰囲気に戻った。


「後は、それを自然にできるようになればいい。」

「はい!ありがとうございました!」

「うん、どういたしまして。」


 クロトはアイシアの感謝を受け取り、その頭を撫でた。

 アイシアはスッキリした顔で、とっても気持ちよさそうに笑ったのだった。

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