異世界隠密冒険記

リュース

文字の大きさ
上 下
402 / 600
第二部「創世神降臨」編

クロトの原点

しおりを挟む
 クロトは、昔から今のような性格や思考をしていた訳ではない。

 ある意味当然かもしれないが、クロトにだって自我を形成した過去はある。





 クロトは国内有数の大財閥、ミカゲグループに生まれた。

 また、一人兄がおり、そちらの兄が将来グループを継ぐことになっていた。


 クロトの兄は天才で、逆にクロトは平凡であった。

 何をしても、兄に勝てないクロト。

 幼いころから比べられて育っては、居心地が良いとはとても言えないだろう。


 だがしかし、クロトは平凡ではあったが、普通では無かった。

 主に、その精神性が。


 何故、生まれ持った才能が優れている相手には勝てないのか。

 否、勝てないという答え自体が間違いで、自分のやり方がダメなのでは?

 あり得ないということこそあり得ない。

 勝てる道は必ず存在しているが、それに気づけないだけ。

 ならば、凡人が天才に勝てる道を選び取ればいい。


 クロトがそう考えたのは、まだ五歳にも満たない頃であった。

 それは、負けたくないという思いからではなく、純粋な好奇心からきたもの。

 その日からクロトは、様々な情報を集め始めた。


 人間の性質、心理、常識、行動理念と行動の関係性。

 因果関係の検証、変数解析、自暴自棄な行動の法則性。


 ありとあらゆる情報を収集、解析、考察。

 そうしているうちに、その思考力は、類いまれなる速さを持つようになった。


 普通の学業などにおける成績は五歳年上の兄との差は開く一方。

 だが、これで良いとばかりに、調査に没頭した。

 今は、勝つために負けるべき期間なのだから、と。

 両親からは期待されておらず、自由に動けたことも大きかった。


 膨大な数となったパズルのピース、その枠組みを作るような作業。

 それは、世界の仕組みを公式化してしまう、恐ろしい試みだった。


 五年かけて公式を完成目前にまでこぎつけてしまったクロト。

 周囲の者も、少しずつクロトの優秀さに気づき始めていた。

 拡張された思考により、遅れていた学業成績をあっという間に上げたからだ。


 しかし、パズルの枠組みは不完全のまま、あと一歩が完成しなかった。

 とても大事な世界の構成要素を、突き止められずにいた。

 それは、クロトには致命的に欠けていた要素。


 そんな時に、運命の出会いがあった。





「そこに居る同い年くらいの少女!私と勝負しよう!」

「・・・誰が少女だって?それを言うなら少年じゃないかな?」

「・・・・・・あれぇ?」


 まあ、運命の出会いなんて、締まらないものであることが大半なのだ。

 当時十歳であったクロトは、頬を引き攣らせながら了承した。



 結果から言うと、ありとあらゆる勝負が引き分けに終わった。

 チェスは何度やっても引き分けだった。

 かけっこはクロトが勝つと思いきや、突然地震が起きて、三回とも中止に。

 ババ抜きは、クロトが勝つ寸前にどこかから飛んできた矢が札を撃ち抜いた。


 クロトは気づいた。

 目の前の少女は、信じられないレベルで運がいいのだ、と。


「あはははっ!私が一度も勝てないなんてすごいねっ!」

「それはこちらのセリフなんだけどな。」


 クロトは既に、神童と呼ばれた兄を超えていた。

 ありとあらゆる要素で、上回っていた。

 それなのに、勝てない相手。


 それが、日向白奈という人間。






 クロトとシロナは、二人とも、自分に足りないものを探し求めていた。


 シロナは極めて運がいい故に、これまで失敗も敗北も、引き分けすら無かった。

 だからこそ、自分を犠牲にし、人の為に行動できる人間になっていた。

 どう行動してもうまくいくし、最終的には自分に良いように転ぶのだから。


 クロトは、長きにわたる考察の末、突き詰められた合理性を保持していた。

 だからこそ、自己犠牲というものを理解できなかった。

 自分の全ての行動は、自分の為にあるものなのだから。


 相反する二人が出会って、引き分けた時、自分に足りないものを得た。


 クロトは、時に世界と人間は合理的でなくなると知り、自己犠牲の法則を。

 シロナは、初めて失敗の危機に晒されて、自己中心的な思考を。


 その瞬間、二人の超人は誕生した。









「はい、ステイルメイト。また引き分けかぁ・・・!」

「そうだね。シロナにだけは勝てる気がしないよ。」

「それは私も同感だなぁ・・・。」


 二人とも成長を遂げた為、両者の間に差は生まれなかった。


「クロトはさ、ちょっとだけ丸くなったよね?」

「・・・そう?だとしたらシロナのおかげじゃないかな?」

「私の?」

「ああ。合理的なだけでは駄目。いや、非合理すら合理に組み込むのが大事だ。」

「うん、何言ってるのかまるで分からないね!」


 どうやら、シロナは頭脳派では無かったようだ。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

切なさを愛した

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:6

その距離が分からない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:7

【R18】この恋止めて下さいっ!!

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:41

思い出を売った女

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:4,146pt お気に入り:744

【完結】失くし物屋の付喪神たち 京都に集う「物」の想い

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:7

可愛いだけが取り柄の俺がヤクザの若頭と番になる話

ivy
BL / 連載中 24h.ポイント:134pt お気に入り:872

ヒロインではなく、隣の親友です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:18

孤独

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

おもらしの想い出

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:262pt お気に入り:15

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。