異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

山羊の試練と過去

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 エメラとヴィオラ、ナツメの三人は、牡羊の試練へ再挑戦しに行った。


 一方、クロトとアクアは山羊の試練へ出向いたのだが・・・。

 現在、少々追い詰められていた。


 クロトも、何となく嫌な予感はしていたのだ。

 だが、危険であるが故に他の者に任せるなどあり得ないので、挑戦した訳だ。


 以前、ナイトメアドールはクロトの戦いたくない相手をコピーできなかった。

 だが、天の塔に居るオリジナルの星十二天「山羊」は一味違った。


 クロトの戦いたくない相手であるソレと、アクアの戦いたくない相手のクロト。

 その二体をほぼ完全に再現してしまった。

 現在は二対二の戦闘になっている。


 だとしても、クロトとアクアが追い詰められるのはどういうことなのか。




 少々時間はさかのぼる。


 天の塔28F


 クロトは眠りから覚め、隣で眠るアクアの姿を確認した。

 今回の試練は、過去に経験したことを悪夢として見て、乗り越えるというもの。


 クロトはさっさと目を覚ましてしまったが、アクアはは苦戦しているようだ。

 まだ目覚める気配がない。


「アクアが見ている悪夢は・・・家の事かな?」


 そんなクロトの予想は正解であった。









 アクアの夢の中にて。



「貴様のせいでっ、貴様のせいでっ!!ブルースフィア家はお終いだっ!!」

「っ、お父様・・・!」

「黙れっ!貴様などもう娘ではない!」

「そうよ!あなたなんかを生んだことを後悔しているわ!」

「そん、な・・・!」


 幼き頃のアクアリア・ブルースフィアは両親から罵倒されていた。

 昨日まではやや冷めたところはあれど、普通の家族だったというのに。

 傲慢なところはあったが、普通に可愛がってくれていたというのに。




 事の起こりは十歳になったアクアが社交界にデビューしたとき。

 招待された会場であるブルータル王国王城にて、事件が起こった。


 アクアがとあるスキルを発現させてしまったのだ。

 そのスキルの名は・・・・・・虚言の枷。






 ブルースフィア家は真実写す青き瞳を継承している。

 とはいえ、直系の血統でも発現させることが出来ない者も相当数居た。

 そのため、生まれつき青き瞳を宿していたアクアは大変に可愛がられた。


 アクアの両親は貴族らしい傲慢な性格で、平民を人と思わず平気で殺すタイプ。

 そんな両親に育てられたアクアは、僅かに傲慢な性格になりかけていた。


 だが、アクアを責めることはできないだろう。

 幼い子供にとって育つ環境は、性格を形成するとても重要なファクターなのだ。

 寧ろ、ギリギリ踏みとどまっていたことが奇跡的ですらある。

 生まれ持った善良な性格が、アクアを押しとどめていたのだろう。





 パーティー中に虚言の枷という嘘がつけなくなるスキルを発現させてしまった。

 その後どんな未来が待ち受けるかなど、想像に難くない。


 一度アクアが嘘を吐けなくなったとバレたら、大騒ぎになった。

 沢山の貴族が寄ってきて、アクアから無理やり情報を引き出した。

 アクアは混乱もあり、コントロールも出来ず、全て正直に答えてしまった。

 次期当主として育てられたアクアは、色々な秘密を知っていたのだ。


 代々宰相職を務めていたブルースフィア家を快く思わない家は多い。

 ここぞとばかりに秘密やスキャンダルの情報を求めた。


 そして、様々な情報を抜かれたブルースフィア家は追い詰められた。

 中には不正に関する情報すらあったゆえに。



 こうして、ブルースフィア家は没落を迎えた。









 アクアの両親は、殴る蹴るの暴行を加えた後、アクアを森の中へ捨てた。


「ごほっ、ごほっ・・・!お、とう、さまっ・・・!」

「ふん。多少は溜飲が下がったか。生かしておいてもらえるだけ有難いと思え。」


 半死半生の状態で森に放置などすれば、間違いなく助からない。

 自分で殺めることをしなかったのは、手が汚れるからというだけの理由だ。

 両親の中でアクアは、既に平民以下の存在だったのだ。


「お、かあ、さま・・・!」

「っ、汚らわしいっ!」

「げほっ・・・!?」


 母親はアクアを蹴り飛ばした。


「早く行きましょ!」

「ああ。まずは寄り子だった男爵家へ向かって再起を・・・。」


 アクアの父親と母親は、アクアに一瞥もせずに去っていった。








(どうして、ですか・・・?愛してくれていたのでは、無かったのですか・・・?)


 アクアは薄れゆく意識の中で、自分の中の大切なナニカが壊れていくのを感じた。

 自分を構成していたモノがバラバラになっていくような感覚。


(誰も、私を愛してくれていなかったのですか・・・?)


 アクアの瞳からは涙が流れてきた。

 失意の中、その命の灯は、少しずつ消えてゆき・・・。













「捨て子・・・?何でこんなところに・・・って、死にそうじゃんっ!?」


(この方は、一体・・・?)


 ぼやけるアクアの瞳に、かすかに女性の姿が映った。

 そして、意識を失った。


「命の水・・・よし、これで持ち直すはず!駄目だったらごめんねっ!」

「・・・・・・。」

「あと、創世の秘薬もつけちゃうよ!・・・ごめん、もう時間だ!じゃあね!」


 女性はそう言い残して、焦ったように去っていった。




 かくして、アクアは生きながらえることになった。

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