異世界隠密冒険記

リュース

文字の大きさ
上 下
398 / 600
第二部「創世神降臨」編

牡羊の試練

しおりを挟む
 双魚の試練をクリアしてから一週間ほどで、エメラとナツメが戻ってきた。

 話を聞いていくと、まだクリアしたわけではないらしい。


「じゃあ、後はボスだけということ?」

「ん・・・。だから・・・ヴィオラの力、を・・・借りたい、な・・・。」

「・・・分かった。」


 星十二天「牡羊」は回復特化タイプなので、ヴィオラの能力が必要なのだろう。

 ヴィオラはエメラに頼られたことを嬉しく思いつつ、了承した。


 今更だが、恋人たち同士の関係は、複雑なようで複雑ではない。


 みんな仲が良いことは間違いなく、互いに尊敬し合っている。(ナツメ含む)

 だが、やはりというべきか、一番尊敬を集めるのは、アクアかエメラだ。

 理由については定かではないが。


「ん・・・。ありがとう、ヴィオラ・・・。」


 エメラは眠そうな瞳のまま微笑んで感謝を伝えたが、とっても色っぽい。

 その場に居た全員がドキリとさせられるくらいに。

 夢の中でインフィが血迷ったのも仕方のないことかもしれない。


 それはさておき。


「そういえば、羊の群れの中でエメラ殿が眠ってしまって大変だったでござる。」

「ん・・・。気持ちよかった、から・・・。」


 ダンジョン内の草原に敵ではない羊の群れがいたのだとか。

 大半の羊が固まって眠っており、エメラはそこへ突入。

 一部の羊が柵を飛び越える様子を見ながら眠ったらしい。


 エメラでなくとも眠りたくなる状況である。


「策を飛び越えた羊の数を数えるのが試練ゆえ、大変だったでござるよ・・・。」

「ん・・・。ナツメ・・・一人で、やらせて・・・ごめん、ね・・・?」

「うっ、謝られる程では・・・ないでござるからして・・・。」


 ナツメはエメラに頭を下げられて居心地が悪い様子。


「羊の群れの中で眠るエメラ・・・絵になりそうですわね・・・。」

「エメラさんはどんな様子でも絵になりますから・・・。」


 マリアとアクアはその様子を思い浮かべて、感嘆のため息を吐いた。


「そうだね。マリアだったら・・・羊にもみくちゃにされそうな気がするね。」

「流石にそんなことにはなりませんわ!」


 いくらなんでもそれは無いだろうと否定するマリア。


「分からないよ?実際に連れてくれば分かるかな?」

「ダンジョン内から連れ出すのは不可能ですわよ・・・。」


 無茶苦茶なことを言い出したクロト。

 別段珍しい事でも無いが。


「やってみないと分からないよ?君もそう思わないかい、レオ?」

「がう!」



 ・・・・・・。



「・・・・・・なあっ!?連れてきてしまったんですの!?」

「うん。かわいいでしょ?」


 クロトが撫でているのは獅子の試練で遭遇した、敵ではない獅子の子ども。

 隠密者の隠蔽でエメラ以外からは見えていなかったのだ。


 そのことを察したマリアは、エメラを問い詰めた。


「エメラっ!何故今まで黙ってたんですのっ!?」

「ん・・・?可愛い、から・・・?」

「答えになってませんわよ!?」


 こちらは駄目だとばかりにクロトへ向き直る。


「クロトっ!一体何を考えてますのっ!」

「ん?レオもマリアも可愛いなぁ、と考えているけど?」

「そんなことは聞いてませんわ!」

「だったら口元を緩めない方が良いんじゃないかな?」

「ッ!?」


 マリアは扇を取り出して口元を隠した。


「レオ、あの扇をとりあげて?」

「がうっ!」

「なっ!?」


 レオがマリアに飛びかかって、マリアにじゃれつく。

 マリア大好きなコロも、隠蔽を受けたままで、マリアに飛びかかった。


「っ!?ひゃうんっ!?」

「元気いっぱいだね。今度孤児院にでも連れていってあげようかな?」

「「「「「がうがう!」」」」」


 獅子たちは賛成らしい。

 きっといい遊び相手になるだろう。


「さて、次の試練は山羊だったかな・・・?」

「その話の前にこれを何とかしてくださいましっ!?」


 マリアはコロに服の中を動き回られて涙目であった。








 これは後日、エルフの里での話。



「ユフィ、遅いわね。もうすぐ夕食なんだけど・・・。」

「それは珍しいことだな。さがしてくるべきか?」


 セーラとレフィが相談していると、ユフィが帰ってきた。


「お母さん!獅子の子なのです!」

「がう!」

「ユフィ!?どこから連れてきたの!?」
 

 セーラは驚愕し、レフィは絶句している。

 危険は無さそうだが、一体どこから、と。


「お父さんから送られてきたのです!」


 ユフィは一緒に届いた手紙をセーラに渡した。

 そこにはクロトの字で、ユフィとセーラの遊び相手に送った、とあった。


「それは分かったけれど、どうしてユフィだけではなく私の名前も?」

「ユフィと精神年齢が変わらないと思われているのではないか?」

「レフィ!?それは流石に冗談よね・・・!?」

「・・・はぁ。」


 セーラはレフィの無言による主張を理解して、呆然としてしまった。


「この子の名前はセラなのです!」

「・・・えっ!?ユフィ、それはちょっと・・・。」


 自分の名前と似ているのはどうなのかと疑問を呈するセーラ。


「セラ!お手、なのです!」

「がう!」

「セラ!おかわり、なのです!」

「がうっ!」

「セラ!お座り、なのです!」

「がーう!」

「もうやめてっ、ユフィ!?」


 セーラが我慢できなくなってユフィを止めた。

 結局、名前はクロトの決めた通り、ミケとなった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

切なさを愛した

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:6

その距離が分からない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:7

【R18】この恋止めて下さいっ!!

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:41

思い出を売った女

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:4,146pt お気に入り:744

【完結】失くし物屋の付喪神たち 京都に集う「物」の想い

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:7

可愛いだけが取り柄の俺がヤクザの若頭と番になる話

ivy
BL / 連載中 24h.ポイント:134pt お気に入り:872

ヒロインではなく、隣の親友です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:18

孤独

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

おもらしの想い出

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:312pt お気に入り:15

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。