異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

場所を変えて

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「度々助けて頂いて、本当にありがとうございます・・・!」

「どういたしまして。なんというか、奇妙な偶然だけどね。」


 クロトはアイシアにお礼を言われていた。

 なお、アイシアを汚そうとした男どもの処分については省略で。


「では、いただきます。」

「ああ、どうぞ。」


 アイシアはグラスに入っているお酒を飲む。

 麻痺毒の解毒をした後、二人は別の酒場へやってきていたのだ。

 もちろん今回は、ミカゲ財閥傘下のちゃんとした酒場。

 アイシアも、怪しい酒場は二度と御免とのこと。


「ん、これ、美味しいですね?」

「僕はお酒を好まないから分からないけど、不味いということはないだろうね。」

「それはそれで意外な事実ですね・・・。」


 クロトがお酒を好きでないことは、意外に思えるらしい。


「ところで、ディアナの方は良いの?」

「あ、はい。今日は遅くなると言ってありますので。」

「ならいいんだけど・・・。」

「すみません、付き合わせてしまって・・・。」


 アイシアはどことなく申し訳なさそうだ。

 クロトは欠片も気にしていないのだが。


「ま、社員のメンタルケアも仕事の内ということで。」

「そんなに落ち込んでいるように見えますか・・・?」

「うん、誰がどう見ても落ち込んでるようにみえるよ。」

「そうですか・・・。」


 アイシアはため息を吐いた。


「不満や愚痴があるなら、僕が聞くから、今のうちに言ってしまうといいよ?」

「・・・では、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。」


 このままため込んでいては、いずれ亀裂を生むと考えているアイシア。

 その前になんとかしたいので、その言葉に甘え、胸の内を吐露することに。


 そうして、アイシアはポツリポツリと話し始めた。


「仕方が無いのは、分かるんです。相手の人には、時間が無いですから。」


 ディアナが知り合った女性は、明日の夜には王都を離れる。

 だから、明日しか一緒に出歩ける日は無い。

 聞いたわけではないが、そのように言葉尻から伝わった。


「ですが、頭では分かっていても、何故か納得できないんです・・・!」

「なるほどね・・・。そりゃあ怒りたくもなるね。」


 大まかな事情を聞いて、ディアナにも責任はあると判断して、そう告げた。


「何なんでしょう・・・こう、分かっていても認めたくないという感情は。」

「それは・・・嫉妬、だね。」

「・・・・・・えっ?」


 クロトの言葉にポカンとしてしまうアイシア。

 しっかりしていても、まだ成人したばかり。

 そういう不安定な感情を持て余すお年頃なのだ。


「嫉妬、ですか・・・?私が・・・?私、そんな醜い感情は・・・。」


 マイナスイメージのある嫉妬という感情を抱いているなど、認めたくはない。

 そのため、何の根拠もなくそれは違うはずだと否定した。


「その人にディアナを取られた気がして、嫉妬したんじゃないかな?」

「っ、別に、ディアナ先輩が誰と一緒に居ても、それは先輩の自由で・・・。」

「なら、アイシアが怒る必要は無いよね?」

「それは・・・物には道理があって、先輩が不義理なことをしたから・・・!」


 クロトを睨みながら、嫉妬では無いと強く否定する。

 だがクロトは、合理的な説明でアイシアの逃げ道を塞いでいく。


「それならそうとディアナに言えばいいよね?それは正しい行いなんだから。」

「・・・・・・。」

「言わずに酒場で愚痴を漏らすのは、暗い感情があることを認めるのと同義。」

「っ・・・!」


 何も言い返せないアイシア。


 ここで反論せずに自分を顧みることが出来る辺り、得難い人材だと言える。

 認めたくなくて逆切れする者も少なくないというのに。


 アイシアはクロトの言い分を認め、自分が嫉妬していたことを理解した。

 そして、尊敬する先輩になんという醜い感情を抱いたのかと自己嫌悪に陥る。


 クロトは過剰にアイシアを落ち込ませたい訳ではないので、フォローする。


「誤解の無いように言っておくけど、嫉妬が悪い感情という訳ではないよ?」

「え?でも・・・。」


 納得できないと言った具合のアイシアに、簡単に説明する。


 人は誰しも、多かれ少なかれ嫉妬する。

 嫉妬とは良くも悪くも、人の成長を促す。

 その過程で醜い感情になることもある。

 大事なのは、その感情をコントロールして、己の成長に利用する事。


「・・・と、そういうこと。」

「コントロール、ですか?」

「ああ。その女の人への嫉妬を操って、自分を更に高めることが出来る。」

「自分を・・・高める・・・。」


 アイシアはその言葉を反芻するように呟いた。


「強い感情は人に変化を齎す。それを制御できれば、大きく成長できるよ?」

「それは、実体験ですか・・・?」

「勿論。人の時間は有限だから、嫉妬という感情を利用しない手はないよ。」

「はぁ・・・。」


 アイシアは微妙にすっきりした気がした。

 人によって伝え方は違うが、今のはアイシアにピッタリの説明だったらしい。

 流石はクロトである。


「負けたくないという感情を上手く利用して、強くなってしまえばいいんだ。」

「嫉妬を、利用して・・・っ!」


 アイシアは、そう呟いたとき、力が湧いてくるのを感じたのだった。

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