異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

帰還と再契約

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 クロトが結婚すると決めた日まで、あと五か月となったこの日。

 アクアが孤高の道をクリアし、東国での用事も済ませ、王都へ帰還した。


「クロトさん、ただいま戻りました。」

「おかえりアクア。創世の資格はどうだった?」

「はい、この通り手に入れました。」


 アクアは椅子に座って、クロトに創世の資格を見せた。


「うん、おめでとう。後はレベルを100にするだけだね。」

「恐らくもう少しだと思うのですが・・・。」


 クロトと一緒に深海竜を倒したアクア。

 確かに、そろそろレベル100になってもおかしくない。

 仮に、経験値の分配が少なめだったとしても、だ。


「そう言えば、マリアの方はどう?」

「レベルは99のままですわよ?中々上がりませんわね。」


 実は、結構前に創世の資格を手に入れているマリア。

 アクアと同じくレベルを100にするだけとなっている。


「まあ、僕だって天種を山ほど狩って、ようやく上がった訳だし。」

「そうですわね。ですが、焦らされている気になってきますわ・・・。」


 クロトも経験した感覚なので、分からなくもない。

 カリスによる侵攻は、レベル上げの意味でもありがたかったということだ。


「マリアって焦らし責めが嫌いだっけ?」

「何の話ですのっ!?そんな卑猥な話はしていませんわよ!?」

「えっ・・・?」


 クロトにそんなつもりは無かったようだ。


「マリアって、想像力豊かだよね。」

「そんなオブラートに包んだ言い方をしなくともいいですわよ!」


 気を遣われることで、寧ろ恥ずかしくなるらしい。

 ちなみに、アクアも顔が赤いので、同じようなことを想像したのだろう。


 そんな時、梟の止まり木亭へ、ローナが入って来た。


「ローナ?またナツメが何かやらかしたの?」

「何もやらかして無いでござるよっ!?」


 昼食を食べていたナツメが、聞き捨てならないとばかりに反論した。


「あはは・・・。今回は違うかな・・・。」


 ローナは苦笑いを浮かべている。


「それでね、制作を頼まれていた例の魔道具が完成したから、見せに来たんだ。」

「ああ、あれが完成したんだ。早かったね。」

「そうかな?集中して作っていたから、時間の感覚が曖昧で・・・。」


 ローナは、そう言いつつ、魔道具を取り出したのだった。








 完成した魔道具に満足したクロトは、ローナに問い掛けた。


「そう言えば、例の鉱石の情報は?」

「そっちはまだだよ。プリズム鉱石なんて聞いたことも無いもの。」

「まあ、仕方ないね。」


 クロトとしてもそちらはついでなので、問題は無い。


 プリズム鉱石は、クロトの剣に使う鉱石である。

 深赤鉱石とプリズム鉱石があれば、剣の進化が可能なのだ。

 随分前にグレンから言われたことだが、現状の剣に不満は無いので後回し。

 深赤鉱石はヴォルケーノ大火山にあったので、残りはプリズム鉱石だけ。


 もっとも、積極的に探すつもりは無いのだが。


「あ、ブルータル王国で掘った穴が見つかって騒ぎになったよ?」

「ボクが掘ったみたいな言い方!?」


 生命の湖跡地で掘った穴の事だろうが、物凄く今更だ。


「それはどうでもいいとして・・・。」

「どうでもよくないよ!?大事件だと思うけど!?」


 ローナは不満そうだが、今はそれどころでは無いクロト。


「ローナの借金を立て替えた分、もう返して貰ったよ?」

「・・・・・・えっ?」


 ローナは呆然としている。


 クロトはローナの借金数十億ゴールドを肩代わりしていた。

 つまり、それだけの額に値する働きをこなしたということ。

 まだローナを正式に雇ってから、一年くらいなのだが。


「それで、再契約はするかい?」

「あ、うん。それは勿論。」


 当然、再び契約を結ぶことに異論は無いローナ。

 だが、いつの間にそんなに稼いだのだろうかと疑問に思った。


「ボク、そんなに稼いでたっけ・・・?」

「ああ。給金とは別の、開発料が高いからね。ファーナの特別任務と同じだよ。」


 それでもいまいち分からないローナだが、クロトがそう言うなら間違いない。

 そう思いながら、碌に内容も読まず、契約書にサインした。

 クロトの事を信用している証拠だ。


「・・・確かに。これが新しい身分証の一つね。空き番にしておいたから。」

「・・・?」


 ローナは身分証を見もせずにしまった。

 相変わらず、以前貰った身分の事もよく分かっていないので。

 その辺りの事はどうでもいいのだろう。


「ファーナの方は、報酬に悩んでいるみたいだね・・・。」

「あ、うん。休憩時間とかに考え込んでいるよ?」


 地底樹を発見し、莫大な金額を手に入れたファーナ。

 貧乏だったころの習慣が体に染みついているので、一切無駄遣いはしていない。

 ゆえに、そちらの方は問題ないのだ。


 問題は、もう一つの報酬。

 クロトに叶えられる望みを、一つだけ聞くというものの方だ。


 それは、悩みもするだろう。

 王様になりたい、くらいの望みなら、余裕で叶えられるクロトなのだから。



「ボクも、どんな願い事をするのか、興味があるな・・・。」

「大抵の事は叶えられるからね。・・・マリアを無職でなくす以外なら。」

「何故なんですのっ!?」


 のんびりしていたマリアが、目を見開いてクロトに詰め寄った。


「そんなにわたくしが無職でなくなるのが難しい事なんですのっ!?」

「途轍もなく難問だね。」

「!?」


 マリアがポカポカとクロトを叩き始めた。

 ローナはその様子を見ながら、ふと思い出した。


(そう言えば、クロトに買われたけど、結局手は出されなかったね・・・。)


 ローナは微妙に落ち込むのだった。

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