異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

黄昏の門の調査

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 クロトはスイレンと話をしていた。


「では、ネクトに探させますが、それでよろしいですか?」

「うん。それでお願い。」


 一通り話が纏まって、一息つく。


「まさか、嵐の正体が、神出鬼没の危険地帯だったとは。」

「思わぬ盲点だったよね。黄昏の門が普通に存在しているから、なおのこと。」


 黄昏の門は、レモニア王国に存在しているのだが、移動版もあるとは。

 誰だってそんなことは、エルフの里での情報なしでは分からないだろう。


「そうですね。出現周期も不明ですので、長丁場になりそうです。」

「そうだね。ボーナスは多めにだすからね?」

「言われずとも、ネクトには特別ボーナスを出しておきます。」

「いや、それもそうだけど・・・。」

「・・・?」


 スイレンはクロトの意図を図りかねて首を傾げている。


「えっと、さ・・・スイレンにもボーナスを弾むということだよ?」

「・・・はぁ。私は別に要りませんよ?大したことはしませんので。」

「ネクト君が集めて来る膨大な情報の処理だけでも、大仕事だよ?」

「・・・一般的にはそうかもしれませんが、どうということはありませんので。」


 どうにもワーカーホリックになりかけているスイレン。

 彼女にとって大事なのは、やりがいのある仕事で、それ以外は二の次なのだ。


「はぁ・・・。どうせ、金銭でのボーナスは受け取ってくれないよね?」

「ええ。最低限だけあれば、それ以上は要りませんので。」


 とてもいい部下なのだが、どうにも心配になるクロト。

 別に、何が悪いという訳でも無いので、強くは言えないのだ。


 だが今回は、秘密兵器がある。


「まあいいや。今回は特別ボーナスとして、これをあげよう。」

「別に要りませんが・・・何ですか、これは?」

「僕とメイランで腕によりをかけて作った、激旨チョコレートだよ。」

「っ!?・・・そうですか。」


 チョコ好きのスイレンは一瞬だけ表情が動いたが、直ぐに元通りに。


「ちなみに、メイランの評価は・・・Sランクだよ?」

「ッッ!?Sランクですかっ!?」


 スイレンは今度こそ驚愕を露わにした。


 メイランの評価は、冒険者ランクと同じで、最上位はSSランクである。


 大したことが無いと思うかもしれないが、とんでもない。

 メイランの評価はとっても厳しいのだ。

 今までの最高評価はSランクまでで、未だにそれを超える料理は誕生していない。


 クルージングの時にアクアが食べたクロトの料理でも、評価はA+ランク。

 そう言えば、クロトが手に持っている包装されたチョコの凄さが分かるだろうか。


「・・・・・・。」


 スイレンはじっとチョコが入っている綺麗な包装を見つめる。

 言われてみればすごくおいしそうに見えなくもない気がしてきたスイレン。


 だが、一度要らないと言ってしまった手前、欲しいと言うのは躊躇われるらしい。

 黙したまま何も言わない。


 普段苦労を掛け過ぎているスイレンに意地悪をする気は無いクロト。

 スイレンが受け取りやすいように、じっと見つめながら、こう告げた。


「スイレンへの日ごろの感謝も込めて、精一杯作ったんだけど、貰ってくれる?」

「・・・はい。ありがたく頂いておきます。」


 スイレンはクロトの意図を正確に読み取って、感謝しながら受け取った。


「それじゃあ、僕はこれで。あっ、例の本については、予定通りお願いね?」

「かしこまりました。お疲れ様でした、クロト会長。」

「・・・ああ、お疲れ様。そのチョコは一日一つまでにしておきなよ?」


 普段は呼ばない名前で呼ばれたことに驚きながらも、返答。

 そのまま転移でその場から去って行った。


 クロトが去った後、スイレンは残りの仕事を手早くこなし、終わらせた。

 そして、楽しみにしていたチョコレートを手に取る。


「Sランクですか・・・。期待が高まりますね・・・。」


 スイレンはチョコを一つだけ取り出して、口の中へ放り込む。


「・・・・・・ッッ!?」


 絶妙な甘さと僅かな苦さが最高にマッチしたチョコだった。

 スイレンの舌好みに調整されているそれは、彼女の琴線を激しく刺激した。


「美味しい・・・!」


 思わず口元が緩んでしまい、慌てて直そうとするが、上手く行かない。

 直すたびに、その美味しさの余韻が、スイレンの口元を緩める。

 しばらくは無駄だろうと諦め、緩んだままにしておくことに。


 ようやく余韻が消えた頃、スイレンの頭にある思いが浮かぶ。

 即ち、もう一つ食べたい、と。


 クロトからは一日一つまでにしておくといいと言われた。

 だが、絶対に駄目とは言われていないのだ。


「ッ・・・ッッ!!」


 スイレンはしばし葛藤し、なんとか二個目を食べずに済んだ。

 だが、チョコレートの誘惑は、一日一度、襲い来る。


 果たして、いつまで耐えられるのだろうか。


 スイレンは思いがけず、己の意志力を試されることになったのだった。

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