異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

セーラへの想い

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 クロトの言葉で、周囲の空気は凍った。

 セーラの表情も固まっている。

 レフィとマリアは唖然としており、エメラは平常運転。


「どうしたの、セーラ?もしかして、失くしてしまった、とか?」

「え?ううん、ちゃんと持っている、わよ・・・?」

「そっか。じゃあ、返して貰ってもいいかな?」


 無表情のままそう言ってくるクロトに、セーラは泣きそうだ。

 この世界では、日本ほどではないが、指輪の風習というものが知られている。

 また、クロトがセーラの胸ポケットに忍ばせた説明書きにも、書いてあった。


 あなたからの問いへ返す答えが固まった時にあなたを迎えに来ます。

 指輪は婚約の証です。預けておきますが、要らなかったら捨ててください、と。


 問いというのは、クロトがセーラをどう思っているか、というもの。

 では、指輪を返せというのがどういう意味を持つのかというと・・・。


(婚約の解消・・・!?クロト君は、もう私を・・・・・・!)


 普通に考えれば、そういう事になる。


「・・・セーラ?」

「・・・あ、うん、そうね。これ・・・。」


 セーラは震えながらも、泣く泣く指輪をクロトに渡した。

 本当は返したくなど無かった。

 だが、それをやったら、友人としての関係も失うので、返さざるを得ない。

 預かったものを返さないなど、最低の所業なのだから。


「うん、確かに。」

「・・・・・・。」


 セーラは、指輪を受け取るクロトの顔を見られなかった。


 最初は、クロトの好意を疑ってすらいた。

 なのに、ついさっきまで、まるで両想いで居るかのような気分だった。

 そして、あとは自分が決心するだけ思っていた。


 だが、蓋を開けてみればこの結果。

 羞恥と悲しみがごちゃ混ぜになって、何も考えたくない。

 今すぐにこの場を逃げ出したい。

 そんな感情に支配されてしまっているのだ。


(私、どれだけ贅沢だったというの・・・!こんなことならっ・・・!)


 プロポーズ待ちという立場に胡坐をかいて、何もしなかった。

 ともすれば、いつまでも意地を張って自分の気持ちを認めようとしなかった。


 いざ婚約を撤回されてみれば、如何に自分が愚かだったかが良く分かる。

 そして、失って初めて理解した。

 自分はクロトの事をこの上なく好きになってしまっていたことを。

 なにせ、今にも泣きそうで、振られたことが死ぬほど辛いのだから。



 まあ、全てはセーラの勘違いなわけだが。



 レフィやエルフたちは何も言えない。

 マリアは何か言おうとしていたが、エメラに止められた。




 クロトはセーラから受け取った指輪を一瞥した後、収納から魔法陣を出した。

 指輪と幾つかの材料を掌の上の魔法陣に乗せて、起動。


 完成したのは、仮初では無い、本当の婚約指輪。


 クロトは、悲しみの涙を流し始めたセーラの手を取って、指輪を指にはめた。


「・・・・・・え?」


 セーラは状況を理解出来ていない。

 何故自分の指に新しい指輪をはめているのだろうか、と。


 クロトは一度深呼吸をした後、語り始めた。


「僕は、あなたの優しさに救われた。初めて、不誠実な自分を許せた。何人婚約者が居ても、全員を最高の幸せへ導くことを決心できた。できることなら、あなたも・・・僕が幸せにしたい。」


 そしてクロトは、セーラを見つめながら、その言葉を紡いだ。


「セーラ、あなたの事が好きだ。結婚を前提に、僕と付き合って欲しい・・・!」


 セーラはクロトの告白を受けて、思考が停止していた。

 だが、この上ない歓喜と幸福の感情が湧き上がり、今度は戸惑い始める。


 結果として何も言えなくなってしまい、クロトを待たせることに。


 まわりのエルフたちからは、早く返事をして!という視線がとんでいる。

 レフィはセーラの視界に入り、返事をしろ!とジェスチャーで伝えた。


 その様子を見たセーラは、返事をしていないことに気づき、慌てて返事をした。


「わ、私は、あなたよりずっと年上だけれど・・・!それでもいいと言ってくれるなら、喜んでっ・・・!」


 返事を聞いたクロトは、安堵の表情を浮かべた後、軽く微笑んだ。

 クロトはクロトで、振られないかと不安だったのだ。


 セーラをその腕で抱き締めて、愛を囁くクロト。

 思わず抱きしめ返して、愛を囁き返すセーラ。



「やれやれ、世話の焼けることだ・・・。」



 セーラの視界から外れて、ため息をつくレフィ。


 周囲のエルフたちからは、次々に祝福の言葉が飛んでいる。

 
 マリアはホッとした表情で同じく祝福している。

 エメラは眠そうな瞳のまま、優しい微笑みを浮かべている。




 こうして、セーラもクロトの婚約者となったのだった。

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