異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

深海に生える木

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 翌日、二人は新たな天種の方へ歩みを進めている。


 酷く揶揄われたというのに、アクアの機嫌は悪くなっていない。

 熱い夜を過ごした後では、文句など消えてしまったようだ。


 そして、未見の天種というのが・・・。



「・・・木、だね。」

「木、ですか・・・?」


 神の瞳で確認できたのは、十メートルほどの木なのであった。


「一応、区分は魔物みたいだけど、戦闘能力は無い、ことも無い、のかな?」

「それはまた、特殊な・・・。魔物の情報を詳しく聞かせてくださいますか?」



 名称は、超古代深海木。

 レベル90で能力値はHPと魔力、防御力に極振り。

 レアスキル「永続再生」で、時間は掛かるが、仮死状態からでも復活可能。

 レアスキル「仮死操作」で、任意で己を仮死状態にでき、その間は攻撃無効。

 レアスキル「不屈の木」で、一日に一度、どんな攻撃にもHP1で耐える。

 


「問題は、仮死状態で倒しても、素材が手に入らないこと、だよね。」

「それは大問題ですね。」


 仮死操作の説明に、ご丁寧に書かれているのだ。

 仮死状態時に倒しても、経験値と素材、共に手に入らない、と。


 素材の収集を半ば趣味にしているクロトからすれば、酷い嫌がらせだ。


「ですが、私の魔法で瞬殺してしまえばいいのでは・・・?」

「その場合、不屈の木が厄介なんだよね。」

「と、言いますと?」

「初撃を確実に耐えて、次の攻撃までに仮死状態になるだろうと推測される。」

「・・・なるほど、そういうことでしたか。」


 アクアも理解したようだ。

 自分の魔法速度でも、仮死になる方が、完全に絶命させるよりも早いことを。


 生物というのは、例え首を落とされても、少しだけ生きながらえるもの。

 だが、どのみち死ぬ結果に変わりはないし、行動も不能。

 さしたる問題は無いのが普通である。


 しかし、超古代深海木は違う。

 一瞬のタイムラグさえあれば、仮死状態になれる。

 死を免れることができるのだ。


 そして、仮死状態になった木は、倒しても何も得られない。


「嫌がらせのような木なのですね・・・。」

「全くもってその通り。」


 クロトは先程から考えているが、良い対策が思いつかない。

 これほど悩むのは、深海に来てから始めてかもしれないな、と思った。



 ポイントは一つだけ。

 最後まで敵に、攻撃されていると気づかれることなく、倒しきること。


(・・・いや、どうすれば良いのかな、これ。)


 そんな方法、あるはずが無い。

 忍び寄って一瞬で細切れにしても駄目だろう。

 水圧で押しつぶしても駄目。

 魔法で爆破しても駄目。


(停滞魔法陣・・・意識までは停滞させられないし・・・うん?)


 そこで、ふと思いついた。

 ヴィオラのユニークスキル、因果律操作ならいけるかもしれない。


 ヴィオラはこの場に居ないが、良いものがある。

 それは・・・ヴィオラのユニークスキルをコピーした、模倣の鏡。


 アクアにもそのことを伝えて、実行に移る。


「もし失敗したら、仮死から復活するまで、魔法存在を待機させよう。」


 こんな深海で、いつ来るかも分からないその時を延々と待たされる魔法存在。

 クロトを一発くらい殴っても、許されるかもしれない。


 アクアが密かに黙祷を捧げる中、作戦は実行された。




「ユニークスキル「因果超越せし極暗紫の天瞳」・・・発動。」


 一日一回の、絶対的な因果律操作を発動。

 目の前に現れた因果を、つぶさに選別していく。


 クロトが紫の瞳を使うのは初めてだが、問題なく使いこなす。


(ヴィオラはこんなものを見ていたんだね・・・。)


 そんな風に思考を逸らす余裕さえある。

 やがて、時間にして一瞬の選別を終え、因果を選択。


 選んだのは、超古代深海木が、仮死状態を選択しない因果。

 攻撃を喰らってからでは存在しない因果だが、戦闘開始前なら、あり得る因果。


 クロトが予め指定した秒数が過ぎる瞬間、アクアが動く。

 とどめをアクアに任せるのに、万全を期す以外の意味は無い。

 アクアの水神魔法が、他のどの攻撃よりも速いのだ。


「水神魔法・神氷絶波!連鎖神氷絶波!」


 アクアの神速と言っても過言ではない魔法が、遠方に存在した敵に炸裂。

 案の定、仮死状態になること無く、超古代深海木は絶命した。


 仮にヴィオラがやろうとしても、ほぼ不可能な芸当だろうと思われる。

 戦闘の初めは起こり得る事象が多すぎて、大量の因果で頭がパンクする故に。


 平気でこなすクロトは、やはりおかしい。


 とは言え、あまり無駄遣いは出来ない。

 ヴィオラも一日一度しか使えないので、ストックは殆ど無い。


 クロトの隠密者応用でコピーするのも不可。

 何故か、一日一度の効果は、直に模倣の鏡にうつしとる必要があるのだ。


 クロトは、ユニークスキルの中でも一際特殊ゆえの不具合だと推測している。


 とにもかくにも、無事に素材は手に入ったのであった。




 なお、レアスキル相当の攻撃無効に、活躍の機会など無い。

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