異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

孤児院の様子見

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「か、会長!?失礼しました!お出迎えもせずにっ!?」

「さっきの独り言みたいに、クロトでも構わないよ?」

「し、しかし・・・!」


 エリスが迷っていると、クロトに抱き着いてくるこどもが。


「クロトお兄ちゃんっ!」

「あっ、アリシアっ・・・!」


 それはエリスの娘のアリシアであった。

 今現在、クロトとエリスの関係は、雇用者と被雇用者。

 以前とは立場が違う。

 失礼があったら大変なので、アリシアを諫めようとする。

 
 それを、クロトが押しとどめた。

 以前は対応に困ってしまったが、既に子どもの相手をする方法は学んでいる。


 クロトはアリシアを抱き抱えてあげた。


「わああああっ!」


 アリシアはキャッキャと喜んでいる。

 その嬉しそうな姿を見たエリスは、何も言えなくなってしまった。


 エリスがふと周囲を見回すと、子どもたちがじっと見つめていた。


「どうしたの、みんな?そんなにじっと見つめて・・・?」


 エリスが尋ねると、代表で一人の子が問いかけた。


「その男の人、エリス先生の旦那さんなの・・・?」

「「「キャーキャー!?」」


 微妙にませた子どもたちが騒ぎ始める。

 実はクロト、孤児院の子どもに顔を見せるのは初めてなのだ。


「な、違いますよ!この人は私の夫ではありません!」

「でも、アリシアちゃんのお父さんみたいだよ?」

「そ、それは・・・。」


 エリスは何も言えなくなってしまった。

 子どもにしては、極めて理論的で的を射た理由付けだ。


「やっぱりそうなんだー!!」

「「「「キャー!」」」」

「アリシアちゃんのお父さん、格好良いね!」

「うんうん!」


 やはりクロトは、女の子たちにモテる。

 一方、男の子たちはというと。


「お兄ちゃんの服、格好いいっ!」

「高ランクの冒険者なのっ!?」

「「「「おおーっ!!」」」」


 こちらにも大人気のようだ。


 いよいよ収拾がつかなくなりそうだったので、エリスは場をまとめる。


「こらこら。この人は、皆にご飯をくれて勉強をさせてくれてる凄い人なのよ!」

「「「「「「「「「「・・・・・・!!」」」」」」」」」」


 子どもたちは一様に、キラキラした目をクロトに向けた。


 自分たちが今みたいな良い環境で過ごせるのは、目の前の人のおかげ。

 それを知ってしまったら、憧れと尊敬の目を向けるなという方が無理だろう。


 クロトは微妙に居心地が悪い。

 助けたつもりは殆ど無いので、尚更に。


 昼食の後はお休みの時間なのだが、アリシア同様、みんなクロトに群がった。


「「「「わあああっ!」」」」

「「「お兄ちゃん、ありがとーっ!」」」


 クロトは将来が楽しみな子どもたちを、一人一人丁寧に構ってあげたのだった。

 無表情だが、どことなく楽しそうな雰囲気を感じるのは、気のせいではあるまい。







 やがて、遊び疲れた子どもたちは、お昼寝の時間に。

 みんな仲良く、昼寝室で眠っている。


 エリスはその様子を微笑ましく見守っている。


「エリスは眠らないの?」

「っ!?」


 突然誰もいないはずの真横から声を掛けられ、悲鳴を上げそうになる。

 子どもたちを起こしてしまうのは嫌なので、手で口を押えて耐える。


「驚かせたかな?」

「はい、心臓に悪いので、突然現れるのはやめて頂けると・・・。」

「突然現れたつもりは無いんだけど・・・善処するよ。」

「・・・そうしてくださると有難く思います。」


 そういえば、雇用の話をしにきた時も、驚かされたことを思い出す。

 その時は完全に流してしまっていたが、一体どうなっているのか。


 エリスがクロトの秘密に考えを巡らせていると、それを見透かしたクロト。

 丁度いいとばかりに、エリスに今日の本題を話し始める。


「エリス、僕の能力の事、気になるんだ?」

「っ!いえ、そういう訳では・・・。」


 考えていることを読まれて、焦るエリス。

 契約内容に、詮索禁止の条項があることを思い出し、慌てて否定した。

 だが、時すでに遅し。


「嘘は良くないよ、エリス。そんな訳で、雇用の話をしようか。」

「っ!?待ってくださいっ・・・!」


 エリスは顔を青ざめさせる。

 雇用の話と聞いて、解雇されると考えてしまったのだ。


 これはクロトも悪い。

 今の話の流れでは、そう勘違いされてもおかしくない。

 決してわざとではないのだが・・・。


「さて、そんな訳で、この雇用契約は今日で終わり。」

「ああっ・・・!?」


 二人の雇用契約書を、クロトが燃やしてしまった。


 エリスは地面に崩れ落ちた。

 幸せな暮らしが、自分のミスのせいで消えて無くなっていく。

 アリシアに何と言えばいいのか。


 涙が流れるのを必死で堪えていると、クロトから何かを渡される。

 それを見たエリスは、今度は涙が零れる程驚愕した。


「それにサインするかどうかはエリス次第。よく考えて決めてね?」

「っ!?」


 エリスは躊躇うことなく、渡されたもの、契約書にサインした。



「随分と決断が早いね・・・。まあいいや、これからもよろしくね、エリス。」

「はい、どうかよろしくお願いいたします!」



 そしてクロトはエリスに新たな身分証を渡して、立ち去る。


 エリスが新たに渡された身分証には、こう記されていた。



 ミカゲ財閥No9 教育部門最高責任者 エリス

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