異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

閑話 ナツメのおつかい

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 クロトが目を覚ます前日、ナツメはおつかいを任されていた。


「いいですわね、ナツメ?これをローナまで届けるんですのよ?」

「何度も言われずとも、分かっているでござるよ。」

「任せるのがナツメだから不安なんですの・・・。」

「おつかいくらい出来るでござるよ!?」


 ナツメがそう主張するも、マリアは不安そうだ。

 本当は別の人に頼みたかったのだが、手が空いているのはナツメだけ。

 流石に大丈夫だと思いたいが、不安は拭えない。


 マリアは肝心な方の伝言を、ゆっくり丁寧に教えた。


「伝言は、『花火問題なし。爆裂魔法陣は未解決。』そう伝えてくださいまし。」

「任せるでござるよ。」


 ナツメは意気揚々と、ローナの居る店へ向かって行った。


「この漠然とした不安は、一体なんですの・・・?」


 マリアはナツメの背中を見つめながら、そう呟いた。






 ナツメは通りを歩きながら、考え事をしていた。

 考えていたのは、クロトの事。


(まさか、拙者がクロト殿を好きになってしまうとは・・・。)




 元々、クロトの事は嫌いでは無かった。


 初めて会った時から、直感で理解したクロトの強さ。

 その強さに、とても大きな尊敬を抱いた。


 二人だけで戦った毒の沼地の事は、クロトの強さを直に感じた、いい思い出だ。


(今思えば、どうして平気で、クロト殿の背中に乗れたのでござろう・・・?)


 もし、現在のナツメが同じことを要求されたら、激しく動揺するかもしれない。



 ナツメが明確にクロトに好意を持ったのは、東国旅行のとき。


 最初は、ただの身代わりのようなものだった。

 だが、道中でデートを重ねるごとに、自分の中の何かが変わっていくのを感じた。


 そしていつの間にか、次のデートを、今か今かと待ち望むように。


 終いには、カシュマの寺院で、クロトとの偽装恋人関係をやめたくないと思った。

 その時、自分の恋心を自覚した。


 その後、少し待っていて欲しいというメッセージを受け取ったナツメ。

 今日まで、焦ることも無く待ってきた。


(果たして、拙者の恋は実るのでござろうか・・・?)


 出来ればそうなって欲しい。

 そう思わずには居られない。


 自分の顔に手を当ててみると、かなり熱くなっている。

 知らず知らずの内に、恋心を募らせていたらしいと気づいた。


(クロト殿・・・大好きでござる・・・!早く会いたいでござるよ・・・っ!)


 溢れ出しそうな感情を必死で抑えながら、あることを思い出した。


「・・・はて?伝言は何だったでござるか・・・?」


 クロトのことを考えすぎて、若干曖昧になってしまった。


 普段はここまで酷くは無いのだが・・・。

 クロトの事を強く意識し過ぎたのが不味かったようだ。



 と、その時、前方から叫び声が。


「人斬りだあぁぁぁ!既に重症者多数っ!?」


 ナツメは急いで現場に向かい、人斬りと対面する。


 人斬りはかなり強そうであったが、今のナツメの敵ではない。


「抜刀神術・飛燕乱舞!」


 人斬りはあっという間に切り刻まれ、地に倒れ伏した。

 S-ランク並みの実力はあったのだが・・・。


 実はナツメ、以前苦戦した魔人、「瞬撃」にも単独で勝てる。

 その程度には強くなっている。



「用事がある故、後始末は任せてもいいでござるかな?」

「委細承知いたしました、「抜刀」様。」



 幸い、死人は出なかったようで、お礼を言われながら、現場を後にした。




 ナツメは、ローナの居る店まであと少しというところまで来た。


 先程まではあやふやだった伝言内容。

 たった今、しっくり来る内容が頭に浮かんで一安心している。


(しかし、妙な伝言でござるなぁ・・・。何かの暗号でござろうか・・・?)


 当然、マリアからの伝言は暗号などではない。

 明らかに、何かおかしな思い出し方をしたと分かる思考だ。


 しかし、そのことを指摘できる者は居ない。





 ナツメはローナの居る店へ辿り着いた。


「ローナ殿、マリア殿からの届け物と伝言があるでござるよ。」

「あっ、ありがとう。それはそこに置いといて。」

「了解でござる。」


 ナツメは指定された場所に届け物を置いた。

 ローナは仕事に一段落つけて、ナツメに尋ねる。


「それで、ボクに伝言というのは・・・?」


 ローナの問いかけに対して、ナツメは自信満々に答えた。










「確か、『爆裂花火による死傷者多数。未解決につき委細問題なし。』でござる。」


「どこからツッコんでいいのかまるで分からないよっ!?」



 第一に、爆裂花火とは何ぞや。

 そんな危険な花火は作った覚えは無いし、作る予定も無い。

 どこからそんな物が湧いて出たのか。


 第二に、死傷者多数で未解決。

 それをどう考えたら、委細問題なし、になるのか。

 ハッキリ言って大問題だ。


 最後に、何故そんなヘンテコな伝言をしたナツメがドヤ顔なのか。



 ローナは急いで、マリアに確認をしに行くのだった。





 なお、当然の如く、ナツメはマリアに怒られた。

 伝えられないならまだしも、妙な改変を加えるのはやめてくれ、と。



 ナツメは、顔から火が出そうになる程、真っ赤になった。

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