異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

閑話 カレンの船酔い

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「うっ・・・船は慣れたつもりだったのだがな・・・。」

「大丈夫ですの、カレン?」

「ああ、何とか、な・・・うっ・・・!」


 カレンとマリアは船に乗っていた。

 この二人は、王城決戦の時から仲がいい。

 こうして、時折コンビを組んで活動している。


 今回は、カレンにマリアが付き添う形。


 カレンは、かつて倒せなかった天帝を倒すべく、全極の島へ。

 そして、光絶魔法と闇絶魔法への対策として、マリアへ協力を依頼した。


 マリアの力を借りることに問題は無い。

 要は、クロトの力無しで勝てれば、それでいいのだから。


 だが、島に辿り着く以前に問題発生。

 克服したと思っていた船の揺れ。

 本当は克服など出来ておらず、こうして船酔いでダウンしている訳だ。


「はぁ・・・。ちっとも大丈夫ではありませんわね・・・。」


 カレンの辛そうな様子を見て、マリアはどうしたものかと頭を悩ませる。

 せめてもの参考になればと思い、問いかけてみた。


「カレン、前回船酔いした時はどうしたんですの?」

「っ?それは、だな・・・。」


 マリアのピンポイントでトラウマを抉る問いかけに、思わず口ごもるカレン。


(よもや、クロトに膝枕と子守唄をやらせたなどと、言えるはずがない・・・!)


 何も答えないカレンを不思議に思うマリア。

 彼女が口ごもるなど、滅多に無いことだと言うのに。


「カレン、何かやましい事でもあるんですの・・・?」

「いや、決してそういう訳ではっ・・・!」

「でしたら、何故話してくださいませんの?」

「・・・・・・。」


 カレンは何も言えずに沈黙。

 いよいよ何かがあると思い、カマをかけることに決めたマリア。


「・・・まあ、クロトは平気でも、カレンには言い辛いですわよね。」

「っ!?何故っ!?クロトから聞いていたのかっ!?」

「・・・ええ、そうですわよ?」


 ニヤニヤしながら、まるで初めから知っていて揶揄っていた風を装う。

 カレンは船酔いのせいで正しい判断が出来ず、焦った声を上げる。


「待ってくれ!あの膝枕は仕方なくやって貰ったに過ぎない!」

「へぇ・・・カレンはクロトに膝枕をして貰ったんですの?」

「っ?・・・っ!まさか、カマを掛けたのか、マリア!?」


 カレンはカマを掛けられたことに気づいた。

 そして、自ら白状してしまったことを理解し、顔が赤くなる。

 その原因は、羞恥の感情がほとんどであろう。


(何てことだ・・・!このままでは、良いように揶揄われてしまう!)


 マリアは、クロトの揶揄いに対抗するため、自分が揶揄うことも覚え始めた。

 それについては、東国旅行中に知っていた。


 また、王城決戦の事で、たまにマリアを揶揄っていたカレン。

 このままでは、意趣返しを喰らうのは確実。


 よって、どうしようもなく焦るカレン。


 一方、マリアはというと、内心で歓喜の声を上げていた。


(これで意趣返しを・・・!どうやって揶揄うか、考えものですわね・・・!)


 一瞬だけ思考を巡らせた後、口を開く。


「カレン、そんなに膝枕が好きなら、わたくしもして差し上げますわよ?」

「っ、違う!だからあれは仕方なく・・・!」

「へぇ?嫌々やって貰ったんですの?そうクロトに伝えておきますわね。」

「それはっ・・・!」

「それは・・・何なんですの?」


 マリアはニヤニヤしながら、カレンを追い詰めていく。


(くっ、どうすれば・・・いっその事、臆面もなく言ってしまえっ・・・!)


 自棄になったカレンは、堂々と言い放つことにした。


「クロトの膝枕は、中々良かったな・・・。」

「・・・えっ?」

「おまけに子守唄も心地よかった・・・。」

「えっ?えっ?」


 急な方向転換に、動揺を隠せないマリア。

 カレンは形勢の逆転を察して、更に、真顔で言い募る。


「それでマリア、膝枕をしてくれるのだったな?」

「・・・・・・えっ?」

「そろそろ厳しくなってきたから、よろしく頼む。」

「待ってくださいまし!あれは、ただの冗談ですのよっ!」


 思わぬ展開に動揺を露わにする。

 別に、カレンに膝枕をするのが嫌なわけでは無い。

 ただ、いざやってくれと言われると、妙な恥ずかしさが込み上げてくる。


「今更そんなことを言われてもな・・・。早く、膝を貸してくれ・・・。」

「うううっ・・・。何でこんなことになったんですの・・・!」


 本当に船酔いで辛そうなカレンを目の当たりにして、断れなかったマリア。

 結局、カレンに膝枕をすることに。


「クロトのも良いが、マリアのも悪くないな・・・。」

「あまり動かないでくださいましっ!くすぐったいのですわっ!」

「・・・・・・。」

「・・・カレン?」


 マリアが確認すると、カレンは既に眠っていた。


「本当に、どうしてこうなったんですの・・・!?」


 気恥ずかしさのせいで真っ赤になったマリア。

 ここまでのことを思い返しながら、そう呟いたのだった。




 マリアに、人を揶揄う才能は無いのかもしれない。

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