異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

世界樹への誓い

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 創世神クラリアセレス、すなわちクラリスは、己を責め続けていた。

 自分のせいで、眷属たちが苦しみ続けていることに、責任を感じて。


 世界樹は、クラリスとの繋がりがあるので、そのことを理解していた。

 そして、そのことを悲しんだ。


 確かに、母の落ち度もあっただろう。

 だが、永遠に苦しむ必要など無いはずだ。

 そのことを伝えようにも、伝える手段が存在しない。

 ずっと母を心配し続けるまま、長い年月が過ぎた。


 そんなある時、母から少しだけ、幸せの感情が伝わって来た。

 また、それと同時に、母の体がもう持たないことに気づく。

 まだ数百年は先の事だが、世界樹からすれば、あっという間のこと。


 焦った世界樹は、母が許されることを求めるようになった。

 いい加減許されて、幸せになってくれることを願った。

 そして、願うだけで何も出来ない自分を、許して欲しいと願った。





 これが、世界樹が求めるものの正体。


 己を責め続けているクラリスが許され、幸せになってもらいたくて。

 クラリスから、母に何もしてあげられない不甲斐ない自分を許して貰いたくて。


 そんな強い想いが溢れ出して、セーラに伝わった。





 世界樹が脈動したのは、一種の共鳴現象。

 セーラがクロトを許し、それをクロトが受け入れた。

 その様子を、自分と創世神に重ね合わせたのだろう。

 自分が母に許しを与えて、母がそれを受け入れる未来を想像して。








「・・・そう、だったの。」


 クロトの説明を聞いたセーラは、それが正しいと確信した。


「みんな、揃いもそろって、不器用過ぎるのよっ・・・!」

「・・・・・・。」


 クロトも自覚はあるので、何も言い返せない。


 間違いなく、みんな不器用。

 そこまで自分を責めても、誰も幸せにはなれない。

 寧ろ、愛する者たちを悲しませすらするというのに。


 クロトも、創世神クラリアセレスも、世界樹ユグドラシルも。


 余りにも・・・・・・不器用過ぎる。



 セーラは、そんな不器用な人達の事を想い、涙を流す。


 クロトは涙するセーラを見て、決意した。

 エルフの里を離れても、自分を責め過ぎるのはやめよう、と。


 決して、自分を責める思いを全て消し去る訳では無い。

 その大部分を、横に置いておくだけなのだ。









<特殊条件2「許される覚悟」を確認>

<個体・クロトの求めに応じて感情の整理を完了しました>

<一部効果の発揮を保留しました>

<創世スキル「隠密神」より新たな項目が派生しました>






 クロトはシステムアナウンスを聞き流しながら、セーラを抱き締めたのだった。











 しばらくしてセーラが落ち着きを取り戻した。


「ごめんね、クロト君。私がなぐさめるはずだったのに、逆になってしまって。」

「いえ、セーラさんの想いは伝わりましたし、とても心が軽くなりました。」


 クロトは心の底から、そう思っていた。


「ですから・・・ありがとう、セーラ。」

「っ!?」


 クロトは、今までになく幸せそうにしながら、笑った。


 その笑顔はとても魅力的で、セーラは、胸の鼓動が跳ねるのを自覚した。









 さて、それは良いのだが・・・大きすぎる問題が目の前に存在している。

 世界樹の求める願いを、どのようにして叶えていいのか、分からないのだ。


 そもそも、創世神に会う事すらほぼ不可能。

 その上で、許しを受けとめて貰う必要がある。


 クロトの新たな目的と合致している部分は多いのだが・・・。


 如何せん、解決していない部分ばかり。

 現状では、どうしようもない。




 そこで、セーラを通して、世界樹へ誓いを立てることにした。


 必ずクラリスを幸せにしてみせるから、君の力を貸して欲しい、と。




 セーラが世界樹に手を当ててそれを伝えると、世界樹はとても喜んだ。


 そして、クロトの元へ、緑色に光る玉がやって来た。

 解析の結果は、世界樹の恩恵。

 更に、世界樹から、葉や枝が落ちて来た。


 身を削る行為であるというのに、何の躊躇いも無く。


 セーラが報酬として渡そうとしていた落ち葉より、遥かに力が籠っている。


 世界樹の雫については雨の日まで待たなくてはならない。

 そのため、セーラを通して、もう少し待っていて欲しいと伝えて来た。

 クロトは、それを受け入れ、感謝の想いを返した。



「ありがとう、世界樹・・・君と僕の願いは、必ず叶えてみせるよ。」




 すると、クロトのその言葉を理解したかのように。







 世界樹ユグドラシルは、大きくさざめいた。


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