異世界隠密冒険記

リュース

文字の大きさ
上 下
213 / 600
第二部「創世神降臨」編

第二部 プロローグ14

しおりを挟む
 「異世界隠密冒険記」 第二部










 クロトは夢を見ていた。


 同僚が暴走した後始末に奔走する、白髪の美女。


(・・・クラリスの夢か。神界突破の影響かな?)


 白髪の美女、創世神クラリアセレスは、必死の表情だ。

 どれだけの時間を調整の為に費やしたのか。


 時間が過ぎるごとに、彼女の表情は辛そうなものになっていく。



 自分が同僚を信用しきってしまったばかりに、沢山の眷属たちが死んだ。

 責任を感じ、感情設定の解除すらしなくなった。

 眷属たちの苦しみを少しでも味わい、自分を戒めるために・・・。


 時には、あと一歩で救えそうな存在を、自分の至らなさのせいで救えなかった。

 手のひらから零れ落ちていく、眷属の命と感情。


 やがて彼女の雰囲気は変化し、厳格な雰囲気へ。

 そして二度と、取りこぼす命と想いが生まれないように、研鑽を続けた。



「っ、特殊条件1「超克せし魂」を満たした!?すぐに介入しなくては!」


 その者のデータを覗いてみるクラリス。


「個体・ヴィオラ。信念は・・・運命に打ち勝つ為なら、命すら捨てる・・・。」


 内容を確認したクラリスは、大至急システムへの介入を開始した。

 僅かとは言え、自分の存在を削るにも関わらず。


「必ず、あなた助けて見せます・・・!


 クラリスは、能動的にシステムを動かした。




<特殊条件1「超克せし魂」を確認>





「っ!?進化完了まで100年!?損傷が激し過ぎたから・・・!」


 クラリスは焦る。

 詳細は不明だが、彼女には大切な人が居るはず。

 目を覚ました時、その人が既に亡くなっていたら・・・。


「駄目ですっ!そんなこと、認めないっ!」


 今まで何人も、似たような形で救えなかった。

 けれど、今回こそは。

 そう決意しながら、更なるシステムへの介入を始めた。



<進化先は天紫人となります>

<進化完了まで100ね・・・ザザッ、ザーザー、ザッ>


<ザッ・・・何の権限も無い私ですが、これくらいは、させてくださいね?>

<どうか、あなたの行く末に、幸せのあらんことを>

<この世界をお願いします。尊き魂を持つ、ザッ、者、よ>


<ザッ、ザー・・・進化完了まで10日程お待ちください>



「ぐっ、うう・・・!」


 無理な介入のせいで存在を削り、激痛に苛まれるクラリス。


「よかっ、た・・・救う、ことが、出来て・・・うぐっ・・・!?」


 その激痛は、クロトでも呻くくらいの痛み。

 だが、自分が倒れることなど許されない、と言わんばかりに、耐えている。


「こんな、もの・・・眷属たちの、苦しみに、比べれば・・・ぐううううっ!?」




 クロトはそんな様子を、傍から見ていた。


(クラリス・・・ありがとう。また大きな借りが出来てしまったね・・・。)


 クロトはクラリスに近づき、そっと抱き締める。

 性的な意図など欠片も無い、慈しみの感情を抱きながら。


(僕は・・・君に幸せになって欲しい。これ以上、苦しんで欲しくは無い。)


 クロトは、目覚めてからの目標を、新たに一つ定めたのだった。













 ここは神界。

 創世神クラリアセレスが、世界の管理を行う場所。




「・・・・・・うたた寝していましたか。こんなことではいけませんね。」


 いつもなら、少しでも目を閉じれば、浮かんでくるのは自分の情けない過去。

 しかしこの日は、不思議と嫌な夢を見ていた気がしない。

 寧ろ、どこか幸せすら感じられる。


「これは・・・いけませんね。私は、幸せなど、求めてはいけない。」


 すぐにその感情を振り払おうとするも、離れてくれない。

 何度も振り払うことを試みて、ようやく、幸せの感情は消えてくれた。


「確か三日ほど寝ていませんでしたが、その程度でうたた寝とは、情けない。」


 ここ数日の事を思い出し、自分を戒めた。


 クラリスは人間で言う所の、一週間に一度、数十分の睡眠だけとっている。

 人間の体で、だ。

 それを、気が遠くなるほどの時間、続けて来た。


 彼女の精神は強い。

 だが人間の体である以上、精神より先に、肉体に限界が来るだろう。

 能力値上は高いので、今まで耐えられてきたが・・・限界は、そう遠くない。




「・・・少しでも多くの眷属たちを幸せにするため、今日も頑張りませんと。」


 クラリスは自分がどんな夢を見ていたのか、若干ではあるが気になった。

 だが、そんなことを考えている暇はない、とばかりに、管理作業に移った。


「こっちは・・・こうした方が良さそうですね・・・っ!頭痛、ですか・・・?」


 今までに無かったタイミングでの痛みに困惑しながらも、些事と斬り捨てる。

 そして、再び作業を再開する。




 クラリスの限界は、もう、すぐそこまで迫っているのかもしれない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

男女比1対999の異世界は、思った以上に過酷で天国

てりやき
ファンタジー
『魔法が存在して、男女比が1対999という世界に転生しませんか? 男性が少ないから、モテモテですよ。もし即決なら特典として、転生者に大人気の回復スキルと収納スキルも付けちゃいますけど』  女性経験が無いまま迎えた三十歳の誕生日に、不慮の事故で死んでしまった主人公が、突然目の前に現れた女神様の提案で転生した異世界で、頑張って生きてくお話。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。