異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

魔王の侵略 七日目ー4

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 エメラは王女インフィアと国王たちに迫る煙を、風を操り吹き飛ばした。

 クロトの推測通り、敵との相性は悪くないようだ。


「えっ・・・エメラ、さん?」

「グリーンフォレスト家の・・・?」

「ん・・・。」


 エメラはインフィアとバーン国王の問いかけに端的に答え、炎天煙と対峙する。

 炎天煙は雷天雲と似た系統の魔物で、物理攻撃は無効。

 レアスキル「無限炎煙生成」で、MPを消費せずに火砕流を使用可能。


 風を操るエメラは、この場の三人を守りながらでも戦いやすい。


 まずは風の多重障壁を護衛対象が居る空間に張る。


「これは、エメラさんが・・・?」

「ん・・・。私、に・・・任せ、て・・・。」


 エメラはインフィアに返答しながら、迫りくる煙を再度消し飛ばす。

 炎天煙も煙での攻撃は無意味と悟り、溶岩での攻撃に切り替える。


 だが、炎天煙が攻撃に移る前に、風翼と風飛翔を用いて急接近。

 神天魔のブーツで行う急加速に迫る速さであり、炎天煙は不意を突かれた。


 片方の炎天煙が存在ごと切り裂かれ、絶命。


 風雷神の烈剣を使用するエメラに、切り裂けないものは無いに等しい。

 続けざまにもう一体にも迫る。


 炎天煙は大量の溶岩を生成してエメラを押し潰そうとした。


「風神烈剣・雷天四連」


 その溶岩は呆気なく切り裂かれ、エメラの通る道が出来た。

 同時にインフィアたちへ向かう溶岩も切り裂いた。


 再度、風翼と風飛翔を用いて急接近。

 先程よりも、更に一回り速い。

 二度にわたって不意を突くため、温存していた速さだ。


「ん・・・。風雷神烈剣・万断」


 もう一体と同じように存在ごと切り裂かれた炎天煙。

 斬られてから一瞬たりとも生き延びれず、絶命した。





 エメラは風の障壁を解除し、赤い瞳となったインフィアに歩み寄る。


「ん・・・。インフィ・・・無事、で・・・良かった。」

「エメラさん・・・!私っ・・・!」


 インフィアは感極まってエメラに抱き着いた。

 百合百合しい光景だが、そういう趣味ではない。

 少なくともエメラは違う。


「貴殿は、エメラフィア嬢、なのか・・・?」

「ん・・・。エメラフィア・グレーンフォレスト、で・・・合って、います。」

「ああ、敬語は要らんよ。久しぶり会うが、随分と立派になったの・・・。」

「そうですね。私も何度か顔を合わせて居ますが、少し変わった気がします。」


 国王バーンと宰相バルターがエメラの変化を口にした。

 雰囲気が変わったのは、クロトの存在が影響しているのだろう。


「と、それより。娘共々、助けてくれたことに感謝を。」

「感謝、は・・・受け取ります、が・・・目的あっての事、ですから・・・。」

「だとしても、じゃよ。儂に出来ることなら何でもさせてもらうつもりじゃ。」


 残念ながら用があるのはインフィアの方だが、敢えてそれを言う必要は無い。

 少なくとも現段階では、そんな説明をしている時間もない。


 王城の外から、大量に炎天煙が迫っているのだから。


「転移、で・・・離脱、します・・・。」


 エメラはインフィアを抱き締めたまま撤退を告げる。

 しかし、バーンは渋い顔だ。


「・・・民を見捨てて儂だけ逃げることは出来ん。娘だけ連れて行って欲しい。」

「私も同意見です。王女様が生き延びれば、国の未来は続きます。」

「なっ!?そんなこと、できるわけ・・・!」


 バーンたちの言葉を聞いたインフィアが、エメラから離れて、提案を拒絶した。

 バーンとバルターは何とか説得を試みるが、聞く耳を持たない。


 最後の最後でようやく、涙をボロボロ零しながらも、首を縦に振った。

 父親と宰相の覚悟を踏み躙りたくなかったが故の、苦渋の決断だ。


「お父様、バルター・・・!」


 自由を好み、放蕩していた自分なんかに、優しく接し続けてくれた二人。

 国王や宰相としての責任より、自分の幸せを大事にしてくれた二人。

 国王や宰相としては失格かもしれないが、そんなことはどうでもいい。


 二人との今生の別れに、インフィアは涙が止まらない。


 そして、別れの瞬間はやって来て・・・・・・













「悪いけれど、その手の悲しい話?は、好きでは無いんだよね。」







 クロトの言葉とともに、天より降り注ぐ剣が、王都に入り込んだ魔物を一掃。

 百体近く居た炎天煙も、認識しようがない剣に襲われ、針鼠状態にされた。


 唯一残っていたのは赤の主。


 クロトの天剣に気をとられている隙に、隠蔽を受けたエメラが接近。


「風雷神烈剣・万断!」


 ユニークスキル「赤の支配者」を切り裂かれ、動揺を隠せない赤の主。

 緑の主と同じだが、誰だってスキルが使え無くなれば、そういう反応にもなる。


「極天龍十六夜連閃・神絶!」

「風雷神烈剣・雷天八連」


 二人から追撃が入り、赤の主は呆気なく、その命を散らした。





 インフィアとバーン、バルターは唖然としていた。


 自分たちの覚悟と涙を返せ、と言われてもおかしくない状況を生んだクロト。



 こうして、七日目は終わりを迎えた。


 なんとも、微妙に締まらない終わり方であった。

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