異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

魔王の侵略 七日目-3

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「キュキュッ!」


 竜の形態に戻ったリュノアが勝鬨をあげた。

 そしてそのまま、クロトの胸に飛び込む。


 クロトはひとしきり可愛がった後、再び収納の中へ戻ってもらった。

 リュノアは既にレベル40を超え、黒小竜から黒成竜を経て、黒竜王になった。

 だが、まだまだ甘えん坊のようだ。

 エメラも撫でたそうにしていたが、またの機会に。



「エメラ、僕を信じてくれてありがとう。それと、死に掛けさせてごめん。」

「ん・・・。信じてた、から・・・。謝らない、で・・・?」


 エメラが悲しそうな顔になるので、クロトは頭を下げるのをやめた。


 一方エメラは、恐怖からくる体の震えを抑えていた。

 死にかけたことに恐怖しているのではない。

 逆の立場だった時の事を想像して震えているのだ。


 もしエメラが完治の白玉を使用する立場で、クロトに使うことになったら。

 とてもでは無いができる気がしない。

 自分がしくじれば、自分の提案のせいで、自分の命より大切な人が死ぬ。

 あまりにも恐ろし過ぎる。


 そして、そんなことを出来るクロトを、心の底から尊敬する。


 クロトに愛されていないから、という可能性はあり得ない。

 なぜなら、こうしている時も、クロトからの強い愛情を感じるのだから。

 
 エメラは体が火照り、今すぐクロトと結ばれたい思いで一杯になった。

 しかし残念ながら、数日後まではお預けになりそうだ。


 他の魔物たちは引いたようなので、今日は終わりで明日に備えなくては。




 解体を行い、緑の主から緑結晶、到達者の魂、主の祝福を入手した時。

 クロトが何かに気づいた。



「・・・エメラ。」

「ん・・・。どう、したの・・・?」

「この国の王都が危ないかも?」

「・・・!ん・・・。仕方、ない・・・ね。」


 守りたいのはシンクレア王国ではなく、レドグリアの町。

 エメラも救援に行く意思は薄い。


 ただ、エメラの表情から推察するに、気になっていることがあるようだ。


「エメラ、何か気になる事でも?」

「ん・・・。知り合い、の・・・王女、が・・・。」


 その言葉だけで、おおよそ察することができた。

 つまり、友人の王女は気になるが、町を離れる訳にもいかない、と言う事だ。


 クロトも救援に行くつもりなどない。

 だが、情報を集めておいて損は無いので、天眼で王城を覗いてみた。


 すると、赤の瞳を発現した王女が魔物にやられるのを目撃。

 未見の天種も気になるが、王女の方も気になる。


(赤の瞳・・・。そこは諦めていたんだけど、思わぬ拾い物かな・・・?)


 そう思考しながら、観察を続ける。

 エメラが気にしていたことからも分かるが、性格は悪くない。

 瞳のスキルを発現するほどの意志力もある。

 自由を求める意志は、自分と似ているかもしれない。

 そう、クロトは思った。


(助ける価値はありそうだけど・・・・・・。)


 少しだけ思考をまとめる時間をとって、エメラに相談を持ち掛けた。


「エメラ、今確認したんだけど・・・絶体絶命みたいだよ?」

「っ・・・。ん・・・。」


 エメラは辛そうにしながらも、意志は変わらなそうだ。


「もし、町の安全が保障されるなら、助けに行きたい?」

「・・・・・・。ん・・・。」

「そっか。それなら一つ提案が・・・。」


 クロトはエメラに、簡単に説明した。


 レドグリアの町は、一時的に結界で覆う。

 その間に、エメラは王女の救援に向かう。


 それだけの単純な話だ。


 今まで結界を使わなかったのは、時間稼ぎにしかならないから。

 そして、今回の最終計画に、どれだけの結界を使うかが未知数だったからだ。


 すでに使う分は確定したので、余りを使う分には問題ない。


「ん・・・。でも・・・クロト、に・・・得が、無い、よ・・・?」


 エメラは、クロトに頼り切ることをしない。

 恋人としての立場を使って、町を守って欲しいとすら言わない。

 その辺の線引きはハッキリしているし、対等に近い関係で居たいが故に。


 不器用だと言えるかもしれないが、それがエメラフィアという女性。

 クロトはそんな彼女の事が、どうしようもなく好きなのだ。


 だから今回も、クロトのメリットを考えてくれている。


「それなんだけど・・・。その王女、赤の瞳が発現しているみたいなんだ。」

「・・・!ん・・・。インフィア、が・・・?」

「ああ。だから、僕にもメリットはあるよ。悪い子でも無さそうだし。」


 エメラはそれだけでクロトの言いたいことを理解したようで、考え込む。

 そして、決意した。


「ん・・・。助けに、行く・・・。クロト・・・頼っても、いい・・・?」


 不安そうに、申し訳なさそうに、そう尋ねるエメラ。


「もちろん。・・・っと、もう時間が無い。先に行って?僕は結界を張るから。」

「ん・・・。行って、くる・・・。」


 クロトは魔法陣を起動させながら、敵の情報を簡単に説明。

 エメラはそれを聞いた後、王城へ転移して行った。







 残されたクロトは・・・



「・・・。エメラに頼られるというのは、こんなに嬉しい事なんだね・・・。」



 そう零しながら、大至急結界の調整をしたのだった。







 そして、エメラは炎天煙の前に現れ、王女たちを助けた。

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