異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

魔王の侵略 三日目

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 魔王の侵略開始から三日目。


 魔王カリスは、とある場所で考えを進めていた。



「やはり、カラーヴォイスの状況は芳しくない。かなりの戦力を割いたのだが。」


 クロトの姿を思い浮かべながら、呟く。

 クロトが居る以上、他のどの国よりも戦力を集中させるべきと判断した。


 しかしそれでも、旗色はかなり悪い。

 死者は殆ど出ておらず、負傷者ですら数える程だ。

 負傷しても治癒されてしまうのがとても痛い。


 この世界に回復薬の類は無い。

 いや・・・回復薬の類は無かった、か。


 クロトが作ってしまったので、既に存在している。

 命の水を薄めて、精霊花の蜜やら妖精の果実やらを調合して完成した。

 製法は厳重に秘匿され、ミカゲ財閥の独占状態。

 カラーヴォイス王国以外には殆ど卸していないのは、クロトの判断だ。


 そんな大発明のせいで、カリスは頭を痛めていた。


「彼の事を甘く見過ぎていたか。」

「そうでもないと思うけど?」

「しかし、現状は劣勢で・・・・・・?」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


 カリスは自分と話をしている者の方を見た。

 そこには、椅子に座ったクロト。


「・・・貴様は何をしている?」

「何って・・・魔王の職場見学?」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


 カリスは困惑している。

 目の前にいるクロトが何を考えているのか、まるで分からないのだ。


「ところで、置き土産の感想は?」

「・・・大変すばらしい土産であったな、あの爆発は。」

「そっか。気に入って貰えたようで何よりだね。」

「・・・・・・嫌味が通じないのか、貴様は。」


 クロトはカリスの怒気を浴びても、欠片も動じない。

 寧ろ、更に煽り始める。


「そんな君に、またお土産を・・・あっ!?」


 収納から取り出した箱を、カリスに破壊された。

 もう爆発は御免だと言いた気な超反応だ。


「もったいない・・・。まあ、いいか。じゃあ、またね?」


 そう言い残して、クロトは消えた。


「・・・何をしに来たのだ、一体。」


 カリスはクロトと交戦することを選択しない。

 今のままでは勝てない恐れが強いからだ。


 自分の事は強いと思っている。

 以前自分に襲い掛かって来たS+ランクの冒険者を、軽く倒した経験もある。

 だがそれでも、クロトと言う存在は、戦闘を躊躇わせる何かがある。


「・・・・・・ん?」


 カリスは、突如目の前に何かが現れたのを確認した。

 クロトが隠蔽を解除した箱のようなもの。

 それが何なのか理解したカリスは、至急、障壁を張った。


 そして、箱が開き・・・・・・中から紙が飛び出してきた。


 爆発魔法陣かと思いきや、いつまで待っても爆発しない。

 カリスが紙を確認すると、文字が書かれていた。


【爆発すると思ったかな?残念、爆発しません。障壁の全力展開お疲れ様。】


「・・・・・・・・・・・・。」


 カリスはその紙をグシャリと握り潰し、怒気を露わにした。


「私は私情では動かんが、あの者だけは私情で殺してもいいだろうか。」


 そんな殺人宣言を零しながらも、箱の中に、まだ何かあるのを見つけた。

 取り出して、書いてある文字を読んでみると・・・。


【なお、先程の紙は握りつぶすのを合図とし、意味もなく十秒後に爆発するよ。】


 カリスは慌てて障壁を張り直し、事なきを得たのだった。




 その日カリスは、念願果たせずともクロトだけは殺すと決意したとかなんとか。










 三日目の昼頃、レクスシールの町にて。


「迷宮から天使と悪魔が現れました!」

「なにっ?階級は?」

「アークエンジェルまでです!」

「ならば、Cランクパーティーを三つほど回せ!」

「了解しました!」


 迷宮から魔物が現れるも、まだ戦力には余裕がある。


「伝令!プリンシパリティと思しき個体を発見!」

「ちっ・・・。Bランク冒険者を一人回せ!」


 幾ら余裕があると言っても、限界はある。

 これ以上は勘弁してくれと、指揮官である採掘組合のギルマスは願った。




「伝令!パワーと思しき個体を発見!」

「Bランクパーティーを一つ回せっ!」


 その願いは届かなかったようだが。







 ここはミレアイルドの町。

 時刻は直に夕刻で、今日の侵攻が終わるまで、あと数時間といったところか。


 Bランク冒険者パーティー「風の導き」は、グリフォンロードを討伐した。


「ふう・・・。イリス、MPは大丈夫か?」

「はい、まだ大丈夫です。」


 リーダーのクラッドが魔法使いのイリスにMP残量の確認をした。

 まだまだ大丈夫そうだと聞いて、胸を撫でおろす。


「クラッドも心配性よね。いざとなったらMP回復薬があるのに。」

「いや・・・あれは簡単には使えないぞ?数はそこまで多くない訳だし。」


 ケイトの楽観的な言葉に、クラッドは反論した。


「こんなものを作れるなんて、クロトさんは凄いです・・・!」


 イリスは目をキラキラさせて、顔を紅潮させている。


「またはじまったか・・・。」

「気持ちは分からないではないんだけどね・・・。」


 イリスはクロトに好意を持っている。

 度々デートに誘うも断られているので、脈が無いのは明白なのだが・・・。


「無駄話はそこまで。次が来たぞ?」


 パーティーの索敵役であるセンズが魔物の襲来を告げた。

 その後、無事にハーピーロードは討伐され、その日の侵攻は終わった。



 明日は四日目、折り返し地点だ。

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