異世界隠密冒険記

リュース

文字の大きさ
上 下
151 / 600
第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

水神魔法

しおりを挟む
 アクアは、随分と長い間、断絶空間内で泣きじゃくっていた。

 だが、それを咎められる者など居ないだろう。


 アクアは、ゴブリンに負けて捕まってしまった頃から、こんなにも強くなった。

 偏に、クロトに相応しい女になって、傍に居たいがために。


 追いかけても追いかけても差がつまらない状況。

 不安に押しつぶされそうになったこともあった。

 それでも、ひたむきに努力を続けた。

 睡眠時間を削って魔法操作の練習をするなど、日常茶飯事。

 自分の力になりそうなことには妥協を許さず、一切手を抜かなかった。


 ずっとずっと頑張ってきて。

 その念願が、たった今、ついに叶ったのだ。


 咎めるようなものは、クロトがすべてを懸けてでも叩き潰すだろう。


 クロトも、アクアの努力は知っていた。

 いっそ苛烈とさえ言える努力を。


 デートのほとんどをを断念してまで、努力していた。


 それを思うと、目に涙が溜まってくる。

 そしてついに、涙が頬を伝った。


 それに驚いたのはクロトよりもアクアだ。

 あのクロトが涙を流すなど、信じられなかったのだ。


 その涙が、自分のことを思って流したものだと気づいたアクア。

 過去最大級の幸福が、彼女を襲った。


 その後、どちらからともなく、ベッドに倒れ込んだ。


「アクア・・・!」

「クロトさん・・・!」


 見つめ合う二人は濃厚なキスをした後、結ばれた。

 今までのどの行為よりも、甘美で。


 あのクロトでさえも、理性を全て手放し、溺れ切ってしまった。

 アクアがどうなったかなど、言うまでもないだろう。



 二人の幸せな日々は、数日間にも及んで続いたのだった。














 現在アクアが戦っているのは、波皇帝レベル74という強敵・・・のはずだ。

 疑問形なのは、余りにも圧倒的だからだ。

 圧倒しているのは、アクア。


 敵の波動魔法10はかなり強力だ。

 波動は音速を優に超え、数も大量。

 とても避けられたものではない。


 また、その波動が谷に跳ね返って、全周囲から襲って来る。

 例え空を飛んでも、逃れることは出来ない。


 クロトであっても正面から戦うなら、思考能力を全開にして、それでも苦戦する。

 それだけ、魔法と谷の相性が良いのだ。


 だが、アクアは苦戦すらしていない。


 敵の波動は瞳の効果で、どこから来ても感知できる。

 そして、感知した瞬間に水を生成し、水か氷で防御する。


「水神魔法・神絶多重氷壁!」


 たった今も、全周囲から襲ってきた百を超える波動を、全て個別に防いだ。

 そしてほぼ同時に、攻撃も行う。


「水神魔法・神氷絶波!」


 瞳の波紋に乗せた新たな氷絶波が、波皇帝を襲う。

 その速度は、以前よりも更に速く、敵の波動よりも速い。

 今回は敵の居る方向にしか放っていないが、本来は全周囲に放てる。


 波皇帝は己も波動魔法を使用し、相殺を狙った。

 しかしそれは、完全な悪手。

 波紋同士がぶつかれば、弱い方が呑み込まれるのだから。


 アクアの波動は、敵の波動をあっという間に浸食。

 そのまま完全に呑み込み、波皇帝を真っ二つにした。

 しかし、まだ生きているようだ。

 半物質生物だけはある。


 だが、アクアに抜かりはない。

 クロトのように、詰めの手を緩めていなかった。


「水神魔法・連鎖神氷絶波!」


 その魔法により、先ほどの波動で切断された部分を中心に、波紋が発生。

 その超高速の波紋が球体を形作り、敵をバラバラに切り刻む。

 後に残ったのは。波皇帝の細切れだった。






「クロトさん!どうだったでしょうか・・・!?」

「・・・95点、かな。」


 クロトの評価は過去最高点だった。

 どこで点数が引かれたのか気になったアクアは尋ねてみた。

 クロトの答えは・・・


「あんな細切れにしたら、素材としての価値がね・・・?」


 ・・・というものだった。


「あぅ・・・///」


 アクアはあまりの恥ずかしさに、うずくまってしまった。


(きっとグレンさんなら、なんとかしてくれるよね?)


 クロトはグレンに丸投げすることに決めて、アクアをなぐさめにかかった。





 なお、波皇帝を解体したところ、波動結晶が大量に手に入った。

 迷惑をかけたお詫びだということで、クロトも幾つか貰っている。


 迷惑というのは他でもない。

 危険極まりないアクアの波動についてだ。


 谷で跳ね返って襲って来る、アクアの波動。

 クロトはそれを、必死で回避していたのだ。


 余裕は無いながらも、回避しながらアクアの戦闘を見ていた。


 やはりこの男も異常だ。


 そしてアクアは、そんな領域に足を踏み入れてしまった。

 クロトが背中を任せられると宣言したのは、そういうことなのだ。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

切なさを愛した

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:6

その距離が分からない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:7

【R18】この恋止めて下さいっ!!

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:41

思い出を売った女

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:4,146pt お気に入り:744

【完結】失くし物屋の付喪神たち 京都に集う「物」の想い

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:7

可愛いだけが取り柄の俺がヤクザの若頭と番になる話

ivy
BL / 連載中 24h.ポイント:134pt お気に入り:872

ヒロインではなく、隣の親友です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:18

孤独

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

おもらしの想い出

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:312pt お気に入り:15

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。