異世界隠密冒険記

リュース

文字の大きさ
上 下
147 / 600
第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

高級宿「シャンフィール」

しおりを挟む
 紹介された高級宿「シャンフィール」にやってきた一同。

 その雰囲気は、和洋折衷と言ってもいいだろう。


 紹介状を渡すと、大変に恐縮されてしまった。

 途轍もないVIP用の紹介状だったようだ。

 ちなみに、宿泊料も一か月は無料、というより、紹介状を渡した者が払うようだ。

 紹介状を渡した人の顔を潰す訳にもいかないので、ありがたく泊まらせてもらう。




 案内された部屋は、まるで一軒家だった。

 内部に個室があり、キッチンやお風呂、大広間。

 クロトは、スイートルームに近い印象を受けた。








「カレンは子供っぽいよね。」

「ちょっと待て!突然何の話だ!?」


 クロトの呟きに、カレンがツッコミを入れた。


「あんな楽しそうに部屋を探索していたら、ね・・・?」

「うっ・・・。しかし、気になるではないか・・・!」


 初めてのスイートルームに感動したカレンが、あっちこっち探検し始めたのだ。

 別に、それだけなら良いのだ。

 探索しようがしまいが、本人の自由なのだから。

 だがしかし、人に迷惑をかけるのは頂けない。

 それゆえに、クロトは苦言を呈している。


 つまり、どういうことかと言うと・・・・・・。




「僕の部屋まで探索に来るのは、流石にどうかと思うよ?」

「違う!食事に呼びに来ただけだ!」






 クロトとカレンは食堂へ向かっていた。

 この宿では、部屋に食事を届けてもらうことも可能だ。

 ただ、始めの一回は食堂に行っても良いだろうと思い、向かっている訳だ。


「アクアたちはもう食堂に?」

「ああ。先に行ってもらった。席を確保して貰おうと思ってな。」


 銀の長髪を後ろに流しながら、クロトの質問に答えるカレン。

 妙に色っぽく見える。

 クロトは不意打ち気味に、カレンにキスをした。


「っ!?クロトっ、ふ、不意打ちは卑怯だ・・・!」


 思わず動揺を露わにするカレン。

 相も変わらず、不意打ちにはとことん弱いようだ。


 クロトは、カレンの珍しい表情にドキリとさせられた。

 昂りかけた感情を抑えながら、止まってしまったカレンの手を引くのだった。







 食堂では問題が起きていた。


「何度も言わせないでくださいまし。そんな誘いに乗るつもりはありませんわ。」

「くっ、この俺を誰だと思っている!?」

「恋人の居る女性を口説いて断られている、間抜けな男ですわね。」

「ふざけるなっ!俺はぐはっ!?」


 名前を聞くのも嫌だったクロトが、適当にぶん殴って気絶させる。

 そのまま「転移魔法陣・乱」で、適当な場所にランダムで転移させた。

 危険が多過ぎて人体実験が出来ていなかった魔法陣。

 実に良い実験台が手に入ったものだ。


 反応を追跡してみると・・・遥か上空に転移したようだ。

 確率から考えれば、おかしな結果でもない。

 落下予測地点は、首都から10キロほど離れた場所。

 誰か知らない人にぶつかったら、運が無かったと諦めてもらおう。


 ちなみに、隠密者で色々と隠蔽しているので、誰にも見られていない。


 それに、最終的に魔法陣に倒れ込んできたのは相手の方。

 自分は魔法陣を設置していたに過ぎない。

 ゆえに、責任を追及されることもないだろう。


 そんな無茶苦茶な理屈を心の内側で掲げたクロトであった。





 多少の問題は起きたが、食事は美味しかったため、みんな満足した。


「ところでマリア、ナンパされた気分はどうだった?」

「どうもこうも・・・最悪の気分でしたわね。」


 マリアは苦々しい表情を浮かべている。


「クロトは、もう少し嫉妬というものがありませんの・・・?」

「うん?・・・・・・うん。これといって感じない、かな?」

「・・・変わりませんわね、クロトは。」


 微妙に釈然とし無さそうな表情をしているマリア。


 クロトも嫉妬心が無い訳ではない。

 それが、滅多に顕在化しないだけで。


 そこでクロトは、マリアへの埋め合わせをしていないことを思い出した。

 ゆえに、デートに誘ってみる。


「マリア、明日デートしよっか。」

「っ!?・・・唐突な発言で女性の心を揺らすところも、変わってませんわね。」


 若干、嫌味っぽいことを返したマリア。

 だが、言葉では誤魔化せない程に、その頬は緩み切っていた。


「マリア殿?顔が赤いでござるが・・・どうかしたでござるか?」

「・・・ナツメは黙っていてくださいまし。」

「酷いでござるっ!」


 幸せ気分に水を差されたため、少しだけ不機嫌になったマリアであった。


 ナツメが妙なところで鈍感さを発揮したのがいけないのだろう。

 アクアとカレンもそう思い、ナツメのフォローはしなかった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

切なさを愛した

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:6

その距離が分からない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:7

【R18】この恋止めて下さいっ!!

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:41

思い出を売った女

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:4,146pt お気に入り:744

【完結】失くし物屋の付喪神たち 京都に集う「物」の想い

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:7

可愛いだけが取り柄の俺がヤクザの若頭と番になる話

ivy
BL / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:872

ヒロインではなく、隣の親友です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:18

孤独

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

おもらしの想い出

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:262pt お気に入り:15

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。