異世界隠密冒険記

リュース

文字の大きさ
上 下
142 / 600
第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

エピローグ11

しおりを挟む
 無明の洞窟から帰還して二日。

 カレンの事を報告したり、なぜか領主の次男が行方不明になったりした。

 他にも、なぜか領主が顔を出してきて土下座されたり。

 トウドウ夫妻のラブラブっぷりを間近で見せられたり。

 色々あったとはいえ、特に問題も起きず、静かに過ごせたクロト。


 魔王カリスの侵略まで、あと二か月となったこの日、とある提案が挙がった。

 提案者はナツメ。


「首都シャンレイドへ?どうして?」

「拙者、一度くらい行ってみたかったのででござる・・・。」


 ナツメは少し気恥ずかしそうにしながら、そう己の願望を述べた。


「今まで行ったことが無かったの?」

「修行にしか目が無かったゆえ・・・。」


 なんともナツメらしい理由である。

 クロトは残りの三人に意見を聞いてみたが、概ね賛成のようだ。


 魔王の侵略までにはカラーヴォイス王国に帰りたいので、長期滞在は出来ないが。




 こうして、一同はお世話になったトウドウ家を後にし、首都へ向かったのだった。







「クロトさん、首都へ行く前に、寄り道をしていきませんか?」

「寄り道?」


 首都への道のりも半分を過ぎたころ、アクアがそう切り出した。


「はい。悠久の氷窟という場所なのですが・・・。」


 アクアの話では、その場所に、水氷系統の魔法を強力化出来るアイテムがある。

 みんなが良ければ、それを手に入れに行きたい。

 という、単純な理由だった。


 反対する理由も無いので、全員寄り道に賛成した。

 本来のルートを少し逸れるだけなので、何の問題も無いのだ。


 ついでに、悠久の氷窟について、詳しく聞いてみた。


「広さ自体は、それ程でも無く、探索に時間は掛からないそうです。」

「魔物は現れるんですの?」

「はい。水氷系統の魔物が現れるそうですが、大したことはないと聞きました。」


 それを聞いたカレンは残念そうにしてしまった。









 悠久の氷窟にやってきた一同。


「うん、本当に狭いね。天の瞳で把握できるくらいの広さしかない。」

「そうか・・・。残念だな。」

「隠し部屋が存在する可能性もあるでござるよ?」

「リュノアではあるまいに・・・。」

「キュイ?」


 ナツメはカシュマの寺院を思い出しての発言だったのだろう。

 それを聞いたカレンは呆れている。

 世の中、そんな上手い話は無いのだ。


 アクアが氷塊を探す間、カレンは念の為に、クロトに確認をしておく。


「クロト、隠し部屋など無いよな?」

「うん?隠し部屋は無いよ?」

「やはりな・・・。」


 カレンは、やはりそうだったかと頷いている。

 だが、アクアがクロトの言い方に違和感を覚えた。


「あの・・・隠し部屋が無いのであれば、何があるのでしょうか・・・?」

「よく気づいたね?転移魔法陣があるみたいだよ。」

「「転移魔法陣!?」」

「なぜそれを先に言わないんですの・・・。」


 至急、アクアの目的である氷塊を回収して、転移魔法陣へと向かうのだった。








「本当に転移魔法陣がありましたわね。」


 目の前に転移魔法陣があるのを確認した一同。

 厳密に言うと、カレンとナツメは、なんの魔法陣なのか分かっていないが。

 クロトが嘘を吐くとは思っていないので、そこは信じている。


「さて、この隠蔽された魔法陣に乗るかどうかなんだけど・・・?」


 正しく発動することは確認済み故、問題となるのは危険かどうか、である。


「クロトは、危険を感じるか?」


 やはり、この手の判断はクロトに任せるべきだと思い、尋ねるカレン。

 クロトは数秒だけ考えて、答えを出した。


「ん・・・危険はあるけど、それほどでは無い。そんな気がする。」

「でしたら、とりあえずは行ってみてはどうですの?」


 マリアの提案に、全員肯定の返事をした。

 みんな何だかんだで、この手の仕掛けが嫌いではないのだ。


「じゃあ、一先ず転移してみるということで。」


 クロトの合図で、五人は魔法陣に乗ったのだった。










 転移してすぐにクロトが目にしたのは、全体を見渡せるほどに狭い氷原。

 そして、氷でできた城だった。


「綺麗ですわ・・・!」


 マリアが感動の言葉を零した。

 こういう綺麗なものは、嫌いではないようだ。


「綺麗ですね・・・。」

「立派な城でござるな・・・。」

「堅牢そうな城だな・・・。」


 感想の種類はだいぶん違うが、みんな一様に、城を見つめていた。


 そんな中、天の瞳で氷城を確認したクロトは、このように呟いた。





「この氷の城・・・迷宮?」


しおりを挟む
感想 1,172

あなたにおすすめの小説

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~

ふりたけ(振木岳人)
ファンタジー
「……あの子を、シリルの事を頼めるか? ……」  騎士王ボードワンが天使の凶刃に倒れた際、彼は実の息子である王子たちの行く末を案じたのではなく、その後の人類に憂いて、精霊王に「いわくつきの子」を託した。 その名はシリル、名前だけで苗字の無い子。そして騎士王が密かに育てようとしていた子。再び天使が地上人絶滅を目的に攻めて来た際に、彼が生きとし生ける者全ての希望の光となるようにと。  この物語は、剣技にも魔術にもまるで秀でていない「どん底シリル」が、栄光の剣を持って地上に光を与える英雄物語である。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

なぜか俺だけモテない異世界転生記。

一ノ瀬遊
ファンタジー
日本で生まれ日本で育ったこの物語の主人公、高崎コウが不慮?の事故で死んでしまう。 しかし、神様に気に入られ異世界クラウディアに送られた。 現世で超器用貧乏であった彼が異世界で取得したスキルは、 彼だけの唯一無二のユニークスキル『ミヨウミマネ』であった。 人やモンスターのスキルを見よう見まねして習得して、世界最強を目指していくお話。 そして、コウは強くカッコよくなってハーレムやムフフな事を望むがどういう訳か全然モテない。 バチくそモテない。 寄ってくるのは男だけ。 何でだ?何かの呪いなのか!? ウオォォォ!! プリーズ、モテ期ィィ!! 果たしてこの主人公は世界最強になり、モテモテハーレム道を開けるのか!?

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

召喚されたリビングメイルは女騎士のものでした

think
ファンタジー
ざっくり紹介 バトル! いちゃいちゃラブコメ! ちょっとむふふ! 真面目に紹介 召喚獣を繰り出し闘わせる闘技場が盛んな国。 そして召喚師を育てる学園に入学したカイ・グラン。 ある日念願の召喚の儀式をクラスですることになった。 皆が、高ランクの召喚獣を選択していくなか、カイの召喚から出て来たのは リビングメイルだった。 薄汚れた女性用の鎧で、ランクもDという微妙なものだったので契約をせずに、聖霊界に戻そうとしたが マモリタイ、コンドコソ、オネガイ という言葉が聞こえた。 カイは迷ったが契約をする。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。