異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

カシュマの寺院

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 シュウヤとの話を終えて、クロトは割り当てられた部屋へ来ていた。

 この町に居る間は、トウドウ家を宿にさせて貰えることになったのである。


 ナツメの件は、今すぐどうこうなる訳ではないので、とりあえず保留。

 色々考えていると眠くなってきたので、瞼を閉じたのだった。





 翌日、目を覚ましたクロトは、ナツメに声を掛けた。


「ナツメ、最後にデートしよう?」








 ナツメはクロトから最後のデートに誘われ、盛大に慌てていた。

 婚姻の撤回をしてもらえたのは僥倖であった。

 だがそれは、クロトとの疑似恋人関係の終わりが近いことと同義。

 それはもう、慌てた。


 ナツメは気づいていない。

 それは本来、何の問題も無いことのはずだということに。





 二人はカシュマの寺院にやってきた。


「こういうデートも悪くないね。」

「拙者はそうは思わないでござるよっ!?」


 ナツメは魔物を斬り捨てながら、断言した。


 クロトからデートに誘われて、ソワソワしながら待ち合わせ場所へ向かった。

 なぜか戦闘服を指定されたが、ナツメは疑問すら抱かなかった。

 それくらいに平静さを欠いていたのだ。


 いざデートを始めれば、目的地はまさかのカシュマの寺院。

 当然途中に魔物が出る。


「やはりこんなデートは嫌でござる!」


 ナツメは再び断言しながら、魔物を斬り捨てた。



 カシュマの寺院に辿り着いた二人。


「ここがナツメの修行していた場所か・・・ボロボロだね?」

「はっきり言い過ぎでござる!」


 特に何も無い場所と聞いていたのだが、やはり来て見て正解だった。

 そう確信するクロト。

 なにせ天の瞳には、とても妙なものが映っていたのだから。


「ナツメ、この寺院に地下室は?」

「えっ?・・・無いはずでござる。」


 クロトの質問に、少し考えたものの、無かったはずだと回答した。





「地下室、あったね?」

「全く知らなかったでござるよ・・・。」


 相当分かり辛く隠されていたので、見つけられなくて当然だ。

 クロトも、地下室にある、とあるものの反応が無ければ、気づけなかった。


 地下室へ続くだろう階段を下りていく二人。

 辿り着いたのは、とても小さな部屋であった。


 その地下室にあったのは・・・・・・



「・・・卵でござるか?」

「卵だよね・・・?」


 ・・・全体が真っ黒で、30センチ程である卵型のナニカだった。


「美味しそうだなんて思ってないよね?」

「そんなこと思ってないでござるよっ!」


 適当にナツメを揶揄いながら、目の前のモノが何なのか考えていく。



「ナツメ、何の卵だと思う?」

「分からないでござるが・・・黒い故、黒い犬と予想するでござる。」


 ナツメがそんなどうしようもない予想を告げた。


 クロトはナツメの意見を聞き流し、解析を始める。

 やがて、卵の中身が、不定形の魔力生物だと判明した。


(魔力を流せば、誕生までの時間を抑えることが出来る、か・・・。)


 クロトは解析結果に基づき、魔力を流してみた。



 数十分後、かなりの苦痛ではあったが、卵を魔力で満たせたようだ。

 卵にヒビが入り始める。


 やがて、卵の中から出て来たのは・・・・・・








「キュキュキュッ!!」









 ・・・・・・漆黒のドラゴンだった。



 ただし、手乗りサイズだ。


「・・・キュキュ!」


 そんな鳴き声を上げて、空を飛んでクロトにすり寄ってくるミニドラ。

 クロトに頭をこすりつけて甘えていいるようだ。

 とってもとっても可愛いミニドラゴンだ。

 こうなれば、クロトのやることは1つしかない。






「・・・よし、お前の名前はリュノアで決まりだね。」

「クロト殿はもっと驚いて欲しいでござる!?」


 最強格の生物を間近で目にして、腰を抜かしているナツメがツッコミを入れた。

 涙目になって、少しだけ震えているようだ。

 どうやらリュノアが、闇系統のナニカを自然に放っているらしい。


 隠蔽で覆い隠してみると、ナツメの震えが止まった。

 クロトにその手の効果が無いのは、今更だろう。


 ナツメは、腰が抜けたままのようだし、動揺しているのは変わらない。

 そこでクロトは、ナツメを落ち着かせ、なぐさめようとする。


 何を言うべきか考えて、すぐに思い浮かんだのは、つい先ほどの事だ。


 クロトはしゃがんで、ナツメの涙を拭う。

 そして、顔を近づける。


「ナツメ・・・。」

「っ!?・・・ク、クロト殿・・・何、を・・・?」


 頬に触れられ、ナツメは胸の鼓動が速くなるのが分かった。

 何故か分からないが、顔も熱い。


 クロトはナツメを真剣な表情で見つめ、こう告げた。




「犬は卵からは生まれないって知らなかったの?」

「!?」


 ナツメは恥ずかしさと怒りから、クロトに詰め寄ったのだった。

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