異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

VSシュウヤ

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 試合が始まって、最初に動いたのはシュウヤ。

 一瞬でクロトに接近し、刀を一閃。

 縮地という技術であるそれを知っていたクロトは、見抜いて回避。

 逆にカウンターの一撃を放つ。


「なっ・・・!?」


 シュウヤは、驚愕の声を漏らして目を見開いた。

 相当に縮地に自信があったのだろう。


 縮地には何の予備動作もなく、初見で対応するのはまず不可能。

 シュウヤは相手が格上であるからこそ、初手から使った。

 しかし、逆にその思考を、クロトが読んでいたわけだ。


 シュウヤが縮地を使えると判断したのには理由がある。

 ナツメが、その基本となる動きをしていたからだ。


 クロトのカウンターを何とか回避し、一度距離をとるシュウヤ。


(・・・予想以上の強敵だ。私としたことが、高を括っていたようだ・・・。)


 気合を入れ直して、再びクロトに向き直る。

 だがそこに、クロトの姿は無い。


「っ!?」


 突如自分の目の前に現れたクロトの攻撃を慌てて回避。

 背後に注意を向け、正面の警戒が疎かになっていたため、ギリギリの回避だ。

 確かに熟練者なら、敵が消えれば、背後を警戒するのは当然だ。


 転移による奇襲を使ったクロト。

 クロトとしては決めるつもりだったのだが、そう上手くはいかなかった。


 今度はシュウヤによるカウンター。

 回避しながら刀を納刀していたシュウヤの抜刀術。


「抜刀術・飛燕!」


 技のキレは、ナツメより僅かに上。

 抜刀術の才能は、ナツメの方があるのかもしれない。


 とても読み辛い軌道だが、クロトは易々と見切って、迎撃。


「極重雷一閃・全絶」


 どちらも神速の一閃だったが、ややクロトの方が速い。

 シュウヤの刀を押し込む。


 シュウヤは形勢不利と見て、無理に拮抗させようとはせず、力を抜いて受け流す。


「・・・師範の飛燕を見切ってたのか?」

「全く見えなかったが、そうなのだろう。」

「どちらも並ではないな。」


 そんな門下生たちの声が聞こえて来た。



 一拍置いて、再びシュウヤが仕掛ける。


「抜刀術・二連飛燕!」

「極重雷連閃・全絶」


 両者の武器がぶつかり合い、今度はクロトが押される。

 先程の飛燕は全力ではなかった様だ。

 飛燕の最高威力を誤解させて、そこから崩すつもりだったのだろう。


 ほんのわずかに体勢の崩れたクロトを確認して、ここが勝負所と判断したシュウヤ。

 自分の使用できる最高の技を放つ。


「抜刀術・虚無!」


 虚ろで軌道が全く読めない、その抜刀術は、クロトがギリギリ剣で受け止めた。

 クロトをして、冷や汗をかくレベルの技だった。

 それでも受け止めたクロトは流石の一言だ。


 その後、審判による制限時間終了の合図が入ったのだった。











 クロトとシュウヤは屋敷の一室にて、二人で酒を飲んでいた。

 クロトは酒が好きでは無いので、一口だけだが。


 シュウヤが話を切り出してきた。


「今日の手合わせ、手を抜いていたな?」

「ええ、そうですよ。やはり気づかれますか。」

「ああ。気づいたのは立ち合いが終わってからだが。」


 さすがに立ち合い中は必死だったため、気づけなかった様だ。


「手を抜いたのは、この道場のため、か。」

「はい。決着をつけてしまっては、悪評が流れる恐れもありますから。」


 クロトはそういう理由で本気で勝負を決めに行かなかったのだ。

 もちろん、ある程度の実力しかない相手なら、最初のカウンターで決着だが。


「・・・貴殿がナツメの恋人で無いことは、分かっている。」

「そうでしょうね。気づかないはずがありませんから。」


 早い段階でそれには気づいていたクロト。

 これ程の実力者なら、ナツメの嘘を見抜けてもおかしくないと思ったのだ。


「その上で言わせてもらう。どうか家の娘を、貰ってはくれまいか。」

「・・・・・・。」


 クロトは沈黙する。

 とてもでは無いが、明確な答えは返せそうにない。


 良くない雰囲気を察したのか、更に言い募るシュウヤ。


「貴殿となら、きっとナツメは幸せになれる。だから、どうか頼む。」


 頭を下げてくるシュウヤに、クロトは頭を上げるように言った。

 そして、確信めいた推測を話した。


「あなたは・・・家より娘を大事に思っているのですね?」

「・・・・・・ああ、そうだ。」


 始めは家のために、ナツメを道具扱いすることも辞さないつもりだった。

 それこそ、領主の息子と婚姻を結ばせ、繋がりを得ようという考えもあった。

 もちろん、家が追い詰められたらの話ではあるが。


 しかし、成長を見守っている内に、到底そんな事は出来ないと思ってしまった。

 形の上ではナツメの結婚に口を出して居る風を装ったが、本気では無かった。


 家の名誉と娘への愛。

 二つの間で揺れるシュウヤ。

 そんな中、ナツメが家を出ることになった。

 それが決定的な出来事になり、シュウヤの中の天秤を大きく傾けた。

 傍に居なくなったことが大きかったのだろう。


 家の名誉のことなどどうでもいい。

 一人娘が嫁入りしたら家は後継者が居なくなる。

 だが、それでもいい。

 だから、ナツメに幸せになって欲しい。

 そう思うようになった。


 自分に何が出来るのかを考えた結果、1つの結論に達した。

 手紙で偽の婚姻話を伝え、ナツメが連れてくるだろう男を見定める。

 駄目な男だと思えば、反対するつもりだった。


 人を見る目にはかなり自信があったがゆえだ。

 何度も同じことを繰り返すつもりだったが、そうはならなかった。


 クロトとナツメをを一目見た瞬間、これ以上の相手は望めないと思ったのだ。

 クロトの強さや性格だけではなく、二人の関係を見て、だ。

 娘はこの男となら幸せになれる。

 この男なら、他の誰よりも、娘を幸せにしてくれる。

 直感にも似た感覚だった。



 クロトはシュウヤが話している間、一言も話さなかった。



「どうか、娘を、幸せにしては、もらえないか・・・!」


 クロトは再び頭を下げたシュウヤへ向けて、とある提案をした。

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