異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

フィレントの町へ

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 数日後、クロトたちはウルズの町を出て、フィレントの町へ向かおうとした。

 だが、出発直前に、一騒動あった。



「好きです!付き合ってください!」

「・・・ごめん。君とは付き合えない。」


 クロトはそれだけ伝えて、盗賊から助けた女性の前を去った。

 女性はうな垂れているようだが、クロトは全く気にしていない。

 そのまま何の躊躇いもなく、町を離れて行った。







「クロト殿は鬼畜でござるな・・・。」

「ナツメ、喧嘩なら買うけど?」


 町を出て少ししたところで、ナツメがそんなことを呟いた。


 告白してきた女性の件だが、クロトは間違った対応はしていないと思っている。

 脈の無い相手に余計な気を持たせるよりはマシだろう、と。


「それはそうなのでござるが・・・。」


 ナツメとしても、クロトの対応に不満は無いのだ。

 ただ、妙にモヤモヤするというだけで。


 アクアとマリアは何とも思っていない。

 クロトがモテるのは今更なのだ。

 そして、脈の無い相手には一切容赦せずに振ってしまうのも知っている。

 そのために、そういう対応をしない人には脈があると分かる訳だが。


 カレンは、何とも言えない表情だ。

 脈の無い相手とはいえ、ああも呆気なく振られると、思う所もあるのだろう。

 主に自分の恋心的に。


 仮に自分がクロトに告白したとして、あのように振られたら・・・。


 背筋がゾッとするのを感じつつ、再び感情を抑え込んだカレンだった。




「そう言えば、カーバンクルの目撃情報はこの先だっけ?」

「手紙によれば、そうでござるな。」


 ナツメの父親から届いた近況報告に、目撃情報があったそうだ。

 クロトがナツメの依頼を受けたのも、橙の宝玉を確保するついでだ。


「ただ、既に狩られてしまった恐れも・・・。」

「ああ、それは大丈夫。ついさっき、それらしき反応を確認したから。」

「なら何故、わざわざ確認したんですの・・・。」


 呆れた声を出すマリアを尻目に、クロトはカーバンクルを狩りに行った。







 橙の宝玉を確保したクロトは、フィレントの町へ到着した。

 まず向かうのは、やはりナツメの実家だろう。


 クロトたちもそれが一番だと思い、早速訪ねて来た。


 そこにあったのは、とても大きく、立派な道場であった。



「立派な道場ですね・・・。」

「何というか、大きいですわね・・・。」

「やはりナツメはお嬢様か・・・。」

「マリアのお株が奪われたね。」

「勝手に人のお株を決めないでくださいまし!」


 そんなやり取りの中、ナツメは終始、恥ずかしそうにしていたとか。






 ナツメの実家の一室にて。


「そういう訳ゆえ、婚約は撤回して欲しいでござる。」

「・・・分かった。婚約に関しては撤回しよう。」


 という具合に、呆気なく話はまとまった。


 標準語で話すナツメの父親、シュウヤは、とても厳格そうな人だった。

 その身のこなしから、只者ではないと分かる。

 冒険者ランクで言えば、S+並だと、クロトは推測した。


 ナツメは呆気なく認められ過ぎて、拍子抜けだ。

 確約はもらっていたが、もう一悶着あると思っていた。


「頼んでおいてなんでござるが、本当にいいのでござるか・・・?」

「ああ。家は大事だが、お前には幸せになって欲しいと思っている。それに・・・」


 シュウヤは微笑みを浮かべているクロトを一瞥して、こう告げた。


「・・・このような男を連れて来られたら、断るなど、出来はせんよ。」


 どうやら、一目でクロトの実力を見抜いたようだ。





 その後のシュウヤの話にて。


 ナツメが連れて来た男が生半可な男であったとしたら。

 その場合、簡単に婚約の撤回まではしなかったそうだ。

 その基準は、自分より強いかどうか。

 はっきり言って無茶苦茶だ。


 だがしかし、ナツメが連れて来たのは、とんでもない男だった。


 眼力に自信のある自分の睨みを受けても、欠片も動じない。

 どれほど強いのか見通せないが、自分より強いことは分かる。


 これほどの者と近親になれるなら、家と娘の為にも、二人の仲を認めるべき。

 ゆえに、断る選択肢など無い。


 ・・・とのことだ。



 そして現在、クロトとシュウヤは、修練場で向かい合っていた。

 クロトがシュウヤに勝負を申し込まれたのだ。

 なんでも、自分より強い者と戦う機会は大事にしたい、だそうだ。


 クロトも快くその申し出を受けた。


 修練上の中では、ナツメたちと、道場の入門者たちが見守っている。

 入門者たちの見学は、シュウヤからの願いだ。

 自分たちの戦いを見せて、向上心を煽るつもりなのだろう。



 そして、ナツメの母、ツキメの合図で、試合は開始された。


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