異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

ウルズの町へ

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 満天の星空を満喫した一同は、その数日後にイスタルの町を出た。

 その気になれば転移で来られるので、それほど名残惜しくはない。


 次に向かうのはウルズの町。

 イスタルの町から、馬車で三日程進むと辿り着く距離だ。



 例の如く魔物は出なかったが、盗賊が現れた。


 クロトとのイチャイチャを邪魔されたマリアが、天落で圧殺。

 見るも無残なことになった。

 天の瞳で、近くにアジトらしい場所が見つけたのだが、面倒なのでスルー。



 ・・・するつもりだったのだが、予定を変更してアジトへ向かう。




「わざわざアジトへ向かうなんて、クロトにしては珍しいな。」
 
「盗賊に女性が捕まっていようが、平気で無視するあのクロト殿が・・・。」

「君たち、喧嘩を売ってるなら買うよ?」


 クロトは不本意そうな表情だ。

 ちなみに、本当に女性が捕まっているのだが、目的はそちらではない。


 ・・・平気でスルーしようとしていたクロトは、やはり鬼畜である。





 そんな訳で、盗賊のアジトの洞窟にやってきた。

 アジトに残っていた数人の盗賊を始末し、目的のものを取りに行く。


 盗賊たちが各地で奪ったであろう財宝の中に、それはあった。


(天の雫・・・だよね。・・・うん、間違いない。)


 クロトは、かつて見たことのある、天の雫の反応を、アジトの中に見つけたのだ。


(確かグレンさんが、相当珍しい物だと言っていたけど・・・。)


 クロトは釈然としなかった。


 これまで見つけた天の雫は二つ。

 一つは小さな村で、由緒正しきただの石と扱われていた。

 一つは盗賊のアジトで、無造作に宝物庫に放り込まれていた。


 これで珍しいものだと言われても、納得はできかねるだろう。


 とはいえ、天の雫が手に入ったこと自体は嬉しいので、文句は無いクロト。

 宝物庫の中で、他にも幾つか興味深い物が見つかったが、今は置いておく。





「あ、あの・・・。助けてくれてありがとうございます。」


 クロトが洞窟を出ようと思っていると、一人の女性が、そうお礼を言ってきた。

 同じ女性であるアクアたちに、彼女の介抱を頼んでいたのだが・・・。

 どうやら、クロトのことを聞いたらしい。


 彼女がどれほど美化されたクロトの話を聞かされたのかは分からない。

 しかし、熱い視線を向けて来られても、困ってしまうクロトなのだった。





 クロトは再び町へ向かったが、その途中、アクアに尋ねた。


「アクア、僕の事をどんな風に話したの・・・?」

「えっ・・・?ごく普通のことしか話していませんけれど・・・。」


 内容を聞いてみたが、確かに一般的に知られていることしか話していなかった。

 疑ったことを謝罪しつつ、熱い目を向けてくる心当たりを尋ねてみた。


「それでしたら、冒険者ランクではないでしょうか。」

「・・・ああ、なるほどね。」


 S+ランク冒険者ともなれば、憧れの的だ。

 放って置いても女性が寄ってくるくらいには。

 クロト本人だけではなく、ランクのことも聞いたが故の、熱い視線なのだろう。


「すみません・・・。安心させる為とはいえ、軽はずみに話してしまって。」

「気にするな、とは言わないけど、僕も気づかなかった以上はお互い様だよ。」


 クロト自身、自分のランクの凄さを実感していなかった。

 そのために、気づくのが遅れてしまったと思われる。


 また、異性をランクで見るというのは、想像し難かったのだ。

 クロトの恋人たちは、クロトをランクで見たりはしない。

 考えが抜け落ちていても、致し方なかろう。


 分かっていなければ致命的な誤認なら、クロトが見逃すことはほぼない。

 だが、良くも悪くも、助けた女性はクロトにとって、どうでもいい存在だ。

 おまけに、助けたことだって、結果的についてきた副産物でしかないのだ。


 なお、クロトの判断を、仲間たちは咎めたりしない。

 みんな一様に、自分の中の優先順位がハッキリしているのだ。

 自分にとって大切な人が危険なら、命を懸けて助ける。

 だが、そうでないならば、なるようにしかならないという考えだ。


 優しいアクアですら、それに近い考えである。

 もっともアクアの場合、助けた以上は最低限の責任を持つが。


 この世界は、自己責任、自己解決が基本の、とってもシビアな世界なのだ。

 誰しもが、余計な甘さで、自分や仲間の命を危険に晒したくはない。

 それが、ごく当然の思考となっている。










 クロトたち+助けた女性は、ウルズの町へたどり着いた。

 助けた女性は冒険者ギルドに預け、クロトたちは宿を探しに行く。


 助けた女性の家が宿屋を経営している様なので、そちらへ泊ることになった。

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