異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

恋人の振りと星空

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 本日は、ナツメと恋人の振りをするための練習。


「ナツメ、いつもとは雰囲気が違うけど、知的な感じがしていいね。」

「そ、そうでござるか。普段は知的に見えない訳ではないのでござろう・・・?」

「・・・・・・。」

「なぜ黙るでござるか、クロト殿っ!?」


 デートの練習をしている最中、服屋に入った二人。

 そこでクロトは、普段は束ねている髪形を変えてみて欲しいと頼んだ。

 ナツメは快く了承し、髪を解いてみた。

 すると、黒髪ストレートの美人さんになったのだ。


 クロトはそこで、ふと思いついた。

 メガネが似合いそうだな、と。


 クローナ雑貨店の商品である眼鏡をナツメに掛けてもらった。

 もちろん、度が入っていないものを、だ。


 そうしたら、まさかの知的美女が誕生したわけだ。


 普段のナツメとのギャップがあって、中々に良い。

 この状態で黙っていれば、惚れる人の一人や二人は現れるだろう。


「・・・ナツメは、ずっと黙っていればいいのに。」

「ひ、酷いでござるよクロト殿っ!」


 ナツメはハッキリと言われて涙目だ。

 涙目になる知的美女。

 間違いなく需要はあるだろう。

 
 クロトはそう思ったので、励ますことにした。


「大丈夫。一部の特殊な趣味を持つ人には需要があるから。」

「その言い方だとちっとも嬉しく無いでござるぅ・・・!」


 ナツメはさらに泣きだしそうになってしまった。


 クロトはナツメの頭をよしよしと撫でる。


 何だかんだで、余計な緊張が解れてきているナツメであった。


 全てはクロトの計画通りに。





「楽しんでる、ナツメ?」

「とても楽しいでござるよ・・・!」


 ナツメは満足そうな顔をしている。

 まだ数時間といったところだが、今回はこれまでのようだ。


「じゃあ、今日はここまで。また宿で会おう。」

「・・・えっ?」


 クロトはそのまま消えてしまった。

 ナツメは呆然と立ち尽くしていた。


 そして、我を取り戻すと、今度は喪失感に襲われた。


「何か、モヤモヤするでござる・・・。」


 また次もあるのだから大丈夫。

 そのように自分に言い聞かせ、何とか平静を取り戻した。




 すっかり目的が変わっていることに、ナツメは気づかない。












「星の名所?」

「そうですわ。この辺りは、よく星が見えるそうなんですの。」


 近くにハリケルア雷山があることと関係しているのか。

 イスタルの町は、とても星が綺麗らしい。

 そして、星を見るために人が集まる場所があるとか。


「ですので、みんなで見に行ってみませんこと?」

「そうだね、僕は賛成で。皆はどうかな?」

「私も賛成です!」


 アクアは即座に賛成した。

 とても楽しみにしているようだ。


「私も構わないぞ。偶にはそういうのも良さそうだ。」

「当然、拙者も行くでござるよ。」


 全員行ってみたい様なので、五人で出向くことになった。

 また、女性陣の間で、和服を着ていくことに決まった。






 夜も更けたころ、クロトは星見の丘に向かった。

 アクアたちとは現地の前で落ち合うことになっている。



 星見の丘の前でアクアたちを見つけた。

 一瞬だけ四人に見惚れてしまったクロトは、決して悪くない。


 夜の丘で、和服を着て佇む四人は、とても綺麗だった。

 ほんの少しだけ、おめかししているように見える。


「少しだけ珍しいクロトを見れましたわね。」

「そうですね。とっても新鮮です・・・。」


 クロトの恋人二人は、クロトが自分たちに見惚れたため、とても嬉しそうだ。


「さて、ではそろそろ行くとしようか。」


 カレンが歩き始めたのを合図に、五人で星見の丘に入って行く。



「まいったね・・・。少しだけ恥ずかしいかも・・・。」



 クロトは誰にも聞こえないように呟いて、共に歩き出した。


 その頬は、少しだけ赤く染まっていた。

 大変珍しいことである。


 ちなみに、その手の化粧品類は、クローナ雑貨店で販売中だ。









 星見の丘の空には、満天の星空が存在した。

 

 丘では、少しでも星が見やすくなるよう、色々工夫がされているのが見て取れる。


 クロトたちは、施設のテラスにあるベッドに横になりながら、星を眺めた。


 この施設は利用料がかかり、最高級の場所は目が飛び出るような値段。


 だが、それも納得できるくらいに、美しい星空だった。



「綺麗でござる・・・。」

「ああ、素晴らしいとしか言えない美しさだ・・・!」


 ナツメとカレンが、惚けたように星空を眺めながら、感嘆の言葉を零した。


 アクアとマリアはクロトの両隣で、手を繋ぎながら星空を眺めていた。


「クロトさん、とっても綺麗ですね・・・!」

「そうだね・・・。ありがとう、マリア。ここに誘ってくれて。」

「い、いえ、気にする必要はありませんわ・・・。」


 マリアは、クロトに笑顔で感謝の言葉を掛けられ、胸の鼓動が急激に速くなった。



 クロトたちの居る施設は寝泊まりも可能なので、泊まることにした一同。




 静かに星を見つつ過ごす時間は、五人の中で、かけがえのない思い出になった。

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