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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編
旅館でのひと時
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それぞれの部屋で、一息吐く一同。
クロトの部屋と女性陣の部屋は、遠くは無い。
その気になれば、すぐに出向ける。
ここは女性陣に割り当てられた四人部屋。
この部屋に入った女性たちは、寛いでいた。
「やはり、和室は落ち着くでござる・・・。」
ナツメは早速、横になっている。
「何と言いますか、とても落ち着ける部屋ですね・・・。」
「そうですわね・・・。」
アクアとマリアも、座って寛ぎ始める。
「これが畳か。・・・気分が高揚してきたな、部屋を探索してみよう。」
カレンは興奮が再発し、物珍しい部屋を探索し始めた。
気持ちは痛いほど分かるが、普段の凛とした雰囲気は何処へ落としてきたのか。
皆が思い思いに過ごす中、カレンがあるものを見つけた。
「ん?これは・・・何だ・・・?」
カレンが机の上から手に取ったのは、急須。
「カレン殿、それは急須でござるよ。」
「急須?一体どういった物なのだ?」
「お茶を入れる道具でござる。実際に入れてみるでござるよ。」
ナツメは急須を受け取り、湯飲みにお茶を注ぐ。
「カレン殿、飲んでみるでござるか?」
「・・・遠慮なく頂こう。」
初めての飲み物を、ほとんど躊躇わずに口にした。
「・・・美味しいな、このお茶という飲み物。」
どうやらお気に召したようだ。
そうして過ごしているうちに夜になり、夕食の時間になった。
夕食は、部屋に運ばれてきた。
白米に刺身、天麩羅、茶わん蒸し。
そういった料理を堪能していく四人。
みんな無言で、味わって食べている。
本場の料理は、どれも口に合ったようである。
大変満足だった食事を終え、四人はガールズトークを始めた。
これからの話だったり、ナツメの実家の話だったり。
ちなみに、到着した港からナツメの実家までは距離がある。
島の端と端だと言っても過言ではない。
急ぐ旅でも無いので、のんびり観光しながら向かう予定だ。
そしてやはり、クロトの話になる。
「クロト殿は良い殿方でござるなぁ・・・。」
アクアからクロトに関する話を聞いて、素直な感想を零したナツメ。
「まったくですわね。そこまで真摯に考えてくれるとは・・・。」
アクアは、クロトが複数の恋人をつくることに負い目を感じていることを話した。
自分の信念を守りつつ、恋人に辛い思いをさせないように努力していることも。
「一夫多妻くらい普通なのだが、それを言い訳にしないところに好感がもてるな。」
カレンは、何か思う所がありそうだが、クロトの真摯さには感嘆している。
「はい。ですが今でも、時折とても辛そうな表情をなさるんです・・・。」
「それは気にし過ぎですのに・・・。損な性格ですわね・・・。」
「私もそう思いますが、それがクロトさんですから。強くは咎められません。」
アクアは悲しそうにしている。
そして、1つの結論を話した。
「ですから、もしクロトさんが女性を受け入れるかどうか迷っていたら・・・。」
アクアは一旦言葉を切って座り直し、向いている方向を微妙に変えた。
そして、
「その時は、クロトさんの背中を押してあげたいと思います。」
そう宣言したのだった。
偶然か、必然か。
アクアが向いているのは、カレンの居る方向だった。
カレンは、心を大きく揺さぶられたのだった。
その日の深夜。
カレンは中々寝付けないでいた。
思い出しているのは、アクアの宣言。
(私は、どうしたら・・・。)
カレンがここまで自分を押し込めようとするのには、理由がある。
カレンにはかつて、仲間であり、戦友で会った男が居た。
その男のことは戦友以上には思っていなかったのだが、相手は違った。
カレンの事を、異性として好いていたのだ。
そしてある日、その男に告白された。
カレンは・・・受け入れることが出来なかった。
本当に、男としては見ていなかったのだ。
想いが叶わなかった男は、荒れてしまった。
元々は生真面目な性格だったのが、ただの乱暴者になった。
そんな状態であったため、上手くいかなくなった。
果てには、カレンを無理やり押し倒そうとまでしてきた。
戦友として関係さえ、失ってしまったのだ。
あの時、もっと言い方を考えていれば、あそこまでにはならなかった。
カレンはそう思い、自分を責めた。
結局その男は、魔物にやられて死んでしまった。
酒を飲んで魔物と戦ったことが原因らしい。
カレンはいつの日か、自分の感情を封印することに慣れてしまった。
自分さえ当たり障りなく接すれば、関係は壊れないと理解したのだ。
そんな中、クロトと出会った。
カレンはあっという間に、クロトに惹かれていった。
だが、かつての嫌な思い出が蓋をして、それには気づかなかった。
天帝と戦った後、一時的に蓋が外れ、狂おしいほどの慕情に襲われた。
カレンは理解した。
これが、かつての戦友を狂わせたものなのだと。
これを抑えるのは至難の業だっただろうと、すぐに分かった。
だがカレンは、想いをいつものように封印した。
今度こそは、戦友としての関係まで失いたくなかったのだ。
自分が感情を抑えれば、クロトとはずっと、戦友で居られるのだから。
その後、度々蓋が外れるも、何とか抑えて来た感情。
最近は落ち着いてきたと思っていたのだが、再び暴れだした。
クロトと共にいると、自然とそうなってしまうのだ。
カレンは、先ほどのアクアの宣言をもう一度思い出しながら、瞼を閉じた。
それからすぐに、カレンの静かな寝息が聞こえて来たのだった。
クロトの部屋と女性陣の部屋は、遠くは無い。
その気になれば、すぐに出向ける。
ここは女性陣に割り当てられた四人部屋。
この部屋に入った女性たちは、寛いでいた。
「やはり、和室は落ち着くでござる・・・。」
ナツメは早速、横になっている。
「何と言いますか、とても落ち着ける部屋ですね・・・。」
「そうですわね・・・。」
アクアとマリアも、座って寛ぎ始める。
「これが畳か。・・・気分が高揚してきたな、部屋を探索してみよう。」
カレンは興奮が再発し、物珍しい部屋を探索し始めた。
気持ちは痛いほど分かるが、普段の凛とした雰囲気は何処へ落としてきたのか。
皆が思い思いに過ごす中、カレンがあるものを見つけた。
「ん?これは・・・何だ・・・?」
カレンが机の上から手に取ったのは、急須。
「カレン殿、それは急須でござるよ。」
「急須?一体どういった物なのだ?」
「お茶を入れる道具でござる。実際に入れてみるでござるよ。」
ナツメは急須を受け取り、湯飲みにお茶を注ぐ。
「カレン殿、飲んでみるでござるか?」
「・・・遠慮なく頂こう。」
初めての飲み物を、ほとんど躊躇わずに口にした。
「・・・美味しいな、このお茶という飲み物。」
どうやらお気に召したようだ。
そうして過ごしているうちに夜になり、夕食の時間になった。
夕食は、部屋に運ばれてきた。
白米に刺身、天麩羅、茶わん蒸し。
そういった料理を堪能していく四人。
みんな無言で、味わって食べている。
本場の料理は、どれも口に合ったようである。
大変満足だった食事を終え、四人はガールズトークを始めた。
これからの話だったり、ナツメの実家の話だったり。
ちなみに、到着した港からナツメの実家までは距離がある。
島の端と端だと言っても過言ではない。
急ぐ旅でも無いので、のんびり観光しながら向かう予定だ。
そしてやはり、クロトの話になる。
「クロト殿は良い殿方でござるなぁ・・・。」
アクアからクロトに関する話を聞いて、素直な感想を零したナツメ。
「まったくですわね。そこまで真摯に考えてくれるとは・・・。」
アクアは、クロトが複数の恋人をつくることに負い目を感じていることを話した。
自分の信念を守りつつ、恋人に辛い思いをさせないように努力していることも。
「一夫多妻くらい普通なのだが、それを言い訳にしないところに好感がもてるな。」
カレンは、何か思う所がありそうだが、クロトの真摯さには感嘆している。
「はい。ですが今でも、時折とても辛そうな表情をなさるんです・・・。」
「それは気にし過ぎですのに・・・。損な性格ですわね・・・。」
「私もそう思いますが、それがクロトさんですから。強くは咎められません。」
アクアは悲しそうにしている。
そして、1つの結論を話した。
「ですから、もしクロトさんが女性を受け入れるかどうか迷っていたら・・・。」
アクアは一旦言葉を切って座り直し、向いている方向を微妙に変えた。
そして、
「その時は、クロトさんの背中を押してあげたいと思います。」
そう宣言したのだった。
偶然か、必然か。
アクアが向いているのは、カレンの居る方向だった。
カレンは、心を大きく揺さぶられたのだった。
その日の深夜。
カレンは中々寝付けないでいた。
思い出しているのは、アクアの宣言。
(私は、どうしたら・・・。)
カレンがここまで自分を押し込めようとするのには、理由がある。
カレンにはかつて、仲間であり、戦友で会った男が居た。
その男のことは戦友以上には思っていなかったのだが、相手は違った。
カレンの事を、異性として好いていたのだ。
そしてある日、その男に告白された。
カレンは・・・受け入れることが出来なかった。
本当に、男としては見ていなかったのだ。
想いが叶わなかった男は、荒れてしまった。
元々は生真面目な性格だったのが、ただの乱暴者になった。
そんな状態であったため、上手くいかなくなった。
果てには、カレンを無理やり押し倒そうとまでしてきた。
戦友として関係さえ、失ってしまったのだ。
あの時、もっと言い方を考えていれば、あそこまでにはならなかった。
カレンはそう思い、自分を責めた。
結局その男は、魔物にやられて死んでしまった。
酒を飲んで魔物と戦ったことが原因らしい。
カレンはいつの日か、自分の感情を封印することに慣れてしまった。
自分さえ当たり障りなく接すれば、関係は壊れないと理解したのだ。
そんな中、クロトと出会った。
カレンはあっという間に、クロトに惹かれていった。
だが、かつての嫌な思い出が蓋をして、それには気づかなかった。
天帝と戦った後、一時的に蓋が外れ、狂おしいほどの慕情に襲われた。
カレンは理解した。
これが、かつての戦友を狂わせたものなのだと。
これを抑えるのは至難の業だっただろうと、すぐに分かった。
だがカレンは、想いをいつものように封印した。
今度こそは、戦友としての関係まで失いたくなかったのだ。
自分が感情を抑えれば、クロトとはずっと、戦友で居られるのだから。
その後、度々蓋が外れるも、何とか抑えて来た感情。
最近は落ち着いてきたと思っていたのだが、再び暴れだした。
クロトと共にいると、自然とそうなってしまうのだ。
カレンは、先ほどのアクアの宣言をもう一度思い出しながら、瞼を閉じた。
それからすぐに、カレンの静かな寝息が聞こえて来たのだった。
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