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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編
精霊神殿
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砂皇帝を倒してから数時間。
ヴィオラは未だに、断絶空間内で落ち込んでいた。
クロトに本気で叱られたのが、相当堪えたようだ。
やがてヴィオラは、どんどん悪い想像をするようになってきた。
あんな酷いミスをした自分は、嫌われてしまったのではないか。
そうであったら、別れを切り出されるのだろうか。
(・・・それだけは、嫌だ。何をされてもいいとは言ったが、絶対に、嫌だ。)
その時は、恥も外聞も気にせず、縋りついてしまうかもしれない。
そう思ってしまった。
クロトがそんな男ではないということはヴィオラも分かっているつもりだ。
だが、全く想像しないという訳では無いのだ。
(・・・馬鹿だな、私。何をされてもいい、なんて。思い上がっていた。)
クロトが望んでくれなければ、何もされないというのに。
その何かを求めているのは、自分の方なのに。
(・・・はぁ。落ち込んでいても仕方が無いな。次に繋げよう。)
ヴィオラは気持ちを切り替えた後、眠りについた。
ヴィオラの様子をこっそり伺っていたクロト。
(・・・気持ちを切り替えたみたいだね。流石はヴィオラだ。)
好きな人にあそこまで言われたら、落胆はもっと長引くのが普通だ。
ヴィオラのクロトを想う気持ちが弱いからではない。
普段クロトのことをよく見ているからこそ、本能的に理解しているのだ。
失敗を引きずり過ぎず、反省して次に繋げる大事さを。
今のクロトの強さは、数えきれないほどの失敗と反省から来ている。
(ヴィオラは本当に、アクアやエメラよりも、僕に似ているね。)
クロトはヴィオラの成長を喜びつつ、瞼を閉じて眠りについた。
クロトとヴィオラは精霊神殿の入口まで来ていた。
砂漠を進み、オアシスを見つけ、精霊神殿の入口まで来た。
そこまでは問題ない。
「精霊神殿に門番が居るなんて聞いていないんだけど?」
「我は門番という訳ではない。」
精霊神殿の入口に、人間の男が居たのだ。
風貌はごく普通、なのだが・・・。
(・・・強い。ひょっとしたら、カレン並みかな?)
クロトはそんな感想を、目の前の男に抱いた。
「・・・門番でないなら、なぜここに?」
「それは勿論、精霊の王冠を手に入れるためだ。」
「よくここにあるって知ってたね?」
「とある筋からの情報だ。」
情報源については話さないつもりのようだが、信じてもいいだろう。
別段、敵意の類も感じない。
「そういえば、名乗っていなかった。我が名はアルレイン。」
「僕はクロト。こっちはヴィオラ。それで、あなたは冒険者かな?」
「そうだ。S+ランク冒険者「無双」のアルレイン。」
「僕はS+ランク冒険者「深淵」のクロト。」
「・・・A+ランク冒険者「紫剣」のヴィオラ。」
自己紹介を終えた三人だが、内容に驚いている者は居ない。
相手がそれだけの実力者だということは、とっくに分かっていたのだ。
「そちらの女性がA+ランクで収まるかは別として、相当強いようだな。」
アルレインは、クロトの方を向きながらそう言った。
立ち振る舞いは自然だが、少し緊張しているようだ。
クロトは平常心だが。
「ところで、精霊の王冠は男女ペアでないと手に入らないよ。」
「それは知っているが、相方として押し付けられた者は死んでしまった。」
そして、アルレインは少し首を捻った後、とんでもないことを言い出した。
「ゆえに、そちらのヴィオラ殿に協力を依頼できないか?」
「・・・!?」
「・・・何を言ってるか分かってるのかな?」
クロトは怒りを抑えながら、問いただした。
精霊の王冠は、男女が結ばれなければ手に入らないのだ。
つまりは・・・そういうことである。
「意味は理解している。しかし、こちらにも引けない訳がある。」
「その訳というのは?」
「国からの依頼でな。あと数日で持ち帰れなければ、我は投獄される。」
「・・・そんな無茶苦茶な話は聞いたことがないね。」
「ブルータル王国はそういう国だ。」
アルレインの言い分は理解した。
だが、それを認めるつもりなど欠片もない。
「悪いけど、ヴィオラは僕の恋人だ。お断りさせてもらうよ。」
「・・・断固拒否する。」
アルレインの依頼に断りを入れた二人。
そうなるだろうことは理解していたアルレインは、ある提案をする。
「では、決闘をしないか?」
「決闘、ね・・・。」
「ああ。私が勝てば、依頼を受け入れてもらう。」
「決闘を受けるメリットは?」
一応聞いてみるクロト。
どんなメリットを提示されても、断るつもりだが。
ヴィオラを賭けられるはずがない。
「我の全財産。そこには、伝説級のアイテムも含まれる。」
「具体的には?」
「一番貴重なのは、完治の白玉か。どんな病でも治せるアーティファクトだ。」
確かに、途轍もなく貴重であるが、やはりヴィオラを賭けるつもりはないクロト。
しかし、断ろうとしたクロトを遮ったのは、そのヴィオラであった。
ヴィオラは未だに、断絶空間内で落ち込んでいた。
クロトに本気で叱られたのが、相当堪えたようだ。
やがてヴィオラは、どんどん悪い想像をするようになってきた。
あんな酷いミスをした自分は、嫌われてしまったのではないか。
そうであったら、別れを切り出されるのだろうか。
(・・・それだけは、嫌だ。何をされてもいいとは言ったが、絶対に、嫌だ。)
その時は、恥も外聞も気にせず、縋りついてしまうかもしれない。
そう思ってしまった。
クロトがそんな男ではないということはヴィオラも分かっているつもりだ。
だが、全く想像しないという訳では無いのだ。
(・・・馬鹿だな、私。何をされてもいい、なんて。思い上がっていた。)
クロトが望んでくれなければ、何もされないというのに。
その何かを求めているのは、自分の方なのに。
(・・・はぁ。落ち込んでいても仕方が無いな。次に繋げよう。)
ヴィオラは気持ちを切り替えた後、眠りについた。
ヴィオラの様子をこっそり伺っていたクロト。
(・・・気持ちを切り替えたみたいだね。流石はヴィオラだ。)
好きな人にあそこまで言われたら、落胆はもっと長引くのが普通だ。
ヴィオラのクロトを想う気持ちが弱いからではない。
普段クロトのことをよく見ているからこそ、本能的に理解しているのだ。
失敗を引きずり過ぎず、反省して次に繋げる大事さを。
今のクロトの強さは、数えきれないほどの失敗と反省から来ている。
(ヴィオラは本当に、アクアやエメラよりも、僕に似ているね。)
クロトはヴィオラの成長を喜びつつ、瞼を閉じて眠りについた。
クロトとヴィオラは精霊神殿の入口まで来ていた。
砂漠を進み、オアシスを見つけ、精霊神殿の入口まで来た。
そこまでは問題ない。
「精霊神殿に門番が居るなんて聞いていないんだけど?」
「我は門番という訳ではない。」
精霊神殿の入口に、人間の男が居たのだ。
風貌はごく普通、なのだが・・・。
(・・・強い。ひょっとしたら、カレン並みかな?)
クロトはそんな感想を、目の前の男に抱いた。
「・・・門番でないなら、なぜここに?」
「それは勿論、精霊の王冠を手に入れるためだ。」
「よくここにあるって知ってたね?」
「とある筋からの情報だ。」
情報源については話さないつもりのようだが、信じてもいいだろう。
別段、敵意の類も感じない。
「そういえば、名乗っていなかった。我が名はアルレイン。」
「僕はクロト。こっちはヴィオラ。それで、あなたは冒険者かな?」
「そうだ。S+ランク冒険者「無双」のアルレイン。」
「僕はS+ランク冒険者「深淵」のクロト。」
「・・・A+ランク冒険者「紫剣」のヴィオラ。」
自己紹介を終えた三人だが、内容に驚いている者は居ない。
相手がそれだけの実力者だということは、とっくに分かっていたのだ。
「そちらの女性がA+ランクで収まるかは別として、相当強いようだな。」
アルレインは、クロトの方を向きながらそう言った。
立ち振る舞いは自然だが、少し緊張しているようだ。
クロトは平常心だが。
「ところで、精霊の王冠は男女ペアでないと手に入らないよ。」
「それは知っているが、相方として押し付けられた者は死んでしまった。」
そして、アルレインは少し首を捻った後、とんでもないことを言い出した。
「ゆえに、そちらのヴィオラ殿に協力を依頼できないか?」
「・・・!?」
「・・・何を言ってるか分かってるのかな?」
クロトは怒りを抑えながら、問いただした。
精霊の王冠は、男女が結ばれなければ手に入らないのだ。
つまりは・・・そういうことである。
「意味は理解している。しかし、こちらにも引けない訳がある。」
「その訳というのは?」
「国からの依頼でな。あと数日で持ち帰れなければ、我は投獄される。」
「・・・そんな無茶苦茶な話は聞いたことがないね。」
「ブルータル王国はそういう国だ。」
アルレインの言い分は理解した。
だが、それを認めるつもりなど欠片もない。
「悪いけど、ヴィオラは僕の恋人だ。お断りさせてもらうよ。」
「・・・断固拒否する。」
アルレインの依頼に断りを入れた二人。
そうなるだろうことは理解していたアルレインは、ある提案をする。
「では、決闘をしないか?」
「決闘、ね・・・。」
「ああ。私が勝てば、依頼を受け入れてもらう。」
「決闘を受けるメリットは?」
一応聞いてみるクロト。
どんなメリットを提示されても、断るつもりだが。
ヴィオラを賭けられるはずがない。
「我の全財産。そこには、伝説級のアイテムも含まれる。」
「具体的には?」
「一番貴重なのは、完治の白玉か。どんな病でも治せるアーティファクトだ。」
確かに、途轍もなく貴重であるが、やはりヴィオラを賭けるつもりはないクロト。
しかし、断ろうとしたクロトを遮ったのは、そのヴィオラであった。
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