異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

王都感謝祭・二日目

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 リンカとナツメは、王都を巡っていた。


「そういえば、今日は夜から用事が出来たんだけど、いいかな?」

「勿論でござるよ。ちなみに、どんな用事なのでござるか?」

「クロトさんから、王都近くの丘の近くに来てほしいって言われて・・・。」


 ナツメはピタッと歩みを止めて、リンカに尋ねてみた。


「それは・・・デートでござるか?リンカも隅には置けんでござるなぁ・・・?」

「ででデートっ!?そんなんじゃないから!」


 ナツメの言葉を否定しながら、そんな気もしてきたリンカ。

 想像すると、徐々に顔が赤くなっていく。


「そんなに赤くなって、お熱いでござるなぁ・・・。」

「違うってば、もう!大体、クロトさんには恋人さんが・・・。」


 先日会ったばかりの三人の女性を思い浮かべるリンカ。

 三人とも、纏う雰囲気は違えど、とても綺麗で魅力的な人だった。

 リンカは、クロトに相応しい人だと思った。


 ナツメは、そんなリンカの様子を、ニヤニヤしながら見ていたのだった。










 そして、時刻は夜。

 リンカは指定された場所に来ていた・・・のだが。


「あれ?通行止め?場所はこの先で間違ってないはずだけど・・・。」


 不安になってくるリンカ。

 そこへ、声が掛けられた。


「リンカ、こっちだよ。」

「えっ、クロトさん。でも、通行止めが・・・。」


 突然現れたクロトに手を引かれ、通行止めの先へ。


「大丈夫。通行止めの指示を出したのは僕だから。僕が認めれば問題ないよ。」

「ええ・・・?」


 いよいよ訳の分からなくなってきたリンカ。

 だが、男の人に手を引かれるのも悪くないな、という風に思った。

 リンカは、自分の頬がほんのり赤くなっていることに気づいていないのだった。





 リンカが連れてこられたのは、丘から少し離れた場所。

 そこには、一人の女性が居た。


「クロト、どこへ行っていたんですの・・・って、確か、リンカ、でしたわね?」

「えっ?・・・あ、マリアさん。」


 リンカが見たのは、ソファーに座ってくつろぐ、マリアの姿だった。

 近くのテーブルには、食べ物や飲み物が、結構な量、置いてある。


「こんばんは、マリアさん。こんなところで何をなさってるのですか?」

「・・・クロト、説明せずに連れて来たんですの?」

「そうだよ。驚きがあった方が良いと思ってね。」


 本当はアクアたちも特等席に連れて来たかった。

 だが、アクアを連れてきたら、色々と感知されてしまいそうなので却下した。


「わたくしは、その驚きを味わえないんですのね・・・。」

「それは申し訳なく思うけど、何を作ってるのか知らせないのもね・・・?」

「まあ、そうですわね・・・。」

「それも含めて、今度埋め合わせはするから。」

「・・・期待しておきますわ。」


 マリアは、嬉しそうな表情を団扇で隠しながら、呟いた。


「・・・あの、結局どういうことなんでしょうか?」


 リンカが二人に尋ねる。

 まだ何も答えてもらっていないのだ。


「もう少し待てば分かるわ。」


 マリアはそう言って、タコ焼きを食べ始めた。

 
「マリア、食べ過ぎは太るよ?」

「もっとデリカシーを持ってくださいましっ!?」


 リンカは諦めて、大人しく待つことにした。







 そして、雑談しながら待つこと二十分ほど。


「・・・そろそろだね。」

「そうですわね。」

「・・・?」


 王都の住人にも、既に内容が伝えられているだろう。

 
 そして・・・・・・











 空に大輪の花が咲いた。






「あ・・・花火。」


 色とりどりの花火が、次々と夜空に咲いていく。


「綺麗・・・!」

「綺麗ですわ・・・。」


 リンカとマリアは、花火を見て感動しているようだ。

 火結晶やら何やらは使ったが、中々に良い出来栄えだと思うクロト。


 やがて、花火は終わった。


「あ・・・終わっちゃった。」


 少し寂しそうに、リンカが言葉を零した。


「リンカ、特等席で見る花火はどうだった?」

「とっても綺麗でした・・・!!」


 特等席で見る花火は、他のどこで見るよりも、美しい。


 郷愁にとらわれたのか、泣きそうな目をしている。


 リンカにだって、家族が居ただろう。


 彼女は、良くも悪くも、普通の感性を持っている。

 だというのに、そんな愚痴は一言も漏らさない。

 まるで、何かに怯えるかのように、仕事に夢中になり、休もうとすらしない。

 
 それを疑問に思ったクロトは、とある推測を立てた。

 
「リンカ、君はもう、一人前だ。もう二度と、あの頃の様にはならない。」

「っ!?でも!もしかしたら、またあんな馬鹿みたいな自分に・・・!」


 リンカは、この世界に来たばかりの頃、妄想に取りつかれていた。

 異世界に来た自分は、何でもできる。

 そんな妄想に。


 厳しい現実に直面して、自分を見つめ直して、正常に戻った。


 だがリンカは、絶えず不安に襲われていた。

 少しでも手を抜いたら、またあの頃の自分に戻ってしまうのではないか、と。


 クロトが最初に王都へ誘った時のこと。

 休みを取る事を大いに躊躇っていたのは、それが原因だ。


 しかし、そんな弱みを人に見せようとは思わないだろう。

 そこで、花火の力を借りた。


 懐かしい日本の風物詩を見せることで、感情を揺れやすくさせる。

 強引ではあるが、この手の方法を使わねば、認めないだろう。


「大丈夫。そうはならないし、万が一そうなっても、僕が居る。」

「っ!?」

「僕や、ナツメが、引き戻す。だから、もう少し肩の力を抜いてもいいんだ。」

「あああああ・・・!」


 リンカは限界が来たのか、今まで封じ込めて来た感情を爆発させた。


 両親や友達に会いたい。

 親不孝者の自分を謝りたい。

 喧嘩したままの親友に謝りたい。

 世の中をなめていた自分を謝りたい。

 
 クロトに縋り、こぶしを打ち付け、泣きながら、大声で叫んだ。

 周囲には誰も居ないので、クロトは思う存分叫ばせる。

 
 クロトは、静かになった後も、リンカの頭を撫で続けるのだった。












「わたくしのことは忘れられてますのね・・・。」


 マリアは、そんな二人を静かに見守っていたのだった。



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