異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

マリアとデート

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「そんな訳で、マリアも楽しそうでよかった。」

「どんな訳でそんな感想を持ったんですの!」


 クレープ(?)を片手に、説明を求めるマリア。


「・・・楽しく無かったかな?」

「っ・・・。」


 クロトは少しだけ悲しそうな顔を見せる。

 マリアからすれば、反則級の効果があると思える。


「・・・・・・楽しいですわよ、とても。」


 マリアは、やむなく本音を漏らした。


「そっか。それは良かった。」

「・・・意図的、では無さそうですわね。」


 一瞬で表情が戻ったクロトにジト目を向け、クレープを齧りながらそう考える。

 
 そんな中、クロトがあることに気づいた。


「あ、口元に付いてるよ。・・・ほら。」

「なっ、あっ・・・!?」


 クリームを拭う際、クロトに唇に触れられ、動揺を隠せないマリア。

 心臓の音がうるさくて、クロトに聞こえてしまわないかと不安になった。

 
「さて、そろそろ次へ行こうか?」

「っ・・・そうですわね。」


 そんな心情には、お構いなしのクロト。

 マリアは咄嗟に肯定の意を返した。



 このままクロトと一緒に過ごしたい、という自分の感情に、気づかないままに。




「この焼きそばという食べ物、美味しいですわね?」

「そうだね。僕の提案商品だから、そう言ってくれると嬉しいよ。」

「さっきもそんな話を聞きましたわ。どれだけ商品を提案したんですの・・・?」

「それは・・・っと、ごめん、少し用事が出来たみたい。今日はこれで。」

「えっ・・・。」


 何かに気づいた様子を見せたかと思うと、そう言い残して立ち去ったクロト。

 あっという間の出来事だった。


「・・・・・・なん、ですの、それは。」


 身勝手な感情だと理解しつつも、マリアの心中は、不満でいっぱいだった。


 初デートは、少し短いくらいが丁度いいという話がある。

 今回、クロトが短めでデートを切り上げたのは、良かったのか悪かったのか。


 それは誰にも分からない。








 一方、クロトが何に気づいたのかというと・・・。


「おうこら!?随分と繁盛してゲハッ!?」

「あ、クロト。」


 クロトの店に敵性反応が近づいているのを感知したのだ。

 クロトはローナたちの無事を確認した後、気絶した男を連行したのだった。



「今度、マリアに埋め合わせをしないとね・・・。」



 その後、クロトは不機嫌になり、石を投げた。





 その日の王都で。

 良からぬことを企む者には石が飛んでくるという噂が流れた。


 衛兵のデントは、

「ああ、あの人だな・・・。」

 と、思ったとか。



 クロトには何の関係もない話であろう、多分。











 王都特別感謝祭一日目は、大盛況のまま幕を閉じた。




 そして、王都が驚きに包まれる、二日目が始まった。




 二日目のメインイベントは、夜に行われるとしか知られていない。

 一般の人々には、直前に伝えられるそうだ。

 クロトも、その方が良いだろうと判断した。







「リンカ、昨日はどうだった?」

「とても楽しかったです。焼きそばとかクレープとかありましたが・・・?」

「僕が提案したものだね。」

「やっぱりそうでしたか・・・。ナツメも気に入っていました。」


 クロトは、リンカが楽しめたことを確認して、胸を撫でおろした。

 そして、本題に入る。


「もしよければ、今日の夜、この場所に来てもらえないかな?」


 クロトは、とある場所を指し示して、そう告げた。


「それは構いませんが・・・?」

「きっと良いものが見れるから、楽しみにしていて?」

「・・・はい!」


 そしてリンカは、ナツメと共に去って行った。

 今日は護衛を頼んだわけではないが、友人として、一緒に出掛けるそうだ。

 王都は広く、まだまだ回り切れてはいないのだろう。


 リンカとナツメを見送ったクロトは、準備に入るのだった。







「やっぱり手伝わされるんですのね・・・。」

「他に頼める人も居ないからね。」


 マリアは、クロトの手伝いに駆り出されることが多い。

 
「まあ、マリアは無職だし。」

「それは言わないで欲しいですわ!」


 クロトの言う通り、マリアは無職である。

 冒険者としても登録していない。

 ゆえに、クロトがマリアを手伝いとして雇い、報酬を支払っている。

 
「それじゃあ、準備を始めようか。」

「了解だよ。」

「分かりましたわ・・・。」


 採掘師兼店員のローナと、無職のマリアの仕事が始まったのであった。



「無職、無職・・・。嫌な響きですわ・・・。」


 マリアは暫くの間、そう呟いていたそうだ。


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