妖符師少女の封印絵巻

リュース

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三章 水の怪異編

90 力の使い方指導

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 安倍君の問いは、私が何を知っているのか、です。
 随分と抽象的な聞き方なのは、事情を察するにおかしなことではありませんけど、こうなると答え方に窮してしまうものですね。

 それで答え方についてですが・・・この桜について答えておきましょうか。


「そうですね、この桜がことは御存じかと思いますが、それに加えてこの世ならざるモノの気配がします」

「・・・・・・。」


 植物も生きている、という意味での「生きている」ではありませんよ?
 人間と多少の際はあれど、れっきとした生命体ということです。

 凪沙さんの非生命体という表現から閃いて調べてみたところ、それが分かりました。


「それでいて、大変不思議なことに生命力に溢れています。現世うつしよとあの世のちょうど狭間にある存在であるが故でしょうかね?」

「・・・・・・。」


 安倍君は無言で聞いていますが、こちらの言葉に耳を傾けているのが分かります。
 私の言葉の続きを酷く気にしているようですね。

 彼が一番暴かれたくないのは、恐らくそちら側の秘密でしょうから。
 気にするのも当然です。

 私は一拍間をおいて、核心となる部分を告げます。


「この桜を見ていると、まるで・・・安倍君を見ているような気分になります」

「っ!?」

「何故あなたがこの町に来たのかは分かりませんが、私と貴方の進む道がぶつからないことを祈っております」

「っ、待てっ! それはどういう意味だっ!」


 質問に答え終わって立ち去ろうとしていた私を、安倍君が追いかけてきました。
 この反応は予想していたので、慌てずに立ち止まって振り返り、対応します。


「ふふふっ・・・ようやく安倍君の方からこちらにきてくださいましたね?」

「っ? ・・・何故そんなに嬉しそうなんだ」


 それは嬉しいですよ。
 中々振り向いてくれなかった人を振り向かせることができたのですから。
 これでようやく、一歩前進ですね。


「安倍君が私に興味を持ってくださったので、作戦成功を喜んでいるのですよ」

「・・・はぁ。趣味の悪い奴だな」

「酷いです。私だって色々と苦心して、その結果なのですよ?」


 ちょっとだけ悲しくなってきましたので、軽く膨れておきましょうかね。
 安倍君に悪意はなさそうですが、不機嫌アピールです。


「・・・悪気はなかった。許せ」

「はい、許しました。ですので、私とお友達になってください」

「・・・分かった。友達になればいいのだろう? だがその代わり、影山のことを教えてくれ。どうして俺のことが分かったのか、とかな」


 おや、私に興味津々のご様子で。
 予想よりはるかに上手くいきましたね。

 しかしそうなると、やはり安倍君はそういうタイプの特徴ですか。


「安倍君は、感知系は苦手なのですか?」

「・・・まあ、な」


 まだ自分のことを話すのに躊躇いがあるようですね。
 別に暴き立てるつもりはないのですが、それだと腹を割ったお話が出来ません。

 ・・・その辺りは、まだ時期尚早、といったところでしょうか。

 急いてはことを仕損じる、といいますし、慌てずにいきましょう。


「でしたら、少し失礼しますね」

「・・・・・・なっ」

「あ、動かないでください。上手く出来なくなりますから・・・!」

「っ、だが、この体勢はっ・・・!?」


 安倍君の額に私の額を押し当てたところ、抵抗されてしまいました。
 別に焦らずとも、おかしなことはしませんよ。
 ですから安心して静かにしていてください。

 ・・・分かっていたことですが、妖力の流れが大変奇妙ですね。
 妖怪のように自然な流れとは違いますし、<妖符師>とも異なります。
 私のような<妖符師>ですと、外側にある<妖符>との繋がりがありますからね。

 彼の場合、妖怪と妖力のある人間が合わさって、そこに<妖符師>の紛い物をブレンドしたような流れをしています。
 どうやら、昼の間はこの流れの存在自体が抑制されているようです。
 道理で私に抵抗できない程度に非力なのだと思いました。


「・・・・・・。」

「・・・おいっ、まだなのかっ・・・!?」

「もう少しですので我慢してください」


 本当は別のやり方があるのですが、これが一番簡単な上に効果が高いのです。
 ただでさえ分かり辛い仕組みをしているのですから、他のやり方はご勘弁を。
 非常に面倒ですので。

 どれどれ・・・感知の能力自体は並の妖怪レベルにはあるようですが、まるで使えていませんね。
 これらの基本性能は妖怪であれば本能的に分かるはずなのですが・・・。

 きっと、彼が持つ非常に稀有な特性が影響しているのでしょう。
 なにせ、半分は人間ですからね。

 いわゆる・・・半妖、というやつでしょうか。

 では、感知の能力回路を、私の妖力で少し刺激して・・・。


「安倍君、周囲を把握しようとしてみてください。勿論、五感以外で」

「っ・・・分かった」


 目を閉じたまま周辺把握を促すと、言われるがままに試してくれました。
 話が早いのは助かりますね。

 一分後、めでたく安倍君は妖力察知をできるようになりました。
 まあ、まだまだ粗は目立ちますし、未熟ではありますけどね。

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