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三章 水の怪異編
89 謎の図書委員と問答
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人が居なくなり静まり返った教室。
伊集院君からのお話は委員会についてでした。
ゴールデンウィーク明けに第二回の図書委員会があるそうで、それについてです。
それだけならば問題ないのですが、一つだけ気になるお話が。
「一人だけ連絡がつかない人が居て困っているんだけど、心当たりが無いかと思って相談を。同じクラスの図書委員に聞いても要領を得なくて・・・」
「要領を得ない、というと・・・?」
「何でも、顔を合わせては居るけど記憶にない、とか・・・」
それはまた、不思議な話ですね。
そんな嘘を吐く理由も思いつきませんし・・・。
「僕もその人のことをすっかり忘れていて、ついさっきふと思い出したくらいで。連絡を来週にするとまた忘れてしまいそうな気がして、今のうちに何とかしたいんだ」
「なるほど・・・記憶に残らない方なのですね。最初の委員会には?」
「来てなかった・・・と思う」
そうでしょうね。私も記憶にありませんから。
一年生は八クラスから二名ずつで十六名ですが、あの時居たのは十五人。
体調不良か何かでお休みかと思っていましたが、違ったのですかね?
確か欠員は・・・一組の方でしたか。
「それで、その方の所属とお名前は?」
「えっと・・・あれ、名前は何だったかな? ちょっと待ってね」
伊集院君は慌ててファイルから名簿を取り出して確認しました。
ただ忘れっぽい、というわけではなさそうで・・・。
これはいよいよ妙な話ですね。
今の時期に面倒ごとはあまり嬉しくないのですが。
「―――あった。割と特徴的な名前なのに、どうして忘れてしまうんだろう・・・?」
「その方の名前はどこに書かれているのですか?」
「それは・・・って、近い近いっ!! 影山さんっ、顔が近いからっ・・・!!」
「はい? ・・・あ、これは失礼しました」
声に反応して横を向くと、
覗き込む体勢が悪かったですね。
不快な思いをさせてしまったようなので反省が必要です。
・・・顔が赤いのは熱でもあるのですか?
「っ、影山さん、首を傾げてるけど、わざとじゃないんだよね・・・?」
「・・・? よく分かりませんが、違うと思いますよ?」
こういう時に適当に頷いてしまうと良くないということですので、ちゃんと否定。
私はノーと言える日本人なのです。
それで、最後の図書委員さんのお名前は・・・・・・おや?
「一年一組、安倍晴幸君・・・?」
心当たり、あります。
というより、数少ないお友達の一人・・・いえ、それは断られたのでしたか。
そういえば、あれから会いにきてくれませんね?
そんなに私の友達が嫌なのかと思うと悲しくなってきます。
彼なら、きっとあそこに居るでしょうね。
「この方とは知人ですので、私がお話しに行ってみましょう」
「えっ、そうだったの・・・? それじゃあ・・・お願いするね?」
「はい、お任せください。では、また来週です、伊集院君」
「あ、うん。また来週、影山さん」
そういう訳で、裏庭の桜の木へ向かいましょう。
次は会いにくるよう言い残していましたが、これは不可抗力です。
だって、連絡事項なのですから。
そのついでに色々お話してもいいでしょう、ええ。
〇〇〇
「安倍君、委員会をサボるのはあまりよくありませんよ?」
「・・・面倒だ」
案の定、裏庭の桜の木の上で寝ていた安倍君。
来週の委員会について伝えたのですが、どうにも来てもらえそうにありません。
まあ、無理強いは出来ませんので強くは言わないのですが。
「まあ、それについては別に構いません」
「・・・構わないのか」
「はい、構いません。それが安倍君の選択であるなら・・・口を出すのもおこがましいですからね」
ですから、それについてはいいのです。
今回私が言いたいこと、即ち本題は別にあります。
「それより、ですね・・・会いにきて頂けないということは、そんなにお友達が嫌なのでしょうか?」
「・・・会いに行く理由が無いからだ」
肩まで伸びた黒髪を鬱陶しそうにかき分けながら、これまた鬱陶しそうに返事をされてしまいました。
相変わらず表情の動かない方ですね・・・。
どうにも癪ですので、少しつついてみましょう。
「ところで、今日もこの桜は元気ですね? そのおかげなのかどうか、安倍君もお元気なようで・・・」
「っ・・・」
眉がピクリと動きましたね。
息を呑む音も聞こえましたので、動揺しているようです。
前から思っていましたが、無感情なのではなく表に出していないだけのようで。
それが意図的なのかどうかは分かりませんが。
「・・・お前は、何者だ?」
「私には影山若葉という名前がありますので、そちらで呼んでください」
お前、という呼ばれ方はあまり好きではありませんから。
それに、両親からもらった名字と名前、私はどちらも大好きですので。
つまり、ちゃんと呼んでくれなければ質問には答えない、という意思表示です。
「・・・・・・・・・影山は、何を知っている?」
しばし苦虫を噛みつぶしたような顔で逡巡していましたが、名字で呼ぶことに決めてくれたようです。これは一歩前進ですね。
さて、どのように答えましょうかね・・・?
伊集院君からのお話は委員会についてでした。
ゴールデンウィーク明けに第二回の図書委員会があるそうで、それについてです。
それだけならば問題ないのですが、一つだけ気になるお話が。
「一人だけ連絡がつかない人が居て困っているんだけど、心当たりが無いかと思って相談を。同じクラスの図書委員に聞いても要領を得なくて・・・」
「要領を得ない、というと・・・?」
「何でも、顔を合わせては居るけど記憶にない、とか・・・」
それはまた、不思議な話ですね。
そんな嘘を吐く理由も思いつきませんし・・・。
「僕もその人のことをすっかり忘れていて、ついさっきふと思い出したくらいで。連絡を来週にするとまた忘れてしまいそうな気がして、今のうちに何とかしたいんだ」
「なるほど・・・記憶に残らない方なのですね。最初の委員会には?」
「来てなかった・・・と思う」
そうでしょうね。私も記憶にありませんから。
一年生は八クラスから二名ずつで十六名ですが、あの時居たのは十五人。
体調不良か何かでお休みかと思っていましたが、違ったのですかね?
確か欠員は・・・一組の方でしたか。
「それで、その方の所属とお名前は?」
「えっと・・・あれ、名前は何だったかな? ちょっと待ってね」
伊集院君は慌ててファイルから名簿を取り出して確認しました。
ただ忘れっぽい、というわけではなさそうで・・・。
これはいよいよ妙な話ですね。
今の時期に面倒ごとはあまり嬉しくないのですが。
「―――あった。割と特徴的な名前なのに、どうして忘れてしまうんだろう・・・?」
「その方の名前はどこに書かれているのですか?」
「それは・・・って、近い近いっ!! 影山さんっ、顔が近いからっ・・・!!」
「はい? ・・・あ、これは失礼しました」
声に反応して横を向くと、
覗き込む体勢が悪かったですね。
不快な思いをさせてしまったようなので反省が必要です。
・・・顔が赤いのは熱でもあるのですか?
「っ、影山さん、首を傾げてるけど、わざとじゃないんだよね・・・?」
「・・・? よく分かりませんが、違うと思いますよ?」
こういう時に適当に頷いてしまうと良くないということですので、ちゃんと否定。
私はノーと言える日本人なのです。
それで、最後の図書委員さんのお名前は・・・・・・おや?
「一年一組、安倍晴幸君・・・?」
心当たり、あります。
というより、数少ないお友達の一人・・・いえ、それは断られたのでしたか。
そういえば、あれから会いにきてくれませんね?
そんなに私の友達が嫌なのかと思うと悲しくなってきます。
彼なら、きっとあそこに居るでしょうね。
「この方とは知人ですので、私がお話しに行ってみましょう」
「えっ、そうだったの・・・? それじゃあ・・・お願いするね?」
「はい、お任せください。では、また来週です、伊集院君」
「あ、うん。また来週、影山さん」
そういう訳で、裏庭の桜の木へ向かいましょう。
次は会いにくるよう言い残していましたが、これは不可抗力です。
だって、連絡事項なのですから。
そのついでに色々お話してもいいでしょう、ええ。
〇〇〇
「安倍君、委員会をサボるのはあまりよくありませんよ?」
「・・・面倒だ」
案の定、裏庭の桜の木の上で寝ていた安倍君。
来週の委員会について伝えたのですが、どうにも来てもらえそうにありません。
まあ、無理強いは出来ませんので強くは言わないのですが。
「まあ、それについては別に構いません」
「・・・構わないのか」
「はい、構いません。それが安倍君の選択であるなら・・・口を出すのもおこがましいですからね」
ですから、それについてはいいのです。
今回私が言いたいこと、即ち本題は別にあります。
「それより、ですね・・・会いにきて頂けないということは、そんなにお友達が嫌なのでしょうか?」
「・・・会いに行く理由が無いからだ」
肩まで伸びた黒髪を鬱陶しそうにかき分けながら、これまた鬱陶しそうに返事をされてしまいました。
相変わらず表情の動かない方ですね・・・。
どうにも癪ですので、少しつついてみましょう。
「ところで、今日もこの桜は元気ですね? そのおかげなのかどうか、安倍君もお元気なようで・・・」
「っ・・・」
眉がピクリと動きましたね。
息を呑む音も聞こえましたので、動揺しているようです。
前から思っていましたが、無感情なのではなく表に出していないだけのようで。
それが意図的なのかどうかは分かりませんが。
「・・・お前は、何者だ?」
「私には影山若葉という名前がありますので、そちらで呼んでください」
お前、という呼ばれ方はあまり好きではありませんから。
それに、両親からもらった名字と名前、私はどちらも大好きですので。
つまり、ちゃんと呼んでくれなければ質問には答えない、という意思表示です。
「・・・・・・・・・影山は、何を知っている?」
しばし苦虫を噛みつぶしたような顔で逡巡していましたが、名字で呼ぶことに決めてくれたようです。これは一歩前進ですね。
さて、どのように答えましょうかね・・・?
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