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三章 水の怪異編
73 罪の重さと制裁
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桜台高校の職員室にて。
一人の女性教師が休日中だというのに、夜遅くまで職員室に残っていた。
学校側には無断で残っているので、明かりの類はつけていない。
「フフッ・・・!ちゃんと撮れているみたいね。いつも通りに流してやりましょう」
その教師は二年生の国語担当であり、そこそこ美人であった。
今宵は、平日に用いられた隠し撮り用のカメラを回収にきたのである。
女教師が確認した映像には、一年の担任である笹川美紀の姿が映っていた。
「全部あの女が悪いのよ。私を差し置いてあんな人気者になるなんて・・・っ!」
国語教師は見てくれはいいので、これまではそれなりに人気があった。
そのことをごく当たり前のことと考え、表には出さないまでも自然と傲慢に受け止めていた。
しかし、笹川美紀という可愛らしい容姿をした教師に人気を奪われつつある。
笹川美紀はその容姿や表裏の無い性格から生徒たちに愛されており、また、生徒たちの悩みにも親身になって相談するので、人気が出て当然だ。
揶揄われて赤くなる様子もまた、多くのファンを生んでいる。
もっとも、本人は人気があることになど全く気づいていない。
そして、そのことを知らせずに温かく見守ることが暗黙の了解となっている。
性格が善良で可愛らしい笹川美紀。
性格が悪く傲慢な国語教師。
前者の方に人気が傾くのも当然である。
つまりは、どう考えても自己責任なのに、国語教師は逆恨みをしている状態だ。
そんな彼女がとった行動が、笹川美紀の情報を流出させるという行為である。
「今頃は話しに聞いているストーカーとやらがあの女を弄んでいる頃かしらね?危険を冒してまであの女の住所を盗み出したのだから、精々再起不能にしてほしいところね。分不相応な立場になるから悪いのよ。私は悪くないわ」
国語教師は醜悪な笑みを浮かべながら、笹川美紀が置かれている状況を妄想して笑い声をあげた。
それは決してただの妄想ではなく、場合によっては起こりえた未来だ。
もっとも、そのストーカーは既に警察の御用となっているのだが。
「さーて、この映像は幾らで売れるかしらね?」
「十万円は固いと思いますよ?」
「お金が入るのはいいけど、何故あの女の勤務映像にそんな高値がつくのよっ!」
「先生は大変可愛らしいですから。私だったら十万円くらい出しますとも」
どうやら、買い手は間違いなく存在するようだ。
年若き女性の盗撮映像を欲しがるなど、なんという不逞の輩なのか。
仲間の女性は、一体どんな人間なのやら。
「まあいいわ。どうせあの女はもう・・・・・・えっ?」
「・・・おや?」
国語教師は思い出した。
自分には仲間と呼べる存在など居ないことに。
そして、何故か仲間という認識で話しを進めていた自分に驚愕しつつ、慌てて自分が座る席の横を見た。
・・・隣の椅子には、映像を覗き込む体勢となっている、黒いロングコートを身に纏い、狐の仮面をした女性が居た。
そう、それは何を隠そう、鳥居町に店を構える何でも屋『あやかし屋』の店主。
影山若葉その人であった。
「・・・・・・なっ、いつからそこに居たのっ!?」
「貴方がその映像を見始めた時からですよ? ・・・桜台高校二年四組担任、国語教師の香山さん?」
「っ!?」
正体不明で得体のしれない存在に、己の素性を知られている。その事実に驚愕して口をパクパクさせる香山。
一方の若葉は、何一つ動揺することなくその場から動かない。
直接の面識はないため、声色だけは変えて、あとは普段通りに話し方である。
否、いつの間にか若葉は動いていた。
香山が呆然としている間に、目にも止まらぬ速さでビデオカメラを回収した。
そして、そのまま肩に掛けていた鞄の中に収納された。
「っ、それを返しなさいっ!!」
「お断りします。こんなものを世に出させる訳にはいきませんので」
「あなた、この私に逆らうなんて、何様のつもりなの!?」
「怪盗『狐仮面フォーナ』様です」
「意味が分からない!!」
話が噛み合わないことが分かり、香山は実力行使に出る。
若葉から強引に鞄を取り上げようとしたのだ。
しかし、当然の如く上手くいかない。
若葉の身体能力は人間をやめているレベルなのだから。
彼女は軽く受け流して、香山を転ばせた。
「さて、この証拠を警察に突き出すとしましょう。では、さらばです」
「っ・・・させないっ!!」
このままでは自分は破滅だと考え、手近にあった花瓶を手に取り、背を向けていた若葉の頭を殴打しようとした。
若葉はそんな香山を、後ろに目があるかのように回避し、再度転ばせた。
「はい、これで殺人未遂の証拠はバッチリですね。ここに私の仕掛けたカメラがありますから、今の様子をバッチリ撮影できています」
「なっ・・・!?」
事前に植え込みへ隠してあった隠しカメラを取り出し、そう宣言した若葉。
香山は自分が嵌められたのだと理解した。
若葉は、カメラの映像だけでなく、明確な犯罪の証拠をつくったのである。
もっとも、ここまで上手くいくとは彼女も予想外だったのだが。
なお、隠し撮りについての情報は黒鹿組から入手していた。
香山は、もはや自分に道は無いことを悟って顔を青ざめさせたが、若葉はその手を緩めない。一歩間違えば笹川美紀に悲劇が起きていたのだから。
「この映像・・・ネットに流したらどうなるでしょう?」
「なっ・・・やめてっ!!そんなことしたらっ・・・!!」
警察に捕まるだけではなく、出所後も自分に未来など無いと分かってしまった。
一度世に出た映像は、根絶するなど不可能に近いのだから。
彼女はそれが分かっていて映像を流そうとしていたので、直ぐに気づけたのだ。
「これに懲りたら、少しは自分の行いを顧みることです。今回は警察に突き出すだけにしておきますが・・・次は、ありませんからね?」
若葉のその慈悲に安堵した香山は、その場で気絶した。
香山が警察の御用となったのは、この後すぐの話。
一人の女性教師が休日中だというのに、夜遅くまで職員室に残っていた。
学校側には無断で残っているので、明かりの類はつけていない。
「フフッ・・・!ちゃんと撮れているみたいね。いつも通りに流してやりましょう」
その教師は二年生の国語担当であり、そこそこ美人であった。
今宵は、平日に用いられた隠し撮り用のカメラを回収にきたのである。
女教師が確認した映像には、一年の担任である笹川美紀の姿が映っていた。
「全部あの女が悪いのよ。私を差し置いてあんな人気者になるなんて・・・っ!」
国語教師は見てくれはいいので、これまではそれなりに人気があった。
そのことをごく当たり前のことと考え、表には出さないまでも自然と傲慢に受け止めていた。
しかし、笹川美紀という可愛らしい容姿をした教師に人気を奪われつつある。
笹川美紀はその容姿や表裏の無い性格から生徒たちに愛されており、また、生徒たちの悩みにも親身になって相談するので、人気が出て当然だ。
揶揄われて赤くなる様子もまた、多くのファンを生んでいる。
もっとも、本人は人気があることになど全く気づいていない。
そして、そのことを知らせずに温かく見守ることが暗黙の了解となっている。
性格が善良で可愛らしい笹川美紀。
性格が悪く傲慢な国語教師。
前者の方に人気が傾くのも当然である。
つまりは、どう考えても自己責任なのに、国語教師は逆恨みをしている状態だ。
そんな彼女がとった行動が、笹川美紀の情報を流出させるという行為である。
「今頃は話しに聞いているストーカーとやらがあの女を弄んでいる頃かしらね?危険を冒してまであの女の住所を盗み出したのだから、精々再起不能にしてほしいところね。分不相応な立場になるから悪いのよ。私は悪くないわ」
国語教師は醜悪な笑みを浮かべながら、笹川美紀が置かれている状況を妄想して笑い声をあげた。
それは決してただの妄想ではなく、場合によっては起こりえた未来だ。
もっとも、そのストーカーは既に警察の御用となっているのだが。
「さーて、この映像は幾らで売れるかしらね?」
「十万円は固いと思いますよ?」
「お金が入るのはいいけど、何故あの女の勤務映像にそんな高値がつくのよっ!」
「先生は大変可愛らしいですから。私だったら十万円くらい出しますとも」
どうやら、買い手は間違いなく存在するようだ。
年若き女性の盗撮映像を欲しがるなど、なんという不逞の輩なのか。
仲間の女性は、一体どんな人間なのやら。
「まあいいわ。どうせあの女はもう・・・・・・えっ?」
「・・・おや?」
国語教師は思い出した。
自分には仲間と呼べる存在など居ないことに。
そして、何故か仲間という認識で話しを進めていた自分に驚愕しつつ、慌てて自分が座る席の横を見た。
・・・隣の椅子には、映像を覗き込む体勢となっている、黒いロングコートを身に纏い、狐の仮面をした女性が居た。
そう、それは何を隠そう、鳥居町に店を構える何でも屋『あやかし屋』の店主。
影山若葉その人であった。
「・・・・・・なっ、いつからそこに居たのっ!?」
「貴方がその映像を見始めた時からですよ? ・・・桜台高校二年四組担任、国語教師の香山さん?」
「っ!?」
正体不明で得体のしれない存在に、己の素性を知られている。その事実に驚愕して口をパクパクさせる香山。
一方の若葉は、何一つ動揺することなくその場から動かない。
直接の面識はないため、声色だけは変えて、あとは普段通りに話し方である。
否、いつの間にか若葉は動いていた。
香山が呆然としている間に、目にも止まらぬ速さでビデオカメラを回収した。
そして、そのまま肩に掛けていた鞄の中に収納された。
「っ、それを返しなさいっ!!」
「お断りします。こんなものを世に出させる訳にはいきませんので」
「あなた、この私に逆らうなんて、何様のつもりなの!?」
「怪盗『狐仮面フォーナ』様です」
「意味が分からない!!」
話が噛み合わないことが分かり、香山は実力行使に出る。
若葉から強引に鞄を取り上げようとしたのだ。
しかし、当然の如く上手くいかない。
若葉の身体能力は人間をやめているレベルなのだから。
彼女は軽く受け流して、香山を転ばせた。
「さて、この証拠を警察に突き出すとしましょう。では、さらばです」
「っ・・・させないっ!!」
このままでは自分は破滅だと考え、手近にあった花瓶を手に取り、背を向けていた若葉の頭を殴打しようとした。
若葉はそんな香山を、後ろに目があるかのように回避し、再度転ばせた。
「はい、これで殺人未遂の証拠はバッチリですね。ここに私の仕掛けたカメラがありますから、今の様子をバッチリ撮影できています」
「なっ・・・!?」
事前に植え込みへ隠してあった隠しカメラを取り出し、そう宣言した若葉。
香山は自分が嵌められたのだと理解した。
若葉は、カメラの映像だけでなく、明確な犯罪の証拠をつくったのである。
もっとも、ここまで上手くいくとは彼女も予想外だったのだが。
なお、隠し撮りについての情報は黒鹿組から入手していた。
香山は、もはや自分に道は無いことを悟って顔を青ざめさせたが、若葉はその手を緩めない。一歩間違えば笹川美紀に悲劇が起きていたのだから。
「この映像・・・ネットに流したらどうなるでしょう?」
「なっ・・・やめてっ!!そんなことしたらっ・・・!!」
警察に捕まるだけではなく、出所後も自分に未来など無いと分かってしまった。
一度世に出た映像は、根絶するなど不可能に近いのだから。
彼女はそれが分かっていて映像を流そうとしていたので、直ぐに気づけたのだ。
「これに懲りたら、少しは自分の行いを顧みることです。今回は警察に突き出すだけにしておきますが・・・次は、ありませんからね?」
若葉のその慈悲に安堵した香山は、その場で気絶した。
香山が警察の御用となったのは、この後すぐの話。
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