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三章 水の怪異編
52 プロローグ2
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ここは鳥居町から離れた場所にある、とある場所。
古都と呼ばれることも多い町の一角である。
「なあ、<鎌鼬>の奴が帰ってこねぇんだけど?」
「アイツの放浪癖は今に始まったことではないでしょう?放っておけばそのうち帰ってくるわよ」
軽薄そうな男と美人の女が、仲間の一人である、<鎌鼬>について話していた。
どうやら<鎌鼬>には放浪癖があるようで、その場に居た十数人の内、大多数は些事と思っているようだ。
だが、その中の一人が、あることに気づいて口を開く。
「・・・<鎌鼬>の妖力が、どこにも見当たらない」
「・・・それは誠か?」
「・・・はい。探してみましたが、どこにも反応がありません」
角を生やした男の問いに探知を行った女が、持っていた何も映っていない巻物を見せながら敬語で返答した。
角のある男は一段格上にあたるようだ。
「<文車妖妃>がそう言うのであれば間違いないか・・・<風神>もやってみよ」
「ういっす・・・・・・・・・・・・この国には居ないと思うっす」
「・・・ならば、死んだか」
男の言葉に、周囲にただならぬ空気が流れた。
「お言葉ですが<牛鬼>様、あの者はいけ好かない奴でしたが、実力は確かです。そう簡単に死ぬとは思えません」
「だが、それが事実だ。受け止めよ、<雪女>よ」
「・・・はっ。差し出がましいことを申しました」
雪女と呼ばれた女が、頭を下げて引き下がった。
「しかし、<鎌鼬>の奴、陰陽師か流れの妖怪にでも狩られたんでしょうかね?」
「分からん。だが、調査の必要性はあろう。封印の破壊があるゆえに人員はあまり割けんが・・・最後の報告にて、奴はどこにいた?」
「あやつの報告はいつも適当だから当てにならんぞい?」
「それでも、だ。手掛かりくらいにはなろう」
妖怪<牛鬼>と同格と思しき老人の妖怪がそう告げたが、それは<牛鬼>も分かっていることのようだ。
「確か・・・焼鳥町といったかのう? いや、鳥籠町じゃったか?」
「しっかりしてくださいませ<天狗>様。最近物忘れが酷いですよ?」
「ははは、すまんのう。大事でないことは直ぐに忘れてしまっての・・・」
妖怪<雪女>が呆れたように窘めるが、<天狗>は柳に風だ。
「じゃが、ここより東の方なのは間違いないぞい」
「それってこの国、日本の半分くらいではないですか・・・。こんな時にあの者が居ればすぐに分かるというのに・・・」
「あの者も含め、大多数の妖怪は方々へ散っている。無いものねだりだ」
妖怪<牛鬼>は少し考えた後で、こんな結論を出した。
「・・・<河童>よ。汝は東の地理に詳しかったな。丁度手も空いていることであるし、調査に出よ」
「はっ。かしこまりました。供の者を一人連れて行ってもよろしいでしょうか?」
「手の空いている者を一人なら構わん。では、行け」
「ははっ!」
妖怪<河童>は<牛鬼>の命令を受け、その場から姿を消した。
「・・・ところで<牛鬼>様。各地にある小封印と大封印の破壊について、進捗はどうなのでしょうか?」
「小封印の方は幾つか解かれている。もっとも、封じられていた妖怪が必ずしも我々の味方になるとは限らぬが。その場合は放置している」
「大封印の方は?」
「大封印の破壊は芳しくない。一番緩んでいた一つは破壊できたが、破壊した者は消滅。封じられていた妖怪がどこへ消えたのかも不明だ」
「先は長いですね・・・ただでさえ<陰陽師>の邪魔が鬱陶しいというのに」
妖怪<雪女>は肩を落としてため息を吐くことしかできなかった。
その色気のある仕草は、人間の男であれば瞬く間に虜になっていただろう。
かくいう妖たちにも魅力的に映っているのだから。
「奴らに消された妖怪は、もはや数え切れぬ。私や<天狗>のような幹部格が出向けば対抗可能だが、正面から当たるのも得策ではない。今は・・・我慢の時だ」
△△△
私、影山若葉は、一週間ぶりに登校しました。
いつものように店を閉めての登校ですが、近日中にはそれをしなくてよくなるかもしれません。
昨夜訪れたお客さんが関係してくるのですが・・・。
そのことを考えると、自然と気分が浮かれてしまいます。
なにせ、営業時間が大幅に伸びるかもしれないのですから・・・!
そう、新しい店員さんの確保ができそうなのです・・・!
これで浮かれるなという方が無理です・・・!
「お姉さ・・・若葉さん、忘れものです! 扇を忘れていますっ・・・!」
「・・・あ。ありがとうございます・・・咲良さん」
店から追いかけてきた少女、東雲咲良さんに、扇を手渡されました。
どうやら、私は浮かれ過ぎていたようです。これはいけませんね。
はい。新しい店員さんとは、以前病院で盲目治療をした彼女。
すっかり元気になって退院した、東雲咲良さんなのです。
彼女・・・驚くことに、同い年だったのです。
古都と呼ばれることも多い町の一角である。
「なあ、<鎌鼬>の奴が帰ってこねぇんだけど?」
「アイツの放浪癖は今に始まったことではないでしょう?放っておけばそのうち帰ってくるわよ」
軽薄そうな男と美人の女が、仲間の一人である、<鎌鼬>について話していた。
どうやら<鎌鼬>には放浪癖があるようで、その場に居た十数人の内、大多数は些事と思っているようだ。
だが、その中の一人が、あることに気づいて口を開く。
「・・・<鎌鼬>の妖力が、どこにも見当たらない」
「・・・それは誠か?」
「・・・はい。探してみましたが、どこにも反応がありません」
角を生やした男の問いに探知を行った女が、持っていた何も映っていない巻物を見せながら敬語で返答した。
角のある男は一段格上にあたるようだ。
「<文車妖妃>がそう言うのであれば間違いないか・・・<風神>もやってみよ」
「ういっす・・・・・・・・・・・・この国には居ないと思うっす」
「・・・ならば、死んだか」
男の言葉に、周囲にただならぬ空気が流れた。
「お言葉ですが<牛鬼>様、あの者はいけ好かない奴でしたが、実力は確かです。そう簡単に死ぬとは思えません」
「だが、それが事実だ。受け止めよ、<雪女>よ」
「・・・はっ。差し出がましいことを申しました」
雪女と呼ばれた女が、頭を下げて引き下がった。
「しかし、<鎌鼬>の奴、陰陽師か流れの妖怪にでも狩られたんでしょうかね?」
「分からん。だが、調査の必要性はあろう。封印の破壊があるゆえに人員はあまり割けんが・・・最後の報告にて、奴はどこにいた?」
「あやつの報告はいつも適当だから当てにならんぞい?」
「それでも、だ。手掛かりくらいにはなろう」
妖怪<牛鬼>と同格と思しき老人の妖怪がそう告げたが、それは<牛鬼>も分かっていることのようだ。
「確か・・・焼鳥町といったかのう? いや、鳥籠町じゃったか?」
「しっかりしてくださいませ<天狗>様。最近物忘れが酷いですよ?」
「ははは、すまんのう。大事でないことは直ぐに忘れてしまっての・・・」
妖怪<雪女>が呆れたように窘めるが、<天狗>は柳に風だ。
「じゃが、ここより東の方なのは間違いないぞい」
「それってこの国、日本の半分くらいではないですか・・・。こんな時にあの者が居ればすぐに分かるというのに・・・」
「あの者も含め、大多数の妖怪は方々へ散っている。無いものねだりだ」
妖怪<牛鬼>は少し考えた後で、こんな結論を出した。
「・・・<河童>よ。汝は東の地理に詳しかったな。丁度手も空いていることであるし、調査に出よ」
「はっ。かしこまりました。供の者を一人連れて行ってもよろしいでしょうか?」
「手の空いている者を一人なら構わん。では、行け」
「ははっ!」
妖怪<河童>は<牛鬼>の命令を受け、その場から姿を消した。
「・・・ところで<牛鬼>様。各地にある小封印と大封印の破壊について、進捗はどうなのでしょうか?」
「小封印の方は幾つか解かれている。もっとも、封じられていた妖怪が必ずしも我々の味方になるとは限らぬが。その場合は放置している」
「大封印の方は?」
「大封印の破壊は芳しくない。一番緩んでいた一つは破壊できたが、破壊した者は消滅。封じられていた妖怪がどこへ消えたのかも不明だ」
「先は長いですね・・・ただでさえ<陰陽師>の邪魔が鬱陶しいというのに」
妖怪<雪女>は肩を落としてため息を吐くことしかできなかった。
その色気のある仕草は、人間の男であれば瞬く間に虜になっていただろう。
かくいう妖たちにも魅力的に映っているのだから。
「奴らに消された妖怪は、もはや数え切れぬ。私や<天狗>のような幹部格が出向けば対抗可能だが、正面から当たるのも得策ではない。今は・・・我慢の時だ」
△△△
私、影山若葉は、一週間ぶりに登校しました。
いつものように店を閉めての登校ですが、近日中にはそれをしなくてよくなるかもしれません。
昨夜訪れたお客さんが関係してくるのですが・・・。
そのことを考えると、自然と気分が浮かれてしまいます。
なにせ、営業時間が大幅に伸びるかもしれないのですから・・・!
そう、新しい店員さんの確保ができそうなのです・・・!
これで浮かれるなという方が無理です・・・!
「お姉さ・・・若葉さん、忘れものです! 扇を忘れていますっ・・・!」
「・・・あ。ありがとうございます・・・咲良さん」
店から追いかけてきた少女、東雲咲良さんに、扇を手渡されました。
どうやら、私は浮かれ過ぎていたようです。これはいけませんね。
はい。新しい店員さんとは、以前病院で盲目治療をした彼女。
すっかり元気になって退院した、東雲咲良さんなのです。
彼女・・・驚くことに、同い年だったのです。
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