妖符師少女の封印絵巻

リュース

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二章 高校入学編

27 制圧と友達

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 もう一人犯人の仲間が居ると思ったのは、先程の言葉が切っ掛けです。二人しか居ないのに「我々」というのは、些か違和感を覚えます。

 もっとも、絶対におかしいというわけでもないので、確定はできません。
 ですが、こういう時は仲間の一人が後ろから客に扮して見張っているという話を聞いたことがありますので、あり得なくはないでしょう。


「バスは適当に市内を走らせろ!」


 ジャックさん一号が運転手さんに指示を出しました。
 一体、どういった目的があるのでしょうか。


「ジャックさん、どうしてバスジャックなどという短慮な真似をしたのですか?」

「誰だそれは!?俺はそんな名前じゃねぇ!」

「そう言われましても、本名を聞く訳にもいきませんし・・・」

「ちっ、黙ってろ!」


 拳銃を突き付けられて黙らされました。
 バスの中から小さな悲鳴が上がっています。

 ・・・これで、少し絞り込めましたね。
 この状態でも反応の薄い人は怪しいです。

 もう少し揺さぶってみましょうか。


「ですが、どのみち目的は知られるのでしょうし、今話しても変わりませんよ?」

「っ、こいつ、減らず口をっ!ぶっ殺すぞ!?」


 今度は頭に拳銃を突き付けられました。

 しかし、殺されるのは困りますね。
 私にはあやかし屋の営業がありますし、高校生になることだって、少し楽しみにしていたのですから。
 中学のことは・・・あまり聞かないでほしいところですけど。

 ん・・・怪しい人は二人まで絞り込めましたね。
 決定打はありませんが、いざという時は両方を狙いましょう。

 あ、ポニーテールさんが口を押さえて涙目になっています。
 これは、人質を変わらせてしまったことに対する罪悪感の表れでしょうか。

 優しい人ですね。この件が片付いたら友達になりたいです。

 あ、もしかしたら、「もう喋らないで!」というジェスチャーかもしれません。
 だとしたらごめんなさい。もう少し喋りますから。


「あ、そういえばご存知でしたか?バスジャックが成功する確率は限りなくゼロに近いそうですよ?中々険しい道のようなので頑張ってくださいね?」

「てめぇっ!どうやら死にたいらしいなっ!!それとも人質だから殺されないとでも思ってんのか!?」

「そのようなことは思っていませんよ?必要ならば平気で殺しにくるでしょうし」

「だったら何で喋りやがるんだっ!頭イカれてやがんのかっ!?」


 酷い言いようですね。
 私の頭は正常だと思います。

 ですが、頭が狂っている人は自らが狂っているとは分からならしいです。
 つまり、本当のところは分かりません。
 肝が太いのは確かだと思いますけど。

 さて、一人に絞り込めましたね。
 一番後ろの席の真ん中に居る男性です。
 これで外していたら恥ずかしいですけど、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」という言葉もあります。このまま手をこまねいて、入学式に遅れるのは御免です。

 最悪、拳銃の弾くらいならなんとかなるでしょう。
 高位悪霊よりは遅いと書かれていましたから。
 霊というものは、その気になればとても速いんです。だって、重さなんて無いようなものですから。

 被弾した場合も、急所さえ外せば問題はありません。
 これで駄目なようなら、高位悪霊の一撃で爆散してますよ。

 そろそろいいですかね?
 ちょうど桜台高校が近くになりましたし。
 本来通らない道で来てしまいましたが、早い分には良いでしょう。


 そう考えた瞬間、アラームを設定していた私の携帯が大音量で鳴り始めました。
 爆発はしませんが、ジャックさんたちにとっては爆弾でしょうね。

 ちょっと上手いこと言ったかもしれません・・・!

 いえ、そうではなく。
 行動開始です。手早く片付けましょう。


「なっ!?携帯がっ・・・!?おい、早く止めろっ!」


 一号さんが二号さんに指示を出しました。
 二人の注意は完全に私から外れています。

 体を翻して一号さんの拳銃を奪い取り、腕を取り、足を掛け、転ばせます。
 ついでに頭を蹴りつけて気絶させておきましょう。

 ・・・力加減に失敗して変な音が鳴りましたが、まあいいでしょう。

 慌てて立ち上がった三号さんに扇(店売り五百円)を投擲して頭に直撃。
 こちらも変な音が鳴った気がしますが、それは気のせいです。

 最後に、こちらに向きなった二号さんに拳銃を突き付けて、制圧完了です。
 あ、二号さんの拳銃も奪っておきました。

 あとは、一人ずつ縄(店売り価格不定)で縛って、完全制圧。
 二号さんが少し暴れたので、こちらも気絶させました。

 なぜ縄などもっているかといいますと・・・両親の勧めです。
 何かと役に立つので携帯しておけ、と。
 二人の経験談らしいですが、どんな経験をしたのでしょうね。

 既に警察への連絡はしましたので、あとは待つだけです。




 その後、警察が駆けつけ、犯人たちを連行していきました。
 結局、何が目的なのかも話しませんでしたね。


「ね、ねえ、あなた!大丈夫だった?怪我とかしてない?私のせいで、ごめんっ!」


 ポニーテールさんがバスの外で話しかけてきました。
 どうやら、相当気にしているらしいですね。


「あなたが謝ることではありませんよ?私が望んでやったことですから」

「で、でもっ・・・私、名乗り出たあなたを庇わなかったから・・・!」

「逆に、あそこで庇われていたら、それはそれでややこしくなっていましたので・・・どうかお気になさらず。それに、見ず知らずの人の代わりになろうなんて、考えてはいけませんよ?」


 逆に、見ず知らずの人にそんなことをされたら、少し怖いですね。
 私は目的あってのことでしたから当てはまりませんけど。


「あ、でも、一つだけお願いしていいですか?」

「えっ、何?私にできることなら何だってやるよっ!?」


 それは頼もしいですね。
 ですが、無茶をさせるつもりはありませんし、そう難しいことは要求しません。


「では、私の友達になってくださいませんか・・・?」

「えっ・・・?
 う、うん。そんなことでいいなら、喜んで。私の方こそ、よろしくね・・・?」

「はい。よろしくお願いしますね?あ、私は影山若葉です」

「若葉、かぁ・・・。私は高梨凛。気軽に凛って呼んで!」


 凛さんですね。緊張しましたが、上手くいって何よりです。


「あっ、そういえば、若葉ってなにか格闘技とかやってる人なの?その・・・犯人を制圧する手際が凄く良かったけど・・・?」


 これは・・・申し訳ありませんが、正直に答えるわけにはいきませんね。
 適当に誤魔化しましょう。


「いいえ?私は何の取柄も無い、普通の高校生ですよ?」

「「「「「「嘘だっ!」」」」」」


 何故みなさんこちらを向いて、声を揃えて言うのでしょうか。
 とっても不思議です。

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