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4章

204 ヨミ VS ライラ

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 二回戦第二試合がブレイブの勝利で終わり、続く第三試合。

 注目の対戦カードは・・・

 予選五位 『【青き闇の凶刃】ヨミ』 《無所属》
          VS
 予選十二位『【太陽の姫宮】ライラ』 《太陽の王国》

 という内容だ。

 ヨミは一回戦で《死神の刃》所属のキラというプレイヤーを接戦の末に下した。
 相手は予選二十八位だったが、かなり強敵だったらしい。

 ライラは一回戦で予選二十一位のダモクレスというプレイヤーを倒している。
 こちらは終始優勢に戦いを進めての勝利だったようで。

 どちらも僕と戦ったことのあるプレイヤーなので、その実力は理解している。
 ここまでの二戦と違って激戦になることが予想された。


 そして始まった戦いは、予想通り・・・いや、予想以上の激戦だった。

 巧みな盾さばきでヨミの攻撃を受け流し、僅かな隙を逃さずに反撃するライラ。
 その隠密技能で姿を晦まし、意識の隙間を突いて懐に潜り込むヨミ。

 また、両者とも魔法や投擲での牽制を交え、初見の技にも上手く対応していた。
 その攻防において、二人の間に実力の差など殆ど無かった。

 だがそれでも、必ず決着はつくのだ。

 たったいま、片方がポリゴンの欠片となって爆散し、戦いは終わった。


『・・・・・・』

『・・・システマ君、勝利宣言を』

『っ、決着っ!! 息つく間も無い激戦の末、勝利を掴み取ったのは!
 この人、ギルド《太陽の王国》所属、『【太陽の姫宮】ライラ』選手っ!!
 皆さん、熱い戦いを見せてくれた両選手に惜しみない拍手をお願いしますっ!』


 システマの勝利宣言が発された直後、会場は大いに沸いた。
 両者、死力を尽くしたといっても過言ではない戦いぶりに、多くのプレイヤーが心を奪われたのだ。
 勝者であるライラだけではなく、敗者であるヨミにも、賞賛の声があちこちから聞こえてくる。

 ライラのHPはレッドゾーンに突入しており、残り数ドット。
 出血のスリップダメージで今にも死に戻りそうだ。

 係員が慌ててライラに駆け寄る姿がここから窺えた。
 ここで回復が遅れてライラを死に戻らせようものなら、観客席が非難の嵐になるのは分かりきっているがゆえの焦りだろう。
 それに、純粋に死に戻らせたくないという思いもあるだろう。

 勝利したライラは決着した瞬間に地面にへたり込んでいたが、回復を受けて立ち上がった。
 そして観客に向けて、誇らしげに胸を張りながら手を振った。

 その視線の先には・・・《太陽の王国》メンバーが居る。
 ギリギリの戦いで勝利を掴み取れたのは、勝利に賭ける想いの大きさ故、か。
 自分を逃がしてくれた仲間の為にも、是が非でも勝ちたかったのだろう。
 前の試合での精神的消耗の差もあったかもしれない。

 ・・・後でヨミをフォローしておこう。
 ああ見えて負けず嫌いだからな、あいつは。

 会場内の控室に死に戻っているはずだが・・・どこかで会えないかね?


『解説のエフエスタさん、如何でしたか?』

『とてもいい戦いでした。ついつい見入ってしまって、解説の仕事をほとんどこなせなかった。本当に、FSOを作ってよかったと思わされました!』


 さて、ヨミを探しに行こうかな。
 ヨミはB-1番だから控室は、と・・・。









「・・・何ですか?無様な私をわざわざ笑いにきたのですか?」

「あははははっ!負けてやんの!!」

「本当に笑いましたよこの人っ! いや寧ろ馬鹿にしてますよねそれ!?」


 控室から出てきたヨミとタイミングよく遭遇した。
 そうしたらいきなり、睨まれつつ自嘲気味な表情を浮かべられた。

 ・・・しからば、この反応が正解だろう?

 個人的意見なので異議は認める。
 でも、反省も後悔もしていない。


「くくくっ、あのクールなヨミが涙目になってるし・・・!」

「余計なお世話ですっ!!なんで更に傷口を抉りにきてるんですかっ!」

「ん?何だ?もしかして・・・なぐさめてほしかったのか?」

「なっ・・・適当なことを言わないでもらいましょうか!!」


 適当、ねぇ・・・。
 なぐさめられるのを期待しつつ、いざなぐさめられたら悪態をつく。
 そして、僕になぐさめられる情けない自分に対して更に自嘲していただろうに。

 そんなに赤くなって否定せずとも、ちゃんと分かっているさ。


「まあまあ、なぐさめてほしいならそう言ってくれれば、な?」

「っ、死ねっ!!」


 ヨミが短剣を抜いて斬りかかってきた。
 いやいや、大事なことを忘れてないか?


「残念でした!ここは町中なのでダメージを与えられないぞ!」

「くっ、このっ・・・町の外に出なさい!キルしてあげますっ!!」

「嫌に決まってる。キルされると分かってて外に行く訳ないだろ?頭大丈夫か?」

「んなっ!?」


 ヨミの顔は羞恥と怒りで真っ赤になった。
 殺してやりたいのにそれができないせいか、プルプルと体を震わせている。

 いい具合に仕上がったし、締めといこうか。


「ま、そういう訳で、今度一緒に狩りにでも行こうか。キルできるチャンスがあるかもしれないぞ?」

「ええいいでしょう!その誘いにのってあげます!せいぜい、首を洗って待っていることですね!」


 ヨミは了承の旨を言い放って、背を向けてその場を後にした。

 ・・・ま、いい感じに気持ちを切り替えさせることができたんじゃないか?
 効果のほどは分からんし、失敗してても責任は負いかねるけど。

 さ、客席に戻ろうか。


「・・・アスト!」

「うん?」


 後ろから声が聞こえたので振り返ると、ヨミが戻ってきていた。


「っ・・・あなたが負けて落ち込まれると狩りの時に面倒ですからっ、次の試合からあなたを応援してあげます!精々、油断しないことですっ!」


 言うだけ言って、僕の返事も聞かずに再び走り去ってしまった。


 ・・・それ、なんてツンデレ?

 ・・・・・・ごちそうさまでした。

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